団長への別れ
俺は二つの魔法を唱えた。
「永遠の夢を ”ナイトメア” 」
「永久の闇を ”ダークネス” 」
一つ目の魔法は死ぬまで悪夢をランダムで見せる魔法、しかも夢の中で受ける痛みを現実のように感じる魔法。二つ目は別空間を作り出し幽閉させる魔法。
エヴァは殺してくれと頼んできた。しかしただ殺すだけでは許せない。なので、悪夢と死ぬまで出られない暗闇の二つをプレゼントしたのだ。
目の前からグロークが消える。エヴァが俺を見て説明が欲しそうな・・・勘違いかもしれないが説明した。
「グロークはまで殺してないよ」
「な、なぜじゃ?」
エヴァが死んでない事を不思議に思ったのか、顔を俯かせ聞いた。
俺はその表情を見て苦笑いをしながら説明を。
「単純に殺すのは簡単で一瞬だ。でも俺の掛けた魔法で一生続く悪夢、一生続く暗闇の中で過ごさなければならない。しかも悪夢のほうは夢で受けた痛みが現実のように感じる、もちろん夢で気絶することなく。そんな状況が一生続いたらどうなると思う?」
「ん~・・・童ならとても耐えられん・・・・。」
エヴァは口を閉ざし俺の言った言葉をさらに想像すると顔を恐怖に歪ませた。
「まっそうゆう事。最後には自分から死にたいと思うだろうな。でも死ねない。それが自分の命が尽きるまで続く」
エヴァはさらに顔を歪ませ、その後苦笑いをしながら。
「それはきつすぎるのじゃ。しかし本音を言えばいい気味だと思う」
ふっ。 俺達二人は笑い声がもれた。エヴァの笑顔を見ると心の怒りが落ち着いてきて元の姿に戻る、後ろで残念そうにする姿を見たので一応聞いてみると。
「バッカス様の変化したお姿はどんな宝石よりも輝いており、神をも凌駕するようなその存在感に感服しておりました・・・今のお姿もどんな者よりも美しいのですが、先ほどのお姿に惚れ惚れしてしまい・・・」
セレナからの猛烈な褒め言葉に照れてしまった。元々こちらの世界に来るまでは容姿を褒められるなど一度もなかったので褒め言葉にはかなり弱かった、しかもかなりの美女に褒められるのは悪くない。むしろ気持ちがいい。
しかし照れてにやけている姿を見たエヴァに抓られ現実に戻された。それを見たセレナの顔から笑みが毀れる。
セレナの笑顔を見るのは初めてな気がした俺達の顔もさらに笑顔になった。
そんな微笑ましい時間が過ぎて行った。
一瞬だが気持ち和む時間を過ごしたが、俺にはまだやることが残っていたので、エヴァとセレナはジハード達の待つエヴァの部屋に向かわせた。
俺は本館へと続く通路の前までエヴァ達を見送り、その後に貴族会議室に向かった。そう貴族たちの殲滅だ。
グロークを殺し怒りは収まっているが他の反逆者を許すつもりはない。グロークのような生き地獄を味合わせるつもりはないが生かすつもりもなかった。もちろん騎士達も同様だ。
貴族会議室に向かう途中、警邏中の騎士達を一瞬で、痛みも感じないほどの速さで殺しながら会議室を目指し、そして到着だ。
中に入ると貴族達十数人と騎士達、そして倒れているステファンを見つけた。貴族の中に話したことのある者もいるが全て殺し消滅させた。
ステファンの死体のみ残し他全ての者をきれいに灰にした後に、ステファンを優しく持ち上げエヴァの部屋に戻った。部屋に戻った俺をエヴァ達が、一瞬嬉しそうに出迎え傍に来るが俺の手で抱えられているステファンを見て、死んでいる事に気がつくと悲しさのあまり涙を零す。
一番親しく、一番彼の事を知るグレンが前に出る。
そして遺体の前でこれまでの記憶を語りだした・・・
入団当初の厳しい訓練
戦争で助けられた事
戦争が終わった後、酒を飲み明かした事
そして、最後に団長が命を賭して逃がしてくれたこと。
「だ、団長・・・ありがとうございました」
グレンは泣きながら、しかしハッキリとした口調で最後、ステファンに大きくお辞儀をした。そしてジハードやエヴァもステファンに別れの言葉を言い頭を深く下げた。そして俺も。
「ステファン騎士団団長、あなたの意志はグレン副団長が継ぐ、これからはゆっくりと休むが良い。本当にありがとう」
「お主の最後の戦グレン達から聞いておる。大義であった。ありがとう」
「団長のお願い叶えられた。今目の前にいる、団長の大切にした者の命が救われた。全て団長の御蔭だ。命を賭けて道を作った御蔭だよ。エヴァにこうして会えるのも・・・ステファン騎士団団長! ありがとうございました」
俺とエヴァは(別々に)グレン達から団長の事は色々と聞いていた。団長がどのようにグレン達を逃がしたのか、その命を顧みない行動を事細かに。
ステファンの遺体に別れの言葉を告げた後にグレンに確認し遺体を焼いて埋葬することになった。俺は魔法を唱えた。
「魂に慈愛を ”ミカエル”」
ステファンの体が金色の炎に包まれた。まるで天に召されるように。
灰になったステファンを綺麗なツボに入れると。
「ステファンを童に託してはくれぬか?」
エヴァからの相談でも流石にそれは・・・この世界でも死者を火葬、埋葬するのが習わしなのだ。
しかし、グレンがエヴァの言った意図を聞いた。
エヴァはグレンの問いに立ち上がり、そして悲しい顔を、まさに新進気鋭な姫のような表情に変え答えた。
「このベル王国は今日を持って崩壊した。しかし今日を持って新たな国家が誕生するのじゃ。そしてその国家を、そして民達をステファンにこれからも見届けて貰いたいのじゃ」
俺にはエヴァのしたい事が分かってしまった。(いやーグレン許すのか?)
「それで姫様は団長をどのように?」
そりゃー普通はわからんよな・・・ダメだと思うぞ・・・
「空からステファンの灰をこの国家に撒くのじゃ。それでステファンは新たな国家の守護者になるのじゃ」
「・・・・。分かりました。姫様の御心のままに」
了解されたよーーーーー。
「うむ。バッカス、童を連れて空へ飛んでくれ」
唖然としている俺にエヴァが言った。俺もまさか素直に了承されると思わなかったが、エヴァの意見には素直に賛成できたので、エヴァを抱えて城の上まで飛行した。そして・・・
「ステファン、ここから国家は新たなものになる。童とバッカスでより良い国家を築くと誓おう。その為にはお主の力も借りたい。天界から童達の事を見守ってくれ」
エヴァはそう言うと俺に顔を向けた。俺はそれが合図と言わんばかりにベル王国の・・・いや新国家の空を飛ぶ。エヴァはその空でステファンの灰を撒いた。
撒いた灰は夕日に照らされ、まるで金色に輝いて新たな国家の誕生を祝福してるかのようだった。