グロークの野望
部屋に入るとランドがそのままグロークの元へとエヴァを無理やり連れて行く。
グロークの目の前に連れて行かれたエヴァが口を開こうとすると。
「ご機嫌麗しく、エヴァ様はいつ見てもお美しくございます」
グロークが醜い笑みを浮かべながらエヴァより先に言葉にした。
醜く歪んだ顔のグロークを睨めつけ
「思ってもない事を口にせんでも良い。お主の目的はなんじゃ」
「思ってないなどと、そんなことはございませんよ」
グロークはエヴァを下から上まで舐めまわすように見た。そして・・・
「私の妻になるのですから、美しくないわけがございませんよ」
エヴァは唖然とした表情になるが、その顔を見てグロークは続ける。
「今しがた貴族会議によって、私が国王となることが決まりました」
今こやつはなんと? -- 妻? 国王だと!?
エヴァは更に困惑する。状況の整理がつかない、グロークが何を言っているのか。
貴族会議での決定は国としての決定と同義。いくら王国の姫であろうがその決定に異議を申し立てることは難しく、よほどのことでない限りその決定に逆らうことはできない。
エヴァは困惑していた、しかし何かを口にせねばとも思っていた。しかし安易な言葉がこぼれた・・・言っても何の意味もない言葉と知っていながら。
「わ、童には婚約した相手がおる・・・」
「それは聞いてますよ。どこから来たかも分からぬような男だと。しかしエヴァ様の・・・」
グロークは一旦言葉と止めるとさらに顔をニヤケさせ言葉にした。
「エヴァ、お前の決定権など最初っからなかったのだよ」
もはや自分の妻のように、いや自分よりも下の人間に接する態度、言葉でエヴァに言った。
エヴァは最初にこの部屋に入った瞬間から自分の見方は一人しかおらず、他すべての貴族、騎士がグロークに従っていると分かっていた。しかしエヴァはこの男に服従を、そして妻などには決してなりたくない。屈服するぐらいなら死を選ぶと。
「お主の妻になるぐらいなら死んだほうがマシじゃ! お主のような下賤な輩の作る国など見ても楽しくないわ」
エヴァは怒りのままに叫んだ、自分の感情を押せえようともせずに。しかし・・・
「まぁそう言うとは思ってた。私の妻となる決心がつくまでは牢に入れ決心がつくまで教えこませてあげよう」
グロークはそう言うとランドにエヴァの口を縄で塞がせ牢に入れるよう命令する。
そしてランドがエヴァを牢へと連れて行くと、今まで口を塞がせていたジハードに目をやる。そしてジハードの傍にいた兵士に目で合図すると口を塞いでいた縄をほどかせる。
「グローク、貴様絶対に許さんぞ」
「お前は俺の国には必要ない! ここで死んでいくお前の叫びをここで気持ち良く聞かせてもらおう」
「姫様だけには近づくな!! 姫様はバッカス様と婚約しておるのだぞ」
「そんなことは誓も立てていない、ただのおままごと。それにあの男を殺してしまえば問題あるまい」
グロークは興味を無くしたように騎士にジハードを殺せ、と命令する。
ジハードの隣にいる騎士は剣を抜き空高く剣を振りかぶった。
しかしジハードは自身の死など関係ないがごとくグロークに話しかけた。
「貴様の目的はなんだ!! 王になる事だけが望みか」
グロークは今にも切り殺されそうなジハードを見ながら話す。自身の野望を。
「冥土の土産に聞かせてやろう。私の最終的な目的を」
グロークはさっきまでとまるで逆の、真面目な顔になり語りだした。
この世界には人間、エルフ、亜人、ドワーフの他にもう一種の種族がいる。
全種族の頂点に君臨し、支配している種族が。
神種族。
文字道理、この世の神の事を指す。神は絶対の存在であり、おとぎ話などの架空の存在でもない。
そして、神種族はもとは、人間、エルフ、亜人、ドワーフなどの種族だった者だ。それらの種族から神へと転生する。転生条件は 世界の王の誓 をする事。
その誓いをできる人物は全ての国の王の中でもただ一人、全種族を統一した者のみだ。
その事を知る王も少なく、エヴァもそのことは知らない。
グロークはある人物からその情報を得て、城の隠し通路を発見、中に入り古い書物を見つけた。
その中に書かれていた事が神への転生条件、そしてその方法。
全種族の統一は、ベル王国、バール王国、アルパイン王国、ガゼイン王国の四つの王国の神殿で 王位の誓 とは別に 神への誓 をする事。そして最後に、ラカタ王国の神殿で 世界の王の誓 をすることで
神への誓、世界の王の誓は王国の王でなければならない。
グロークはエヴァとの 王位の誓 をしなければならない理由だった。
そして 王位の誓 での裏話。
王位の誓は何も愛し合ってなければできない訳ではない。王の系譜の子を宿していれば両者の承諾が無くても誓は立てられると。
ジハードは戦慄した。愛し合っていなくとも、子ができてしまえば。これを聞いたからだ。
「貴様、まさか無理やり子を作る気か!!!!」
「それしかあるまい。エヴァが言っても聞かないのは分かっておるからな」
「き、き、きさまーーーーーーーー。殺してやる、呪ってやる。俺が死んでも地獄からお前を・・・」
ジハードは怒りで頭の中が真っ白、いや真っ黒に心の中までも。
そして誓った、死してもこの男を呪ってやると。この男だけは・・・・
最後にジハードは祈った。誰でもいい、この男を殺してくれ、姫様に近づく前に。誰に祈ったのかも分からぬままに。
しかし頭の中で一人の男の顔が浮かぶ。そして叫んだ、枯れた喉を震わせ。
「どうかこの男を殺してくれーーー」
ジハードは叫んだ。叫んでも都合よく来るわけが無いと知っていても、それしかできないと知っていてもだ。
グロークはそんな姿を見ると笑いながら言った。
「あの男が来ても何もできんよ。我国の騎士団のほぼすべてがこの部屋と部屋の外に配置されておる。まぁ団長とその側近は言うことを聞いてもらえず牢に捕えておらぬがな」
しかしジハードは絶望しない、恐怖で顔がひきつる事もない。むしろ多少の笑みを零し、自身の死を前にしてもだ。
彼は誓った、この男の死を。
彼は祈った、ある男に復讐を。
彼は叫んだ、男の名を・・・バッカスの名を。
声が続くかぎりに・・・・
ジハードはバッカスとは親し中ではない、彼の事をあまり知らない。当たり前だ、バッカスがこの世界に来てまだ数日しかたっていないのだから。
しかし、あまり知らない男なのになぜか信頼はしている。なぜ?
姫様がその男を知っているからだ。
自分が忠誠を誓っている姫様がその男を愛しているから。
ジハードはその男、バッカスを信用、信頼するにふさわしい、その男に忠誠を誓ってもいいと思えている。
彼は見た。遠くからではあるが、モンスターの襲撃での彼の活躍、戦いを。
人々が逃げまどい。あまつさえ貴族までも安全な場所に避難した。
モンスターで埋め尽くされた大地。一撃のもとに殲滅した神々しいほどの炎の魔法、青く輝く炎の魔法。
町の民達も彼の事を英雄と、自分でさえ男として尊敬できる男。前国王、エヴァ以外に忠誠を誓いたい男。
だから彼の名を叫ぶ。ジハードが知る中で最強の男の名を。バッカスの名を。
グロークはそんなジハードを目を細くして見た後騎士に一言、「やれ!」 興味が無い、いやゴミを見るようなそんな冷たい目で、声で騎士に命令した。
まるで人の魂を吸い取るような、ギラギラと輝く剣を騎士は力いっぱい振り下ろす。人の首をまるで野菜を切るように。一瞬で意識を刈り取るような一閃。
ジハードは満足だった。彼の名を叫び、彼に祈り、彼に復讐を頼み。心の中での願いだったが彼に届いた気がした。いや届いていると確信していた。そんな思いだった。だから自身の死を受け入れる事が出来た・・・しかし、己の死が訪れない。
ジハードは目を開ける。目の前のありえない光景を・・・・・・。