貴族の暴走
俺達が森に旅立った後、場内では貴族会議が開かれていた。
会議の内容は、今後のモンスターへの対応、町の警護についてだ。
長く白い髭を触りながら会議内容、そして立案内容を説明する貴族のジハード・マルチネス。
ジハードは前国王の側近だった男で貴族内でもそれなりの権力を持っており、かつエヴァに忠誠を捧げている人物でもある。
「今回の会議は、こちらの内容でよろしいか。
早急に対応しなければならない問題として、破壊された民家などの復旧作業そちらを早急になんとかせねばならんと考える」
他の貴族の合意をみて話を続ける。
「では、私からの案としては町の復旧作業に騎士達を出そうと思う。その指揮を姫様に執ってもらおうと思うがどうだ」
「それはいささか軽率なご判断では? 姫様はまだ若く、姫様の父君であられる前国王陛下のような的確な判断ができないと思いますが。まぁ町の復旧作業ぐらいの指揮は執れるかも知れませんが、ですが女性が指揮をしたのでは騎士団の士気も上がらないでしょう。逆に民達の不満を煽る行為だと思いますが」
反論したのは貴族の中で最も若く四十歳の男、グローク・モリス。
グロークの見た目は、髪は黒くそこまで長くない、後ろに流す感じの髪型、体格もそこそこあり、着ている服もかなり高級な服装だ。
「いや、姫様は成人され、騎士団との交流もなかなかにされておる。かつての国王陛下とまでは言わぬが、姫様も人望はかなりあると思うが」
ジハードはグロークを見ながら言うと、グロークは「人望ですか」と笑いながら呟いた。
ここから貴族会議は思いもよらぬ展開に、いやジハードは予想していた展開になる。グロークの言葉で。
「ではジハード殿、今の姫様に忠誠を誓っている者がこの中の貴族にどれほどいるとお考えです?」
「お主以外のすべてと言いたいところだが」
ジハードはグロークを睨むと周りの貴族達を見た。
「ではこの場にいる貴族の皆様方に聞きましょう。姫様に忠誠を誓っていない方はご起立お願いします」
グロークはニヤケる顔を隠そうともせずに貴族達に言った。
ジハード以外の貴族が全員立ち上がる、さすがにこの状況にジハードも驚きを隠せない。姫様に忠誠を誓った貴族は自分の他にもいた、自分も姫様に忠誠を誓った貴族と密に交流を深めていたと思っていたからだ。
しかし現実は誰もいない。
驚くジハードを見てグロークは言葉を続ける。
「ありがとう。ではさらに、この国を私が治める事に、いや、私に忠誠を誓う者以外は座れ」
この状況で座る者などいるはずもない。
「では同時に私がこの国を治める王になるとゆうことでよろしいかな」
歪んだ笑みをこぼしながらジハードを見る。
ジハードはここであることに気がつく。グロークが王になろうと思ったら姫様が必要なことに。
この世界で王国の王位に就くには ”王位の誓” という誓を立てなければならない。それは誰でも誓を立てられるという物ではなく、国を作る際、ただ一人ができる事だった。その誓いを破り、王位に就くと神からの神罰が町中に降り注ぐこととなる。かつて十あった国の半数が誓を破り破壊された。誓を立てた者の系譜でしか王位を継げないのだ。
しかし貴族、平民などでも王位に就ける場合がある。
王家の者との婚約だ。
王家の婚約とは、城の中にある神殿で婚約者同士の血の誓を神の前で行われ、神からの受諾をうける。
そうなるとジハードが王位に就くには現在の王の系譜ただ一人の、姫様との婚約が必要になる。
ジハードは動揺を隠せず、まさか姫様に何らかの行動を起こしたのでは? と・・・・
「グローク、おぬし姫様になにかしたのか」
グロークは笑いながら
「まだ何もしてないですよ。ですがそろそろ・・・」
部屋のドアがノックされた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
時間を少し戻し朝方の出来事。
エヴァは俺達を見送ると険しい顔で貴族会議を開いている部屋に向かった。
実は、ジハードから他の貴族が不穏な動きをしている事を聞いており、ジハードの力だけでは抑える事が厳しくなっているので、今回の貴族会議に出席し見極め、今後についての対策をしたいと頼まれていたからだ。
王城は本館と、本館の両側に別館があり、本館が五階建て、別館がそれぞれ三階建てである。一階の天井がかなり高いため城の見た目もかなり大きい。
貴族会議は別館の最上階、三階で開かれていた。
そして今エヴァが歩いているのは本館三階の通路。別館へは本館三階から移動するしか入る方法はが無いように作られていた。
そしてエヴァの周りには専属の執事、メイド、騎士が数名で警護している。
今まで場内では騎士の護衛が就いていなかったが先日の襲撃から騎士を就けるよう貴族に言われた。
「城内でもこれだけ人を連れて歩くのは少々面倒じゃぞ」
エヴァが文句を呟く。
「すいません。貴族会議で決まってしまった事なので」
執事は頭を軽く下げながらエヴァに申し訳なさそうに謝る。
はぁ、エヴァはため息を吐きながら しょうがないのぉ と心に思い、今回の貴族会議で護衛の解除を申請しようと決めていた。
そもそも貴族会議にエヴァが出席するのは初めての事だった。
貴族会議を開始した時から会議には貴族のみで話をすると決められていたからだ。ジハードやその他数名の貴族が反論したのだが結局、姫様抜きでの会議と決まってしまった。
では今回はなぜかと言うと、グロークや他の貴族からも姫様のご意見が聞きたいと提案されたからである。 不審に思ったジハードはエヴァに護衛の騎士を就ける事を決めたのだ。
エヴァ達はそのまま別館へと続く渡り廊下を歩いた。がしかし前から数十人の騎士達に道を塞がれ、後ろからも騎士達が現れた。
「何をしておるのじゃ」
「姫様、どうか抵抗しないようお願いします」
エヴァに同行した騎士、ランド・バートが裏から言葉にした。
メイドは訳が分からない状況に脅え、執事は驚くがすぐに怒り口調で話しかけた騎士に「姫様に無礼であろう」 そう言うが。
スパーン
エヴァに話しかけた騎士が剣を抜きそのまま執事の首を刎ねた。
執事の首が地面に落ちる。メイド達の表情は脅えから唖然とした表情に、しかしエヴァの表情には脅えた様子もなく騎士を睨むような目で見る。
「姫様、我々は躊躇しませんのでおきおつけください」
騎士はニヤリ顔でエヴァに伝える。
唖然としたメイド達が今度は悲鳴を上げたが、そのメイド達も邪魔という理由で首を刎ねられた。
エヴァはランドに怒りの目を向けながら。
「血迷うたか、自分たちが何をしておるのか分かっておるのか」
「私たちは姫様に忠誠を誓った覚えはありません。今ここにいる騎士はあるお方にに忠誠を誓った同志です。」
「グロークか。」
「その通りでございます。あの方こそこの国を治めるべきだと考えております」
エヴァはグロークが反旗を起こそうとしていることをジハードから聞いていた。
その為、注意だけは怠らないよう言われていた。そしてモンスターからの襲撃を受け混乱している今を逃すはずもない事を予想していた。しかし分からないことも多くある。
「反旗を起こした貴族はグロークだけではあるまい。反旗を起こした貴族はどの程度おるのじゃ」
「ジハード殿意外に三名、それ以外の貴族はすべてグローク様に賛同しております。姫様・・・いや、エヴァ大人しく我々に同行しろ」
ランドはさらにニヤケ、目も奴隷を見るような目でエヴァを見た。
さすがにエヴァもここで抵抗しても無駄だと思っているし、何を言っても聞いてはくれないと分かっていた。
ランドは縄を出し、エヴァの両手を後ろで縛り別館の貴族会議が行われている部屋の前まで連れて行った。
ドアをノックし中に入ると、一人を除き貴族が全員立っていた。
そしてこちらを笑いながら見るグロークの姿・・・・