脱出、そして…
『これでこの子に思い残したことはありません。…あなたには感謝してもしきれません』
成り行きみたいなもんだが、異世界に来てしまったおれに目標ができたんだ。感謝するのはお互いさまだ
「それよりこのあとどうするかだが」
『ここに留まるのはもちろん危険です。わたしがヒュームの町の近くまで送ります…その後はおまかせしてしまうことになりますが…』
充分だ。言葉も通じるらしいし、髪の色はまぁ…隠せればなんとかなりそうだ。一つ懸念があるとすれば
「いくらヒュームの町でも竜の子供を連れているのは目立ち過ぎないか?」
『…この鱗を持っていくと良いでしょう』
そう言いながら顎あたりの鱗を1枚剥がして渡す。手のひらよりやや小さな鱗はそれだけでアンティークのような美しいものだった。なのに人の力では容易に傷つけることは敵わないであろう、魔力を感じとれる
『竜の鱗は真に信頼した者にしか渡しません。わたしの鱗を見せ、事情を話せばヒュームならば問題なく受け入れてくれるでしょう…わたしの白い身体は有名なはずですから』
信頼の証ってやつか…これを見せつつ子竜を託されましたといえば大丈夫、と
『あと髪は隠しておいたほうがよいですね…外套になるものならさっき倒したオーグルのものが近くにあるでしょう』
「…よし、なら早い行動をしたほうがいいな。出よう」
結局鞄や元々着ていた服、携帯にいたる全ては見つからなかった。つまり…元の世界との繋がっていたものはほぼないと言っていいだろう。まあホームシックとは無縁なおれに問題はない
ミスティラが両手を組み、座るよう促してくれる。おれはクルクスを抱え片手でミスティラの腕に掴まる
『行きますよ』
翼を大きく広げ、勢いをつけるためにゆっくり2回羽ばたいた。ゴゥッという音とあっという間に小さな円になる足元の光景に驚いた…はえぇ…
ほんの数秒だった。上昇する動きは止まったものの、あまりに眩しい太陽の光が視界を遮る。明かりが射し込むとはいえ暗い洞窟からだったからな、きっついです
ズンッ…と今でた穴の近くに着地する
『ここから南南西…ヒュームの足ならおよそ7日で王国に着きます…今から行く町での生活になれたら目指すのも良いでしょう』
ミスティラがが説明してくれてはいるのだが、目の前の壮大な景色はおれから思考を奪うに充分すぎた
今いるのは切り立った岩でできたいくつかある山の一つ…10階くらいのビルの高さはあるんじゃないか?なるほど、ヒュームじゃまずたどり着けないだろう
周りは森。森。森。様々な鳥の声が聞こえ、うっそうと繁っている様は熱帯のジャングルが記憶の中のイメージに近い。…だが植物のサイズがおかしくないか。葉っぱなんか軽くおれよりでかいような
遠くの方には草原が広がっていき、さらに遠くには高くそびえる山々があった。山の一つは雲突き抜けてんじゃないかというくらいに頂上がわからないくらいでかい
『キュルル♪』
高いところでご機嫌なのかクルクスがパタパタ羽ばたく。ちょ、まだ飛べないでしょ!あばれないで!
撫でてなんとかなだめる。そのうち飛ぶ練習とかさせなきゃいけないな…
『さて…このすぐ真下くらいにオーグルたちの死骸があるはずです。降りますよ』
ふわっと滑空し、お尻にぞくっときたがミスティラが両手で持ってくれているので問題ない
なんなく着地し、地面を踏みしめる。…と目に入ってきたのはなかなかに凄惨な光景だった。
戦闘の跡なのだろう木々は何本も折れ、根元から倒れているものも。地面や山肌には始めに聞こえていた爆発音の正体であろう陥没や焦げたあとが残っていた
そしてそれら以上にエグいのがオーグルと呼ばれる奴らの死骸だった。力任せに吹き飛ばされたのか木や山肌に叩きつけられたもの。炎にやかれたのか焦げて炭になっているもの…四肢や腹が裂け、錆びた鉄のような血の臭いがあたりに立ちこめている。死骸はざっと15体はあるだろう
「ちょっとすま………うえぇぇ…」
ゲームやテレビの映像ではない本物の戦闘のあとの光景に、今までそれなりに冷静でいられたおれも許容範囲を超えてしまった
クルクスが心配そうに首筋に鼻を刷り寄せてくる
「大丈夫…大丈夫だ。一度見ちゃえば慣れるさ」
言いながらクルクスを撫でてやる。これからこんなことも当たり前になるんだろう。いい覚悟をする機会だったと、前向きに捉えよう
『…もう大丈夫ですか?』
「ああ…もう平気だ」
ミスティラは黙って見守ってくれていた。ここで弱音を吐いちゃあ安心させられないからな。ここは男をみせるぜ
「かなり激しい戦いだったんだな…無事な外套はあるか?」
『このあたりなら使えそうでしょう』
そう言って3体ほどドササッとおれの前に落とすミスティラ。…自分を襲った相手だもんな、そら雑にもなるか
ひとまず3体のなかの一体から外套を剥ぎ取る。オーグルの顔は…猪だな。猪を擬人化して毛を黒く染めて、髪もドレッドヘアー?みたいな感じ
こいつの外套はちょっと血が着いてるが目立つほどじゃない。念のためもう一体の…こいつはだめだ臭いがひどい
3体目の外套も破れていたが、こいつはリュックサックの様なものを持っていた。背負い袋と言った方がしっくりくる。大きさも充分だし使い込まれてはいたが汚れもほとんどない
クルクスを隠して背負うに丁度よさそうだ
「クルクス…よし呼びやすく愛称をクーにしよう。クー?人目につく普段はこの中に入れて運んであげたいんだ…嫌かな?」
背負い袋を開け、クーに見せながら話しかける。スンスン臭いを嗅ぎ、首を突っ込んだりしてみる。しばらくして袋の中に入りもぞもぞしたかと思うと、肩から上をだして身体を落ち着けた。なんとか気に入ってくれたようだ。
これで外套をリュックごと羽織ればクーも隠せるからより良いだろう。クーも顔だけおれの顔の横から出せるし息苦しくないな。いかにも旅人な格好になり、さっきまでの悪い気分も、盛り上がるテンションで帳消しだ
投稿ペースがこれでよいのかイマイチわかっておりませんが、なにも言われければこんな感じで。では