七話目
考えよう。まず、明菜からだ。明菜は何かに気付いて秋斗を呼び出した。得意なものがあるかと聞いていたけど、何が得意なんだ?テストのあれか?それはなんだか違う気がする。それじゃあなんだ。そのあと目を見ない話になって、秋斗に性格が悪い、と言われていたような気がする。そうなると明菜は秋斗が僕たちの演技に端から気が付いていると踏んで煽ったのか。なるほど、さすが明菜だ。ということは本当に秋斗は初めから僕たちの演技を見抜いていて、その演技を取っ払った明菜に合わせて地を出したということか。マジかよ。明菜のそれを一瞬で見抜くなんて明菜よりも優れてるんじゃないか?
「アレン」
「え」
紅茶の深い色を見ながら考えていると突然明菜の声が僕をこちらへ呼び戻した。思わず顔を上げると秋斗もこちらを見ている。
僕が嫌いなあの目が四つ。見下したような、哀れんでいるような、あの目。勝手に体が反応して、少し俯きそうになった。
「秋斗にごまかしは通用しない。変な駆け引きも嫌だし種明かしをしようかと思うんだけど」
「あ、うん。明菜がよければそれで良いよ。この任務を仕切っているのは君だし」
「へぇ。お前偉いのか」
「褒め称えてもいいわよ?」
秋斗はテーブルにひじを付いて少しだけ感心したように呟けば、明菜を見た。途端誇らしげに口の端を持ち上げた明菜が軽く腕を組んでふんぞり返る。僕が呆れる横で秋斗も心底呆れているようだった。
「明菜」
「おっと。そうじゃなかったわね」
「まて、俺も何となく予想してたことがある。お前の話長そうだし、おれの解答があってるか教えてくれれば良い」
「…この性格の悪さは資料に無かったわよね、アレン」
「君のもね」
僕はふぅ、と一息ついて紅茶のカップを口元に付けた。明菜が、そうね。なんてその気無く呟けば秋斗が足を組んで頬杖を付きなおした。資料にも記されていたけど、なんというか、やさぐれている。これは真面目云々の話ではない。この国にいるゴロツキのようなものだ。
そんなことを考えていれば秋斗がゆっくりと息を吸った音がかすかに聞こえた。秋斗の話も割と長くなりそうだ。
「俺は、高校の入学式に突然ここに来ることを知ったけど、恐らくもっと前から決まっていたと思う」
「あら。なぜ?」
「前に塾に通う為のテストだかなんだか理由つけて親父にテストをさせられたことがある。まあ普通に考えりゃわかるけと、塾の質問にしては問題がおかしかった。問題と言うより半分以上は質問に近かったしな。それに今お前たちが言ってた資料っての、そういうのに使うモンだったんだろ?所謂素性調査ってやつ」
秋斗は少し怒った口調で言った。机を指先でコンコンと突っつく。明菜は自分が入れた紅茶を嗜みながら秋斗の話を終始にこやかに聞いている。返事をする気は無いらしいが。