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お兄ちゃんは本当は私にしか興味がない

 通路には灯りがなく、ゴツゴツした岩場を転ばないように歩くのに神経を使った。


 汗が吹き出してくる。一歩進むにつれて、洞窟の中の温度が上がっていく。まるで、灼熱のマグマへと向かっているようである。


 いや、比喩ではなかった。ダンジョンで俺を待ち構えていたのは、紛うことなき灼熱のマグマだった。



「おい、これはなんだ?」


「マグマだ。ハワイのキラウエア火山からの直輸入だ」


「どういう輸送手段使ったんだよ……」 

 

俺の目の前ではマグマの海がグツグツと煮えたぎっていた。20mくらい先にようやく向こう岸が見える。


 

「まさか、このマグマの中を向こう岸まで泳いで行けってことじゃないだろうな?」

 

「できるのか?」

 

「無理だ。溶ける」

 

「もちろん、私はお前にそこまでのムチャブリをする気はない」


 突然地面が大きく揺れた。激しい縦揺れである。俺は立っていられず、その場にしゃがみ込んだ。


 轟音とともに俺が今いる足場から、向こう岸と繋ぐように、マグマの中から徐々に1本の道が浮き上がってきた。否、これは俺にとっては「道」ではない。他の人はともかく、俺はここを絶対に通れない。

 


「さあ、八鳳和生(やおかずき)、お前が宇宙で1番愛している妹を救うため、ここを通って、向こう岸までたどり着いてみろ!」

 

―無理だ。俺にはできない。

 めいりんのポスターが縦一列に隙間なく並べて貼ってあるところを、めいりんを踏みつけながら渡るだなんて、俺にはできない。


 

「おい、このマグマは何度くらいだ?」

 

 俺はおもむろに屈伸運動を始める。

 


「泳ぐ気か!?」

 

「めいりんを踏みつけて、心を灼熱で焼くよりは、身体を灼熱で焼いた方がマシだ」


 

「崇拝ぶりが恐ろしいな!?あくまでポスターだぞ!?」

 

「めいりんの魂はめいりんの肉体にはとどまらず、およそめいりんであるもの全てに憑依し、それらに神性を与えてるんだ」

 

「何その教義!?」

 

「とにかく、めいりんは俺の全てなんだ」

 

「おい、お前、自分が何を言っているのか分かってるのか?めいりんは11歳の子供だぞ。ロリコンの(そし)りを免れないぞ」

 

「俺はロリコンじゃない。好きになった子がたまたま子供だっただけだ」

 

「それはロリコンの常套句だぞ?」

 

「俺はめいりんがおばさんになるまでめいりんのことを愛し続けるぞ」

 

「おばさんになったら捨てるんかい!どうせ15歳くらいでBBAとか言い出すんだろ」

 

「その心配はない。めいりんは永遠の11歳だ」

 

「このロリコンめ。世迷いごとを言いやがって」

 

「俺はロリコンじゃない。好きになった子がたまたま永遠の11歳だっただけだ」

 

「言ってることが目茶苦茶だぞ?っていうか、めいりん、普通に老け顔だぞ」

 

「老け顔言うな!!普通にロリカワだわ!!」

 

「身近に八鳳真白(やおましろ)という絶世の美女がいるというのに……」

 

「身近過ぎるんだよ!!身近過ぎてDNAが共通してるんだよ!!っていうか、今、サラッと自分のこと絶世の美女って言ったよな!?」

 

「私は真白ではない」

 

「分かったよ。とにかく、俺はここを渡れない。絵踏(えふみ)はできない。別の試練を用意してくれ」


 俺はその場で胡座をかいた。もはや、座り込み以外の手段がない。


 

「お前が宇宙で1番愛している妹が死んでもいいのか?」

 

「その下りいつまで引っ張るんだよ!?」

 

「普段、ポスターにキスをしてめいりんを穢しているのだから、上を渡るくらいなんってことないだろう?」

 

「なんで俺とめいりんの秘密の逢瀬を知ってるんだ!?俺の部屋に監視カメラ仕掛けてるだろ!?……っていうか、キスは良いんだよ。ポスターはあくまでポスターだからな」

 

「教義が都合良く捻じ曲げられてるぞ!?」

 

「踏みつけるのはどう考えてもマズイ。めいりんを土足で踏みつけるなんて……」

 

―あ、ひらめいた。

 

 俺は立ち上がると、準備運動を再開した。

 


「まさか、本気でマグマに飛び込む気か?」

 

「そんな馬鹿なことはしないさ。唯一神(めいりん)だって、俺に死んで欲しいだなんて思ってないはずだ」

 

「漢字の当て方が完全にオワコンだぞ……」

 

 俺は上体のバネを使い、勢いをつけると、ヒョイっと逆立ちをした。 

 そして、右手、左手、右手と交互に前に出し、めいりんのポスターの上を少しずつ進んでいく。

 


「これだったら、めいりんを土足で踏まないで済む」


「お前、身体能力すごいな!?SAS○KE出たら山田○己よりも良い線行くぞ!?」


 もはやゴールは目前に迫っていた。まだだいぶ余力はある。逆立ちしながら腕を湾曲させ、最後のポスターのめいりんに口付けするくらいの余力が。

 


「きゃああああああああああ」

 

俺が最後のポスターに触れた瞬間、若い女の子の悲鳴が洞窟を包んだ。

 


「なんだこれは!?俺の下心がバレたのか!?」

 

「ハハハハハハ!!最後のポスターは、触れるとめいりんの悲鳴が流れる仕組みになってるんだ!!めいりんヲタクのお前は、そこを渡ることはできまい!!」


 俺はめいりんの悲鳴が轟く中、何食わぬ顔で最後のポスターを通過し、向こう岸にたどり着いた。

 


「え?なんで!?めいりんの悲鳴は平気なのか!?」

 

「その悲鳴、どこで拾ってきたのかは知らないが、地上波ゴールデン番組『めいりんのドキドキ初体験』第29話で、めいりんがバンジージャンプを飛んだときの音声だろ。言っておくが、めいりんは無類の絶叫マシン好きだ。その悲鳴は悲鳴ではなく、めいりんの歓喜の雄叫びだ」

 

「ヲタク怖っ!!っていうか、めいりんって地上波ゴールデンでレギュラー番組持ってるの!?ロリコン大国日本怖っ!!」


「向こう岸についたぞ。早く先に進ませろ」

 

 目の前の岩壁がガラガラと崩れ、人が通れるくらいの大きさの穴が出現した。

 

 真白の命のタイムリミットとされている時間までは、あと40分くらいしか残されていない。俺は暗闇に飛び込んだ。


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