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お兄ちゃんは本当は私のことをなんでも知っている

 洞窟を少し進んだ先は行き止まりで、そこでは何やら物騒な器具が異様な存在感を放っていた。



「これって、ギロチンだよな?」


 西洋の古い処刑道具の真上に設置されたスピーカーに向かって、俺は問いかける。



「その通りだ。とりあえず、首を置け」


「とりあえず、っていうか、首を置いた瞬間に俺の人生終わるよね?」


「大丈夫だ。ギロチンの刃は落ちないようにこちらで制御してある。お前がしくじらない限り、首がちょん切られることはない」


「しくじるって何を?」


「とりあえず、首を置け。ここで話しているのは時間の無駄だ。そうこうしている内に、お前の愛する妹の死が近付いているぞ」


 俺はスピーカーの指示に従った。スピーカーの声の主、真白(ましろ)は、俺を(あや)めようなんて思っていないはずだ。信頼しても大丈夫だろう。


 俺がギロチンに首を置いた瞬間、カタンという音がして、ものすごい勢いで、俺の首目がけて何かが落ちてきた。


 ―ええええ!?信頼してたのに!!??


 思い出が走馬灯のように駆け巡る。短い人生だった。まあ、しかし、他人を信じられぬまま生き延びるよりは、他人を信じて死ぬ方がマシである。来世は何に生まれ変わろうか。めいりんの下着が良いな。



「おい、目を覚ませ!色んな意味で目を覚ませ!お前はまだ死んでいない。首をギロチンに固定しただけだ」


 モヤのかかったような低い声は閻魔大王の声と紛うところであったが、それは間違いなく頭上のスピーカーから流れていた。


 俺はギロチンから首を抜こうと試みてみた。しかし、首は金具のようなものでガッチリと固定されており、ビクとも動かない。



「お前が生還し、さらには愛する妹の元へと一歩近づくためには、これから私が出すクイズに答えなければならない」


「クイズ?」


「これからクイズを100問出す。その内、51問に正解すれば、お前の勝ちだ。ギロチンから解放し、このダンジョンの先へと進ませてやる」


「半分以上正解すればいいんだな」


「その通りだ」


「もしも半分以上正解できなかった場合は?」


「もちろん、首チョンパだ」


「マジか?」


「男に二言はない」


「その慣用句って、自分を追い詰めるときに使うやつだよね!?相手を追い詰めるときに使うやつじゃないよね!?」


 しかも、お前、男じゃないだろ。



「では、早速始めるぞ」


 まあ、大丈夫だろう。こう見えても俺は本の虫だ。クイズで出題されるような一般教養、雑学には精通している。アーケードゲームのマジ○カでも、アニメ・ゲームのジャンルから出題されない限りは予選敗退することはまずない。にしても、あのゲーム、アニメ・ゲーム分野の問題が異様にマニアックだよな。どういうプレイヤー層を想定しているんだろうか……まあ、それはさておき、俺はクイズは大得意だ。半分どころか全問正解してやるよ。



「第1問、八鳳真白(やおましろ)の足のサイズは?」


―は?なんだこの問題は?



「制限時間は10秒だぞ。10、9、8、7、6……」


「25、5cm!」


「ハズレだ」


「じゃあ、答えはなんだ?」


「そんなの言える訳ないだろ。乙女の秘密だ」


「じゃあ、最初から問題にするなよ!」


「続いて第2問、八鳳真白のウエストのサイズは?」


 ―まさか、この調子で100問全部真白に関する問題なのか?


 だとすると、真白の狙いは、俺が日頃真白に対してどれくらい関心を払っているかをこのクイズを通して確かめることだろう。そして、仮に俺が真白のことをあまり分かっておらず、半分以上の問題に正解できなかった場合には、俺には生きる価値はないとして、真白は文字通り俺の首を切り捨てるつもりらしい。やはり真白は人の皮を被った悪魔だ。



「10、9、8、7……」


「70cm!」


「違う!そんなに太ってはいない!」


「じゃあ、正解は何cmなんだ?」


「乙女の秘密だ」


「おいおい、このクイズ、ちゃんと正解は用意されてるんだろうな?」


「第3問、八鳳真白の胸のサイ……」


「51cm!」


「なぜに食い気味?しかも、51cmは小さ過ぎるだろ!」


「じゃあ、52cm!」


「違う!」


「53cm!」


「刻むな!解答権は一度きりだ!っていうか、ウエスト70cmで胸のサイズが50cm前半って、一体どんなプロポーションだよ!妊婦か!」


「こんな問題、兄貴の俺が分かる訳ないだろ!」


「一緒に暮らしていて、毎日妹の胸の成長を観察できる立場にいるのにか?」


「観察しねえよ!ファーブルに虫眼鏡を渡したって、自分の妹の胸のサイズだけは観察しねえよ!っていうか、このたとえなんだよ!」


「まだ、1問も正解してないぞ。このままだとお前の最後に見る景色は、斬首台でもがき苦しむ自分の首から下だぞ」


「怖いわ!」


 たしかにこのままだとヤバイ。なんとかせねば。



「頼むから、問題の難易度をもう少し下げてくれないか?」


「分かった。少し簡単にしよう」


 交渉は呆気なく成立した。この調子で、本当は問題のジャンルも変えてもらいたいところである。ギャルゲーの声優とキャラクターを結びつける(たぐい)の問題の方がまだマシだ。



「それでは、第4問、八鳳真白が最適だと思うマク○ナルドのポテトの長さは?」


「知らねえよ!むしろ難易度上がってるだろ!っていうか、そんなところにこだわりあるのかよ!」


「10、9、8、7、6、5、4、3……」


「えーっと、8cmくらい?」


「正解。さすが実の兄だな」


「完全にマグレなんだが……」




 この、俺の命がかかっていることを除けば、世界一どうでもよい真白パーソナルインフォメーションクイズは、正解と不正解をちょうど半分ずつ繰り返しながら推移していった。  


 あの、俺と同じクラスの名無し君だったら、もう少し正答率が高かったかもしれない。彼は多分真白のストーカーか何かだから。




 ついにクイズ八鳳真白はクライマックスに至った。正解数50問、不正解数49問のフルカウントで迎えた運命の100問目。


 さてどんな問題が来る?直球?それとも変化球?



「第100問、八鳳真白の愛するお兄ちゃんは、八鳳真白をどれだけ愛してる?」


 ボールは俺目がけて飛んできた。まさかのデッドボール。



「10、9、8、7……」


 問題の性質上、俺が言った答えがそのまま問題の答えにならなけらばオカシイ。俺が「真白なんてこれっぽちも愛していない」と言えば、真白は納得しないかもしれないが、それが正解だ。しかし、今回のクイズでは、おそらくそれでは不正解にされる。正解不正解を決める権限が真白にある以上は、俺は真白に日和(ひよ)らねばなるまい。俺にできる精一杯のおべっかを使わねばなるまい。



「俺は真白のことを日本で2番目に愛してる」


「2番目?違うだろ。……死にたいのか?」


「俺は真白のことを世界で2番目に愛してる」


「ギロチンのスイッチ押すぞ?」


「俺は真白のことを地球で2番目に愛してる」


「分母の問題じゃないぞ!?」


 くそ。背に腹は代えられないということか。めいりん、俺の裏切りを許してくれ。死んじゃったらもうライブも行けなくなっちゃうからさ。



「俺は八鳳真白を宇宙で1番愛してます」


「大正解!!」


 天井の岩壁の割れ目から紙吹雪が舞う。そして、スピーカーからタタタターンと結婚行進曲が流れ出す。なんたる茶番。



「そんな小細工はいいから、早くギロチンから解放してくれ!」


 首元でカチッという音がした。ロックが外れた音だろう。俺は上体を起こすと大きく伸びをした。正直、首を前に突き出した体勢をずっとキープするのは楽ではなかった。いっそ早く殺してくれ、と思ったり思わなかったりするくらいに。


 突然、背後でダイナマイトが爆発したような轟音がした。


 振り返ると、洞窟の壁がけたたましい音を立てながら崩れていた。それにより、行き止まりになっていたはずのところに、新たな通り道ができた。



「さあ、八鳳和生やおかずき、もうリミットまで1時間くらいしかないぞ。お前が宇宙で1番愛する妹を助けるために先を急ぐのだ。宇宙で1番か。最高に熱々だな。ヒューヒュー」


 俺は先刻のリップサービスを早速後悔していた。


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