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63話 披露の宴(後)

「みなさま、こんにちは。リスィ村村長のトーマスでございます。僭越ながら、ペリドット士爵様の御館竣工の宴を取り仕切らせて頂きます」


 宴が始まった。

 伯爵が馬車で20人程同行者を連れて来た。ラムダの親父さんのアイオライト士爵を始めとして、伯爵領の有力者らしい。ほとんど面識はないが、伯爵の叔父であるケインズ男爵の顔だけは知っている。


「そ、それでは、我らが御領主、ドミトリー伯爵様より。ご祝辞を賜ります」

 トーマスさん、ガチガチだな。やはり真面目な人のようだ。


 俺の横にラムダとエレクトラがやってきた。


 伯爵が一段高くなったところに登る。


「うむ。大賢者であられる、トリニティー・ラティス卿にご列席頂き、この宴の日を迎えられたことを、我がことのように、嬉しく思う。おめでとう。シグマ!」


 伯爵は、周りを見渡した。


「さて、今朝のことだが、王都からもう一つ嬉しい知らせがあった。私の娘となった、ラムダと、シグマ・ペリドット殿の婚約が正式に認められた。よって、この宴は、婚約披露の意味を持つことともなった。めでたい限りだ。なお、我が友であった、先代ラルフの喪中でもあり、婚姻は来春行うこととなった」


 おおうと場から声が上がる。


「うむ。その時には、シグマには我が一族として子爵となって貰うことも、王都の承認が取れておる。それから、なんとシグマには、もう1人嫁が嫁がれる。横に居られる、エレクトラ・ルイード嬢だ。その名で分かるように、隣の領地、ルイード侯爵の息女だ。皆には我が娘と等しく盛り立ててやって頂きたい」


 外交辞令だとしても、いい人だ!伯爵。


「では、館の竣工と3人の門出を祝って、乾杯!」


「「「「「「乾杯!!!」」」」」


 俺は、杯を掲げ、伯爵に目礼しつつ、手にした物を呷った。

 スパークリングワインが、喉を潤す。


「「「「「「おめでとう!!!」」」」」


 期せずして、祝いの言葉もほぼ一斉に叫ばれた。


 3人で手を振って応える。




「では館の主人であります、シグマ・ペリドット士爵様より、ご挨拶頂きます」


 伯爵が降りた台に昇る。


「皆様、こんにちは。本日は我が館までお越し頂き、ありがとうございます。加えて皆様に我ら3人の婚約まで祝って頂きました。誠に嬉しい限りです。料理と飲物を用意しましたので、ぜひお召し上がり下さい」


 料理は、ハンス夫妻が手配した近辺の伝統料理、俺が王都から運んできたかなり珍しい料理、さらに追加を考えている。


「そして、1つお知らせがあります。この領内で役に立つであろう岩塩採掘用のゴーレムを作りました」


 ゴーレムと聞いて、辺りがざわついた。


「ご安心下さい。ゴーレムと申しましても、魔獣のように人間を襲うわけではありません。役には立ちますが、とてもおとなしいものです。では、あちらをご覧下さい」


 出席者から見て、俺から反対方向を指し示した。


 皆から20mほど離れた位置にスザンナとステラが居た。2体の間には小山程ある塊が大きな布を被って地に置かれていた。


 俺が手を挙げると、彼女たちが、掛かった布を引き下ろした。


 現れたのは、2体のストーンゴーレムだ。

 ただし人型ではない。


 1体は、いわゆるホイールローダに酷似している。硬質ゴム製の4つの駆動輪と2対のアームがあり、アーム先端には地を抉るブレードが付いている。

 元居た世界のホイールローダとは違いは、塩湖での錆を意識して岩石で作ったことと、人が乗る運転席が無いことだ。その代わり細長いポールが立っており、いくつかの眼が付いている。


 もう1体は、ダンプカーだ。これも人が乗る運転席がない。塩湖の柔弱な地盤でも走行できるよう、駆動輪は直径1.5mで、幅も1mと太い。その割りに積載量は、道路事情も考慮して5トンに抑えた。


 どよめきが起きた。

 意外と食いつきが良い。

 ゴーレムの外観を見せたからと言って、どのような働きをするかは、想像が付かないはずで、反応は薄いだろうと思っていたが。

 とは言え、流石に満場の大喝采というところまでは行かない。


 次だ。

 俺が手を振ると、ダンプゴーレムの影から、ほぼ全身銀色の人型、メタルゴーレムが歩み出た。

 今度はやや高めの声が漏れる。


 来場者の10m位手前で、止まった。

 片膝を地に付けて、礼の体勢を取り、再び立ち上がった。


「皆様!ようこそ、お越し戴きました。私は後ろのゴーレム達を操る監督ゴーレムでございます」


 一際高いどよめきが発せられ。ここそこで、声が挙がる。

 ゴ-レムが、しゃ、しゃべった!

 なんと精巧な!

 人と変わらぬ動きをしたぞ!

 そういった言が飛び交った。


 まあ、こちらの方がウケが良いよね。

 

「では、少しゴーレム達を動かします。もちろん害はございません」


 監督ゴーレムが振り返り、ローダゴーレムに電子音と共に指令を与える。


 ゴゴゴと低い動作音と共に、ローダゴーレムがゆっくりと5m程前進し、ブレードを最大限持ち上げ、前に傾けた。


 次はダンプゴーレムだ。

 同じく、5m程前進し、荷台を後ろに傾け、そして戻した。


「簡単ではございますが。これにて動作展示を終了します。ありがとうございました」

 監督ゴーレムは手を胸に当ててお辞儀した。


 今度は、その場に居た者が激しく手を叩いて、喝采をゴーレム達に与えた。


 俺はその隙に歩いて、監督ゴーレムの横に並ぶ。


「改めまして、皆様。この3体を含む7体のゴーレムを伯爵様の塩湖作業用として寄贈致します」


「シグマ!」

「はい」

「儂が触っても構わぬか?」


「初めまして。伯爵様!どうぞ触って下さい」

 俺では無く、監督ゴーレムだ。


 歓声が起こった。

「人の言葉を理解できるのか!!凄いものだな」


 恐る恐る伯爵が、滑らかな監督ゴーレムの肩を触った。


「硬いな」

「僕はゴーレムですから」

「銀でできているのか?」

「鉄とクロムとニッケルの合金です」

 いわゆる18-8ステンレスだ。


 伯爵は、まじまじと監督ゴーレムを見た。

「ふーむ。背丈もそうだし、声が子供だからか。ゴーレムと分かっていても、なんだが親近感が湧くな」


「そう言って頂けると嬉しいです」

「よし!気に入った。喜んで、働いてもらうぞ」




 開会の式辞も順調に終わり、歓談に移った。

 まずは、伯爵の叔父ケインズ男爵の元に行って、挨拶をする。

 細身で白髪だが、洒脱な着こなしで、色気がある。



「男爵様、お初にお目に掛かります。シグマ・ペリドットです。よろしくお願い致します」

「いやいや。シグマ殿、お招き忝い。その内に私が大叔父になり、君が大甥になるのだ。堅苦しい挨拶は不要だよ」


 貴族にしては、かなりフランクだ。


「ありがとうございます。さあ、二人も挨拶を!」

「ラムダ・アイオライト・ドミトリーでございます。大叔父様!」

「エレクトラ・ルイードでございます。男爵様!」


「ふーむ。お二人とも美しい。シグマ殿がうらやましいな」

「自分でもそう思います」


 はははは……。

 互いの顔を見合って笑い合う。


 そこにラムダが割り込む

「大叔父様は、画家でいらっしゃるとか」

「そうなのだ。中でもご婦人を描くのが得意でな」


 ふむ。そう言われると、そう思える風貌をしているな。

 男爵が首を傾げた。


「ん?んん?」

「どうされました?」


「いや、なんだかな。儂は滅多に男は描かぬのだが。なんだかシグマ殿を見ていると、昔描いたような気になってな」


「おば様の肖像画、サインがミハエル・ケインズ。つまり、大叔父様でしたよ」

 思わずラムダを見直す。

 へえ。気が付かなかった。


「おお、そうか。しかし、ここに来たのは初めてなのだがな。別のところで描いたのか…時にご母堂の旧姓は?」

「サードニックスです」


「そうーか。アイーシャ殿の息子だったのか」


 えっ?

「はい。アイーシャは我が母です」

「なるほど。サードニックスの先代。つまり君のお爺様とは王都の学校で同級でな。その縁で娘さん、君のご母堂の絵を描いたのだ。そうかそうか…おおっと。あまり儂がシグマ殿を独占をしてはいけないな。皆が待っている」


「ありがとうございました、ではまた」

「ああ、そうそう、あの双子のメイド達は…ふふふ。まあそれもな」


 見破られたか。

 そう思いつつも、頭を下げて、別のところを回った。




 宴もたけなわになり。王都の館から持ってきた、ダンドリーチキンとスープを出庫して振る舞い始めたが、やはり好評だ。もっと灼いて貰えば良かったな。

 だが、まあこのぐらいの量で止めておいた方が、心情として後を引いて良いかも知れない。

 さて、では隠し玉を出すか。


 俺が、庭のやや端に作った竈に歩いて行くと、エレクトラが付いてきた。

 中はオレンジ色の小さな焔が揺らめき、焚き口から透明に近い熱気が僅かに出てきている。スザンナが火の番をしている。そして、ステラが脇にある平台の上で、小さなのし棒を上手く使って白い生地を丸く平たく伸ばしている。昨日の夜、俺が教えた通りだ。


 ステラが、俺の方を見ているので、良い感じだと軽く頷く。


「シグマ様。これは、何というお料理でしょうか?」

「これか。これはピッツアというものだ」


「ピッツア?!はあ…初めて聞きました」

 そうだな。この世界では無いはずだ。

「俺の作り方を見て、作ってみてくれ。まず生地に、この赤いチリソースを、こう…塗って」


 チリソースと呼んだが、材料トマトでは無く、よく似た風味のソースが売っているのを、王都の市場で見つけたときには結構喜んだ。あまり知られていないようだ。


「はい」

「ああ、まあそんなに厳密でなく適当でいい」

「はい」

 真剣に見ている。


「それでだ。ここに並んでいる、細かい肉やら魚を乗せて、さらにチーズをたっぷりと乗せて。こんな感じだ。それで、オリーブオイルを掛け、このコテに乗せてだ。そうっと竈の中に置いてくる」


「はい」

 はいしか言わないな。

「できそうか?」

「次はやってみます。どのくらい灼けば良いのですか?」

「まあ、大体1分ちょっとだ。熾火は左にあるからな。若干温度が偏っているから、このくらいになったら、コテで回すと良い。こんな感じだ」

 エレクトラが、じーっと竈の中を見ている。


 頃合いだ。俺がコテをドゥの下に差し入れて、ピッツアを取り出した。木皿の上に降ろす。

「チーズが熔けて、この部分、ドゥという生地がこんな感じになれば灼けている。ナイフで切り分けてできあがりだ。こうやって手で持って、食べてみろ」


 エレクトラが、おそるおそる摘んで口に運ぶ。

 むぅーーと唸る。


「おいしい!おいしいですわ!!これがピッツア!」

 満面の笑みになっている。

 俺も手にした一切れを食べる。

 うーーむ。まあこんなもんだろう。見よう見まねで作ったにしては旨い。

 タバスコがあると良いのだが。


 ん。俺がそれを飲み込んだとき、足下に子供達が5、6人たむろっていた。その目は木皿に釘付けだ。


「よーーし。試食だ。みんな食べて良いぞ」


 わーーっと気勢が上がって、めいめいが手に取った。あっと言う間に皿の上から無くなる。


 うまぁあ…。おいしい。おししいです御館様。

 子供達に好評だ。


「そうか。待ってろ。このお姉さんがたくさん灼いてくれるぞ!」


 その間に、エレクトラが、2枚目をコテの上に載せた。竈の中に置いてくる。

 なかなか良い手つきだ。侯爵令嬢ながら、修道女として鍛えられたのが奏功している。


 あっと言う間に焼き上がった。

 切ったのを待ちきれない感じで、一切れ食す。うむ。なかなかのもんだ。


 また、子供達が手に取った。おいしい。さっきよりおいしい。うんうんと聞こえてくる。

 子供は正直だな。


 その辺にしておきなさい。アンナが一喝すると、子供達が散っていった。

 しかし、子供達の囃す声と匂いに釣られたのだろう。大人達の列ができている。


 少し離れたところで、ラムダがこっちを見て微笑んでいた。

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訂正履歴

2015.11.22 もちろん外はございません→害は

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