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61話 招かざる客(後)

 カーラさんは、魔獣琥珀をいくつか取り出した。


「まずは、こいつだ」


 ふむ青銅の魔神人形ゴーレムか。

 あれと戦うのか。まあ、言い出したら聞く人じゃないしな。

 碧く錆びた金属の肌、10mを超す巨体。


「老師!あれはタロスではないですか」


 元の世界でも伝説だった魔像だ。


「えーと…カーラさん。あれは、壊しても?」

「無論じゃ!シグマ。メガエラ、余計なことを言うな!」


 どうやら壊すなら、派手な方がお気に召すようだ。



 ドゥーーン。ドゥガガン。

 脆い地盤を蹴立てながら、動き出した。

 足音から推測するに相当重そうだが、タロスは意外に機敏に動く。

 大股で俺に迫ってくる。


 手に持ったやはり青銅の大剣を振り上げ、唸りと共に振り下ろしてきた。 


─ 玄天翔げんてんしょう ─


 大地を蹴る。

 間一髪で避け、一気にヤツの頭上まで舞い上がる。


 ブオーン。

 おおうっと。

 届かないと高を括ったら、タロスが飛び上がり、揮われた巨大な剣をすんでの所でかわした。


「やばい、やばい」


 さて。どうやって斃すかな…。あの硬そうな躰は衝撃には滅法強そうだ。

 青銅の躰…青銅か。

 俺もやってみるか!


 集中!

 辺りが暗くなる。久々にガフの間に入った。


─ 迅雷・迅雷・迅雷・迅雷…………・迅雷 ─


 メガエラ王女も使った水属性と風属性の中級連成魔術。

 それを、16連続発動!


「行っけぇええ!!!」


 その瞬間、太陽がそこ落ちたように輝いた。

 猛烈な衝撃波がタロスから起こり、爆風が劈いた。


「ふん」


 俺と同じように、カーラさんと王女も防御力場で持ちこたえている。

 数秒轟音が辺りを圧した後、平穏に戻る。

 地面に降りると、粉々になったタロスの残骸が刺さっていた。


 思ったより凄まじい威力だったな。

 青銅は、銅の10倍弱の電気抵抗を持つ。しかし、落雷の抵抗は絶縁体の大気を貫く距離で決まるためほとんど変わらず、上級雷撃を超える大電流が流れた。

 よって、俺が銅で雷撃を地に逃がした時とは比べものにならない発熱が、タロスの躯で起こり、最も断面積の少ない頭部が、固体から一気に蒸発、膨張し大爆発となったわけだ。

 

 溶けるとは思ったが、昇華まで行くとはな。誤算だった。


 メガエラ王女が寄って来た

 

「飛行魔術、雷撃の多数連成……なぜ中級魔術士が玄天魔術を使える……シグマ。お前は何者なんだ!!」


「殿下が言われた通り。俺は中級魔術士ですよ。上級魔術は使えない」

「しかし……」


 カーラさんもやってきた。


「カーラさん。次は?」

「やめじゃ。遣うだけ琥珀の無駄じゃ」


「はあ、ご満足頂けたようで幸いです」

「はん!ワイバーン・ゾンビを斃したという爆炎魔術の方が見たかったのじゃがな。まあ良いわ!」


 やっぱり、カーラさん自身が、俺の戦いぶりを見たかったということか。


「……貴公、火属性も使えるのか、銅…金属…土属性もか…まさか!」

「ああ、シグマは4大属性の火、水、風、土。全てが使える」


「妾が2つ、大賢者の老師が3つ…なのに」

「ああ、だから4大属性の対称属性が上級に達した者のみ──その高みに立った者のみが使える玄天魔術を、中級魔術士でも使えるという訳じゃ」


「そ、そんな……あり得ない…」

「ふん。魔術にあり得ないことないことなど無いわ……全てを明かした以上、他言は無用!漏らせば、どうなるか分かっておろうな」


「分かります…ですが、しかし、玄天魔術が使えるなら、大賢者も同然。このまま捨て置いては、王国の損失ではありませんか」


「同然ではないわ。しかし、その原則で、何人の魔術士の自由を奪ったのじゃ。野放図なのは王族である、そなただけじゃ。賢者の条件を言うてみよ」


「上級魔術を使える者……シグマには使えない…いや、わざと会得しない──そんな馬鹿な、そんなはずはない」


「何が馬鹿じゃ!中級魔術の多数連成で威力は上級を凌ぎ、玄天魔術を使うことが出来るのじゃ、何の不自由がある。逆に上級魔術を使えば、表向き賢者などと美名をもらい、人々に持ち上げられようとも、下衆な黒母衣衆の奴らに見張られるのじゃぞ」


 ふむ。魔術士監視役は黒母衣衆というのか。


「わかりました。シグマの賢者の件、他言は致しません」

 メガエラ王女は、吐き出すように答えた。


「よし、では戻るぞ!」




「あっ!」


 従者が直立し、ラムダがカーテシーで迎えた。


「め、メガエラ殿下、いらっしゃいませ」

「お、おう。そなた、ベネの館にもおったな」


「はっ。ドミトリーの養女ラムダにございます」

「うむ。急に参って造作を掛けた。良き婚約者を持ったな、羨ましいぞ」


「はっ、はあ」


「アル、ニコ、帰るぞ!」

「殿下。もう、よろしいので」

「ああ。ではな。失礼する」


 王女が、そのまま扉を開け部屋を出て行く。

 従者と共に俺も追いかけて、玄関先まで見送った。


 同じく見送っていたアンナが寄って来た。


「御館様…」

「どうした」

「今去られたのは王女様…そして、先程ラムダ様から聞きましたが、あの年配の方は、大賢者様だそうで」


「ああ、そうだが」

「はぁ。そんな高貴な方々が、この館にお越しになるなんて。今日は寿命が縮みました」


「済まんな。アンナ。カーラさん…いや大賢者様が、アンナに謝っておいてくれと、言われていたぞ」

「はい。……では腕に縒りを掛けて、夕食を作ります」


 そう言うと、館内に戻っていた。

 俺も、応接室に戻るとするか。



「…でね、シグマったらさあ。あっ!戻ってきた」


 何を話していた、何を。


「おお、シグマ。メガエラは帰ったか?」


 いや、感知魔術で分かってますよね?!

「ええ、お帰りになりました」


「そうか…で、お主に何か言ったか?」


 ん?


「いいえ、特段は」

「そうか…ヤツはなあ、そう、7、8年も前だったか、自分を負かした男に嫁ぐとか言っておったが」


「ええっ!?カーラさん本当?…ああ、そう言えば、さっき羨ましいって」

 ラムダが食いつく。


「ははは。流石に3人目の妻になりたいとは仰らないでしょう」


「ああ、そうだと良いがな。ウォルフも、うんとは言わないだろうしな」

「ところで、王女様は、今まで負けていなかったの?」

「ああ、男にはな」


 カーラさんには、手酷くやられたんだろうけどな。


「ところで、カーラさん」

「何じゃ!シグマ」

「会って欲しい者が居るのですが」


「ふん。何やら嫌な予感がするが。お主の目がそうも言っておれぬと告げておるな」

「是非!」

「良いだろう」


「ラムダ。悪いけど、キアラをここに呼んで来てくれ」

「キアラちゃん?…うん。分かった」

「おそらく、隣の建物に居るな」

「はあ…」


 ラムダが、部屋を出て行った。


「ふむ。何やら妙な波動を感じてはいたのだがな。その者か?」

「まあ、余り先入観を持たれても」

「儂を見くびるなよ」


 ときおり見せる猛禽類の眼をした。


「そうじゃ。代わりに、あのゴーレム鷹だが…」


 カーラさんが、今日ここに来ると返信を持って来たのは、その鷹だ。


「お気に召しましたか?」

「ああ。厄介事の代わりに、1羽寄越せ」

「分かりました」


「ああ、鷹狩りというのをやってみたいのじゃが、できるか?」

「今は、そのように作っていませんが、夢幻晶を刻印し直して、進呈します」

「頼むぞ」





「キアラ、参りました」


 カーラさんは、一目見るなり、こちらを睨み付けた。


「おお。可愛いのう。キアラと申すか。ここに座るのじゃ」

 カーラさんは、打って変わって、人の良い老婆の笑顔で、自分の隣のソファを指し示した。

 キアラが、俺の方を見たので、俺もにこやかに頷く。


「失礼します」

 キアラが恐る恐る、腰掛けた。


「おお、そなたは、歳はいくつじゃ」

「14歳です」


「そうか14歳か」


 その瞬間、カーラさんの左手が瞬間移動したように、キアラの面前にあった。

 ゆっくりとそれが降りると、キアラの瞼は閉じていた。


 あっと言う間に、催眠状態に入った。


「シグマ。お主も気付いておるのじゃろうが…」


「はあ」

「そやつは、エルフじゃ。生粋のな」

「やはり…」


「お主は、厄介事ばかり背負い込むの」

 不本意だが、その通りだ。


「で、どこで、拾ったのじゃ?エルフは異種族嫌いでの、一般にどこに住むか知られておらぬし。余程のことがなければ、人間が居るようなところには出てこぬのじゃが」


「先程のメイド、アンナと言う名前ですが、彼女の妹婿が、街道で山賊に襲われているところを助け、そのまま引き取ったと」


「そうか。それからキアラには、呪いが掛けられているように見えた。あと、キアラは自分のことをエルフとは思って居らぬようだが」

「ええ、助けられた段階で記憶を失っていまして」


「そうか。記憶の封印も、おそらくは呪いの中に入って居るのじゃろ」

「解けそうですか?」

「少し待て!」


 カーラさんは、キアラの額に手を当てて、眼を閉じている。


「そうじゃな。お主に掛けられていた呪いよりは、単純で術式の規模も小さいがな…」

「はあ」

「無理に呪いを解こうとすれば、この娘の魂を壊す、つまり死ぬようになっていると、これ見よがしに、書いてあるわ」


「そうですか」

「なんじゃ、お主は余り呪いに関して知見を持って居らぬようじゃな。何でも知っておるような顔して」


 最後のは嫌みだ。まあ流すか。


「まあ。引き継ぐ者も居らぬし、暇なときに教えてやろうぞ」

「ありがとうございます」


「それはそれとして、解けなくも無いが時間が掛かりそうじゃ。しばらくお主が預かっておれ」


 カーラさんは、翳していた手を下ろした。


「そうか、14歳か。この婆もお主の頃はのう……」


 キアラは眼を瞬かせた。

 自分が意識喪っていた時間に違和感があるのだろう。


「わ、私」


「そうじゃの。あと一月もすれば、この婆の家の周りは、紅葉で真っ赤になる。綺麗じゃぞ」

「はあ、はい」

「そうなったら、ウチに遊びに来い」


「で、でも」

「何、このシグマはの、この婆の友達じゃ」

 俺も頷いておく。


「では。メイド長の伯母に相談します」

「おお、待って居るぞ」


「あのう、お客様のお名前は」

「おお、儂はのカーラというのじゃ」


「カーラ様」

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