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59話 招かざる客(前)

 ゴーレムのメイド、メイドロイドを使役させ、掃除やら、厨房の整理や試用を済ませて、めでたく新館へ入居を済ませた。

 残るは、最後の仕上げだ。


「ああ!こんなところに居た。まだ、南棟の応接間がいくつかと、客間の整理が終わってないんだけど!!!」


 ラムダが、やや怒ってるぞという声で、小屋から作業中の俺のところに来た。



「それは、特別応接室を手本にとメイド達を付けてハンスとアンナに任せたはずだが。それより、あの紋章魔法の使い方がよく分かったな」


 そう言いながら振り返ると、凄い物が見えた


「ラムダ、その格好…」


 大きく襟ぐりの空いた袖無ノースリーブしのトップスに、膝上20cmのミニスカートだ。白いながらも健康的な太股が眩しい。


「それで、ここは何なの?こんなに石を敷き詰めて。あと、そのライオンの彫刻をどうするの?」


「ああ。この胴にはめ込めば……。よし、できあがりだ」

「何、それ?頭がライオンで、胴が魚?竜?そんな魔獣居るの?」

「マーライオンって言う…まあ、魔獣かな」


「へえ。それで、なんでまた、その魔獣の像を?」

「これは、こうやって使う」


 像の横のこぶし大の玉石オーブを触った。

 ゴゴゴゴ……鈍い音が響いた。


 ゴバァァァァアア……!


「うわぁーーー」


 マーライオンのあぎとから、放物線を描いて膨大な量の湯が、一段低くなった石の床に落ちる。もうもうと湯気が巻き上がっている。


 ラムダが、何か俺に言っているが、滝のような轟音で、ほとんど聞こえない。


─ 遮音場・95% ─


「あっ、あれ?耳が…」

 自分の耳がおかしくなったと思ったようだ、両手で触っている。


「魔術かぁ…って、それはいいか。やっぱり出てるのはお湯なんだね…」


 ラムダは、もう大抵の魔術では驚かないようになったな。


「ああ」

「もしかして、これ、お風呂なの?」

「そういうことだ」


 驚いているというより、呆れたと言う顔だ。

 俺が作ったのは露天風呂だ。


 館まで敷いた道と同じように、石を敷き詰めた浴槽の広さは、およそ70平方m、40畳ほどだ。手前は浅く、奥は一段深くなっている。温水プールとして使うことも考えているからだ。

 底はもうすべて湯で覆われ、徐々に水深を増している。


「でもさ、広過ぎない?お湯は、どうしてるの?」

「湯は湧いてる」

「えっ?じゃあ。温泉ってこと?」


「まあな」

「でも、ここら辺りじゃ、温泉があるなんて聞いたこと無いけど」


「ああ、シェラ境と違って、ここは4000m位掘ったな」

「よ、4000m……って。はあ」

 完全に呆れている。


 俺は、浴槽の縁に腰掛けた。


「うーん。ところで、こんなだだ広いところを誰が掃除するの?スージーとかステラにやらしたらダメだからね」


 我が家の女性2人で決めた、2号と3号のメイドロイドの名前だ。スージーは正式にはスザンナだが。


「いや、あれはゴーレムなんだが」

「ダメったらダメ!手が荒れちゃうでしょ」


 いや、荒れないけどね。


「まあ、そう言うかなと思ってたさ。4号起動!」

「きゃあぁ」


 傍らに有った、大きな岩に見えていたものに、割れ目が走り、人型となって立ち上がった。


「なによ、これ!」

「ああ、ここの洗浄および管理用の知能系ゴーレムだ」

 制御用夢幻晶は知能型だが、ボディーは鉱山掘削用のゴーレムを半分くらいに小さくしたものだ。腕の先はポリッシャー、つまり回転するブラシが付けた。


 一瞥しただけで、ぷいと横を向いた。

「ふん、メイド(ロイド)ちゃん達を使わないなら良いのよ」

 びっくりさせたことを、やや怒っているのだろうが、同じ知能型ゴーレムなのに、興味の持ち方が全然違うじゃないか。見た目で判断してるんだろうな。差別だ。


「4号停止、収納!」


 変形して岩に戻った。不憫なヤツ。


「ああ!もしかして。屋根裏に鷹を7匹も飼ってるみたいだけど、あれもそうなの?」

「そうだ。飛行型でな、王都の館やカーラさんの家とかとの連絡に使い始めたんだ」


「やっぱりね。屋根裏に上がったら、鷹のくせに、危害を加える感じもないし、凄く賢いし。第一臭くないなあと思って見たら、ふんもしてないから、変だなあと思ってたんだ」

「ほう」

「でも普通、そう言うのには鳩を使うんじゃない?」


「ああ、本物の鷹は巣に戻ってこないだろうからな。でもゴーレムなら戻ってくる。あと鳩だと、さらに大きい猛禽に襲われることがあるんだ。ゴーレムなら大抵は勝てるだろうが、襲われないことに越したことは無いからな。それにしてもラムダは鋭いな」


「まあね。ボクは動物が好きだからね」

 そう言えば、少女も好きなようだが。


「その割りには動物飼ってないだろう?」

「………」


「ん?」

「昔、青狼ウォーグの子供を少し飼ってたというか、匿ったことがあるんだけど……」

「へえ。初めて聞いたな」


「そうだっけ。それで、怪我してたから、手当てしてやって、餌もやったりして、ボクに懐いてたと思ったんだけど。元気になったら、すぐどこかに行っちゃってさ」

「そうか」

「それ以来、動物はちょっと飼えないなって………でも、今になって考えると、お父様がさ、どこかに逃がしたんじゃないかって。魔獣を飼えるわけもないし」

「今度会ったら、聞いてみる良い」


「うん。あっ、ごめん、ごめん。何か暗い話になったね」


 ラムダはやや無理に笑顔を作り、俺のすぐ脇まで来た。浴槽の脇にしゃがみ、上体を前に屈めて、湯に手を浸けた。


「結構熱いね」


 おおぉぅ!


 襟から覗ける大きい双球が、下に引っ張られながら揺れている。

 凄まじい破壊力だ!

 主に精神的な。


「お湯、白いね。どのくらいで溜まるの?」

「ざ、ざっと5分ぐらいかな」


 生返事に気づいたのか、こっちを見た。


「もう、スケベ」


 そう言いながら、隠そうともしない。鳶色に染まる双球の先端も、時々覗ける。これは、誘っているよな…。


 俺に十分見せつけると、ようやく立ち上がった。


「ふふーん。ど、どうかな?この姿」」

「あ、ああ。綺麗だ」


 扇情的ではあるのだが、嫌らしさが薄い。若さの特権だな。


「でしょ!シグマは王女様にだいぶ見とれたけどさ。どうよ。ボクの方が肌はぴっちぴちだもんね。(ま、まあ脚の長さじゃ負けてるけどさ)」


 後の方は良く聞こえなかったが。

 それにしても、嫉妬心が、この格好をさせたのか。


「ああ。抱きつきたいぐらいだ」

「ちょ、ちょ…。い、嫌。服脱ぎながら言わないでくれる」


 周りを見回している。


「でも、もう秋真っ盛りだし、少し寒くないか?」

 俺は上がると、下穿きも脱いでいく。

 それを見たのか、ラムダは向こうを向いた。


「なっ。もうぅ。寒くないよ。って、シグマこそ、真っ裸になってどうするつもり?…って、あれ?」


 俺は、再び降りるとザブザブと歩いて、浴槽の奥を目指す。

 そこは、もう膝上まで水深が来ていた。

 段を下りて、腰を下ろした。


 湯が結構溜まって、マーライオンから噴き出ていた湯が、緩やかに落ちるようになり、遮音場から出たが、水音も静かになっていた。


「うーーん。良い湯だ。ラムダも入れよ。そこに手拭いもあるし」


「ボ、ボクも?……は、入ってやろうじゃない。あっ、服脱ぐから、あっち向いてて」

「いいじゃないか。もう他人じゃないし」


「イーーーヤ!脱ぐところは、恥ずかしいから嫌なの」

「わかった、わかった!」


 しばらくして、重低音に混じって、チャポ、チャポっと水音が認識できた。

 無意識に聴覚を鋭敏にしていたようだ。


「もういいよ」

 その声と共に。俺の背中に少し冷たい肌がくっついた。

 この柔らかな感触は…


「ふふん、ちょっと熱いけど、温まるぅ。良いお湯だね」

「あ、ああ」


 ラムダは俺から身体を離して、横に座った。

 白濁はしているが、透けて見えなくも無い。


「もう。そんなに見ないでよ…ふふ」


 いや無理だろ。

 それに、そんなに嫌がってないよな。


「気持ちいいね」

「ああ、こっちの人は、余り風呂に入らないようだけど」

「そうだねえ、習慣が無いね。だけどシグマは本当にお風呂好きだよねぇ」


 この世界では、大体は水に濡らした布で身体を拭くが一般的で、ごく偶に深めのタライで水か、精々ぬるま湯で浴びるぐらいだ。


「そうだな、修業時代は、温泉の近くだったからな。うーん…湯量が余ってるから、共同浴場を造ろうかと思ったけど。需要が無いか…」

「いやいやいや。造ると良いと思う。村の人たち喜ぶよ!」

「じゃあ、造るかな」


 ウチの敷地で岩が多くて、農地や牧畜地に使えないところがある。あそこが良いだろう。

 まあでも、ここと違って、男湯と女湯は分けないとな。


「でもさ、造るなら、服脱ぐところと言うか、ここも脱衣所が欲しいよね」

「さっき、転移して真っ直ぐ来たのか?」


「ええ、そうだけど」

「転移したところで、左の扉が女子用の脱衣室だ。右は男子用な」


「はあ?」

「ほら。ここから見ると小屋に扉が3つ見えるだろ」


「もおぉぉ!先に言ってよ。あんなとこで脱いじゃったじゃない」

 そう言いながら、俺の上腕を叩く。

 どうやら俺を誘惑するために、そこで脱いだ訳じゃ無いようだ。


「うわっ」

「ん。どうしたの?痛かった?」

「客が来た!」



 この館の竣工のお披露目会は、明日なんだが。

 魔力の強さから言って、カーラさん?と一瞬思ったが違っていた。

 天眼で見ると、ウチの敷地に馬を連ねて入って来た。

 ふーーむ、この人たちは招いてないのだが。


「悪いが先に出るぞ」

「えっ、もう?で、客って誰なの?」

「さっきお前が噂した人だよ」


「えっ!まさか。お…」

 最後まで聞く前に俺は、自室に転移した。




「こちらでお待ち下さい。主を探して参りますが、お客様のお名前をお聞かせ頂けますか?」


 応対するアンナに、女性と男性2人が詰め寄る。


「そちは、わらわを見知らぬのか?」

「申し訳ありません。田舎の者ゆえ。高貴な方を存じ上げません。ただ、お名前も伺わずに取り次ぎも…」


「アンナ!」

「御館様」

「下がれ。メガエラ王女殿下だ」

 ひっと変な声を出して俺と同じく跪いた。


「殿下。再びお目に掛かり、大変嬉しく存じます」


「うむ。ペリドット士爵。妾も嬉しいぞ。午前中にな、王都にあるそなたの館へ行ったのだが、こちらに居ると聞いてな」


 げっ、あっちにも行っていたのか。


「ご足労をお掛け致しました。まずは、お茶を差し上げたく存じますが」

「ああ、世話になる。そうだな、これから、士爵をシグマと呼ぶことにするぞ」

「御意。…アンナ、お茶はスザンナに持って来させてくれ」




 俺は、整理してあった特別応接室に、王女一行を通した。


 メガエラはソファに腰掛けると、見事な脚を組んだ。


「ほう。ひなには、稀な品の良い部屋であるの」

 彼女は、軽く部屋を見回しつつ、褒めた。


「王都外縁に有りました館を、移築しましたので」

「そうか。それにしても、士爵は金回りも良さそうじゃな」


「いえ、それほどでもありまんせんが」

「謙遜しなくともよいでは無いか!」


 ノックが聞こえ、スザンナがお盆を持って入ってきた。


「失礼致します」


 机の上に置いて、ポットから、カップへ紅茶を注ぎ入れる。


「ん?」

「いかがされました?殿下」


 メイドを凝視する王女に、側近が問いかける。

「アル…アルフレード。気が付かぬのか?」

「何事でしょう?」


「この娘、人間では無いぞ!ゴーレムだ。そうであろう!シグマ」

「こ、このメイドがですか」



 アルフレードと呼ばれた男が、飛び上がるように立ち上がり、何を思ったかスザンナに掴みかかろうとして…。


「やめよ!座って見ておれ」

「はあ…」

 叱られて、大人しく座った。


「それにしても、随分自然な動きじゃな。教会に伝わる人型も見たことがあるが。これほどまでのものは…シグマが作ったのか」

「御意……」


 感知魔法に感が有った。

 あちらも来られたか…早いな。


「そのように堅苦しい言葉遣いは好きではない」

「恐れ入ります」

「まあよい。やはり、ただの女好きではなかったな」


 いや、女好きも返上させて欲しいのだが。


 カチリと最後に俺の前にカップを置くと、スザンナは部屋を辞していった。


「ますますシグマと戦ってみたいのだが」

「それは、お断りしたはず」


 俺は、そう言って扉を振り返る。


「邪魔するぞ!」


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