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55話 2人の妻

 王都の館に戻り、ラムダを俺の執務室に呼んだ。


 沈痛な面持ちなのは、俺の気重さが伝染したのかも知れない。


「伯爵様と、侯爵様の合意点を見つけた。ただ、ラムダ。お前の気に入る内容じゃない」


 えっ?と大きく眼を見開き、ラムダは涙を滲ました。


「き、聞くよ」

 両の拳を膝の上で握り締め、顔を少し伏せた。


「俺は、ラムダ、そしてエレクトラの2人を妻とすることとした」

「えっ?」

「2人とも妻とする」


「ちょ…ちょっと。そんなこと許されるの?」

「ああ、両家の承諾も得たし…」


「なんだ、良かった。てっきり、ボクとの婚約を破棄するって言い出すかと思ったよ。そうか、なんだ。驚かせないでよ」


「いや、エレクトラも俺の妻となるんだぞ」

「分かってるよ。そりゃあ、ボクとシグマの2人きりが良いに決まってるけどさあ…。ま、まあ、お妾さんが居る人も珍しくないし。ボクたちが結婚できないよりは、よっぽど良いよ」


 そうか…。何だか気が抜ける。

 ん?


「お前、泣いて…」

 ラムダは、両の眼から幾筋も涙を流していた。


「あっ、あれ?、あれあれ?」


 俺は立ち上がった。


「おかしいね。涙が止まらないよ」


 そっとラムダを胸に抱く。

 無意識に頭を撫でていた。




「も、もう落ち着いたから」


 少し身体を離した。


「ねえ。ボクが、絶対に嫌!って言ったら、どうする積もりだったの?


「ああ」

「ん?」

「考えてなかったな。なぜだか、ラムダはそう言わないと信じてた」


「ん、もう。シグマには敵わないよ。昔からそういうところがあるよねぇ…あふぅ」




 身体を離しても、ラムダはずっと俺の顔から眼を離さない。


「でもぅ。エレ様にはもう聞いたの?それで良いかって?」

「いや、まだだ。お前から先に聞くに決まってるだろう」

「うん。それは嬉しいけどね」


「そうか。あと一つ言っておかなければならないことがある…」


 俺は、伯爵と侯爵がメシア教会の大司祭を名乗る男に暗示を受けたことをラムダに説明した。


「わかってるよ。侯爵様を恨むなってことだよね」

 相変わらず賢いな。


「でもさ。バルドーとか、ルイス子爵もそうだったってこと…だよね」

「ああ。だから、メシア教会のことは、信用しすぎるな」


「わかった。神父さんに、誘われても1人じゃ礼拝に行かない。ふふふ」

「あ、ああ。そうだな」


 いや違うが。

 さて、今日はもう疲れたな。


「そうだ。エレ様のところに早く行ってきて」

「えっ、明日で良いんじゃないか?」


「はあぁぁあ?何言ってるのダメだよ。ボクがどんな気持ちで待ってたか、シグマは知ってるよね」


 頷く。


「じゃあ、行って来て。ちゃんとプロポーズもするんだよ」

「ああ、わかった」


「ほら、早く早く!」


 そう俺を押し出す、ラムダの睫は光っていた。


────────────────────


 さて、健気けなげなラムダに報いるためにも、しっかりケリを着けなければな。


 予め聞いていた、ルイード家の上屋敷に向かう。

 北街区だ。玄天翔げんてんしょうを使った。


 門番に名を告げると、慌てて入っていった。


 数分でサラが門にやってきた。


「シグマ様、どうぞ中へ」


 流石は大貴族の上屋敷だ。庭もきちんと整備され、寝転がりたくなる程綺麗な芝生と、人の形にも見える剪定された庭木が立派だ。

 門から館の建物までは優に100m以上有る。


「あのう、シグマ様は馬車は使われないのですか?」

「1人の時はな。魔術で移動する方が速いからな」

「そ、そうですか」


 サラは、いつもの硬さがより増したようだ。

 なんだか聞きたいことを我慢しているような感じだが、ここは気づかない振りをしておく。


 玄関を通って、1階にある応接間に通された。

 黒光りする板の壁。

 豪華だが品の良い部屋だ。


 そこには、エレとセリーヌが居た。そこにサラが座る。


 エレの両脇を2人が固め、対面のソファには俺1人が座る。

 なんだかね。


 メイドが出してくれた紅茶を一口喫し、話しを切り出した。


「今日、ドミトリー城とサマルード城を往復して、伯爵様と侯爵様を説得し、両家の和解にこぎ着けました」


「「「ふうぅぅ…」」」


 3人が安堵の溜息を吐いた。


「そして御両者共、今回の決定に何者かによる魔法を使った暗示を受けていたことが判明しました。これについては、他言されないように」


 見渡すと一様に頷いた。


「では、和解の内容について説明します」


 エレは、膝の上で掌を握り合わせ下を向き、セリーヌはその肩を抱き、サラは俺を睨んだ。


「エレクトラ、そして、ラムダを私の妻とします」


「ば、馬鹿な。貴様ぁあ。ふざけるな。そのようなことが許せるものか!!」

 サラは立ち上がって、俺の襟を掴んだ。


「サラ!」


「撤回しろ!おふたりを妻にするだと。貴様は何様のつもりだ!!!!」


 馬鹿力で締め上げてきた。

 サラの怒りは理解できる。


「サラ!!」


「お嬢様…」


 その剣幕に、サラが振り返る。


「お前は、何をしているか分かっているの?我が夫になる方から、その手を離すのです」


「…お嬢様。そ、そんなあ。よろしいのですか」

「黙りなさい!」


「はっ。申し訳ありません」

「謝る相手が違います!」


 サラは恐縮して、俺を掴む手を離して椅子に座り直した。しかし、憎しみを込めて俺を睨んでる。


 まあ、放っておこう。


 改めて、顔を上げたエレを見つめた。

 俺の言葉を待っている。


「改めて申し上げる。私の妻となって頂きたい」

「はい。喜んで」


 身を揉みながら、紅くなった頬に両手を当てて照れている。

 

 数十秒前にサラに有無を言わさず、叱りつけた同一人物とは思えないな。

 高飛車な女子と思って居たが、マゾ属性もあるし、エレの見方が変わるね。


「さて、では2人は、席を外しなさい」

 静かに、エレが宣言した。少し目が泳いでいるが。


「いや、しかし…」

「少・しは・気を・利かすの…」


 細い腕でセリーヌが、サラを引っ張り上げる。どこにそんな力があるのか、じたばたする大柄なサラを、無理矢理外に連れ出した。


「あ、あのう…」

「はい?何でしょう」


「先程、契りのお言葉を頂き。そ、そのう、大変嬉しゅうございましたが。もう少し別の形と申しましょうか…」


 俺は、一旦立ち上がって、エレの横に座る。

「ひゃぁ」


 ああ、幼馴染みには無い反応だよな。

 両肩を掴むと、こちらに引き寄せる。

「あ、ああ、あの、あの」


「黙って」

 頷いて眼を閉じた。

 腕を背中に回すと、ありがたい感触が伝わったが、構わず締めて唇を奪う。




「はぅ」


 うーむ。眼が逝ってる。

 男に対する免疫がないのか?

 純粋培養は、良くないというのが分かるなな。


 それにしても、思ったよりエレのことが、好きだったんだな。

 抱き合った感触でそう思うとは、なかなか不実なヤツだな、俺。


「私、修道院に入り。この身を神に捧げる覚悟をしていましたが。還俗しなければ、大きな失策を犯すところでしたわ」


 大げさな。

 潤んだ眼で俺を見つめる。


「今、一度ひとたび…」

「仰せのままに」



 いくら、人払いしたとしても、そこはルイード家上屋敷。

 これ以上のエスカレートは、御法度だ。


 おとなしく自分の館に転移した。

 それにしても玄天移は、都市の転移阻止力場を無視できるんだな。楽で良いが。


 うーん。今日は疲れたね。

 魔力は、たくさん使ったけど、回復力のおかげで全く気にはならないが。やはり精神的なものだろう。


 俺の机の上に、内務省からの召喚状が届いていた。


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