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7話 ギフト

 村長の家に戻ると、魔獣共を斃したことを告げる。

 村長は俺の手を取った。

「ありがとうございます。村の者共に成り代わりまして、御礼申し上げます」

「いや、礼ならドルスをはじめ村の若い者達にな」


 その後も、何度か礼を言われた。

 それからドルスが洞穴を探ったかと聞いてきたので首を振って答え、何か出てくれば村長殿と相談の上で決めろと告げると、村の少年達は飛び出していった。

 どのみち、この周辺の村から略奪したものだろうからな。


 頭を下げた村長は、俺をしっかと見た。

「流石はラルフ様のご子息。お父様によく似ておられる。十数年前、リスィ村の御山で錫が出なくなりましてなあ、鉱夫共が暴動を起こしたとき、お一人で収めた。あの胆力をお持ちだ」

 ほう。親父の武勇伝か。なかなかサイドエピソードも充実してる。

「いやいや。俺など、まだまだ。父には遠く及ばぬ」


「そうでしょうかの。幾度もあなた様のことをお褒めでしたよ。過ぎた息子だと」

 俺は照れくさくて、頭を掻いた

「では、俺たちは、伯爵様に報告へ戻る」

「…おお、年甲斐もなくしゃべりすぎましたの。もう忘れ物はないですかの」

「ああ。村長殿、世話になった。礼を言う」

「いえいえ。世話になったのは、ドゥレム村でございます」


 村長の家から、外に出た。

「さて。じゃあ、伯爵の城へ行きますか」

「えらく簡単に言うなあ。ラムダ」

 近いのか、それとも。


「うん。転移結晶を持っているからね。ほら」

 そっちか。4センチ大の水晶のような物を見せる。転移結晶は、使用者が過去に行ったことがある土地に瞬間移動を可能とする魔導具だ。

「透明だな」

「うん、1つ上の赤は高いからね」


 転移結晶にはランクがあり、転移距離と人数が異なる。俺が知っているのは、下から透明、赤、黄、青だが、見たことがあるのは赤までだ。透明は、1パーティメンバー上限の6人まで、距離は最長十km程だ。ただ、数十回遣うと粉々に砕ける消耗品だ。使えるのは屋外なので、外に出る。


「じゃあ行くよ」

 俺とラムダの足下から微粒子が立ち昇る。すーっと薄れていくと、次の瞬間には、見知らぬ村の路地。


「もう一回」

 今度は、ドミトリー城の城下町の外壁のすぐ前に出た。

「ふぅーー」

 うーむ。ラムダは結構くたびれたようだ。転移結晶を使うと言っても、行使者のMP(魔力)を消費するからだ。2回目の転移は、代わってやりたかったが、ここには来たことないしな。


 転移結晶には、それ以外にも制約がある。

 ある程度の規模がある都市の城壁には、防衛のため魔法障壁が用意されており、直接域内に転移できない。したがって、今回のように都市の手前に転移をするのが一般的だ。

 それから、空気などの気体や、水などの液体の有るところには転移可能だが、固体の中や密閉された空間や屋内にも転移にはできない。

 また、距離制限は長いのもだめだが、あまり近いのもだめで、100m以内とかも転移できないし、到着位置の誤差も結構ある。

 このように、転移結晶による移動には多くの制約があるが、遠い距離を一瞬で移動できるという遙かに高い利得が有るので、広く使われている。


 さて、ドミトリー城だ。

 土塁が巡らされた町。両端は霞んでいる。差し渡し1kmと言うところか。流石に今までの村とは、比べるまでもないほど規模だ。木戸門に辿り着いた時に、鐘が鳴り始めた。

足早に町に入る農民や商人達が目立つ。大半の者が木戸番と顔馴染みなのか、そのまま通って行くが、当然俺たちは止められた。


「身分証を見せろ」

 βで散々体験した俺は、よどみなくローブの懐から石札を出した。少し前に虚空庫から出しておいたのだ。

「リスィ村…シグマ・ペリドット。これは、士爵様のご子息ですか。失礼しました。どうぞ、お通り下さい」

 ラムダも問題なく入域を認められた。


 なかなかの賑わいだ。町の辻に面して石造り二階建ての店舗が軒を連ねている。

「この筋の突き当たりが、お城だよ。って知ってるよね」

 もちろん知らない。

 それ以前に、城の方向とずれてるがと言いかけてやめる。

 古い街では防衛上の都合で、道は真っ直ぐでない場合があることを思い出したからだ。

 ちょうど昼時。並ぶ店から、旨そうな薫りが漂って来る。が、それには目もくれず、ラムダは俺の手をぐいぐい引っ張って行く。そこから15分ほど歩いて、やっと着いた。城門の前だ。


 城の周囲には土塁が立ち上がり、その上に重厚な石造りの城壁が取り巻く。

 楼門となった城門は堅固そうな鉄造りで、歩哨も精悍だ。

 鉄の胸宛てに槍を携えた門番が2人居る。

「これは、ラムダ様。城に御用ですか」

「うん。そうだよ」

 ふむ。ラムダは、この城では顔役だな。彼女の親によるものだろう。


「こちらは」

「シグマ・ペリドットと申す」

 門番は頷く。

「主より聞き及んでおります。こちらでお待ち下さい」

 そう言うと二人の内の一人が、門内に走っていく。代わりの門番がやってきたようだ。この兵も、ラムダを見知って居るようで、お辞儀をしてくる。


 10分も待ったろうか。門番よりは身分が高そうな取り次ぎが門までやってきて、案内するという。門を通って城内に入ると、開けた芝に生け垣の西洋風庭園が、石畳の両手に広がる。これは羽振りが良いな。

 お登りさんよろしく、落ち着き無く辺りを見回しながら歩いたが、先導は無言で御殿まで案内した。御殿は3階建てで、低層階は砂岩を漆喰で固めた石造りだが、上層はいくつものアーチが壁を飾り、上品にまとまっている。


 玄関に入ると、磨き込まれた大理石で造られた、吹き抜けのホールとなっており、両脇に緩く湾曲した階段がある。3階の位置にあるであろう窓から、日の光が差し込み、なかなか荘厳な佇まいだ。


 伯爵領は岩塩が採れて裕福だと、ラムダから道々聞かされてきたが、ここまでとは思わなかった。そうは言っても、あくまでバーチャルではあるが。


「おお、シグマ」

 階を見上げれば、伯爵ともう一人。恰幅が良く頬に大きく刀傷がある如何にもな壮年の男が降りてきた。若い頃は壁役タンクにだったのではないかと推測した。

「げげっ」

 ん?背後から不穏なつぶやき。だが問いただす暇は無い。

 俺とラムダは、片膝を床に付きながら、礼の姿勢を取った。

 そして、オーガの牙を差し出した。


「ほう。存外早かったな。して、他の者はどうした」

「他の者?」

 俺とラムダは、顔を向け合った。

「まさか、二人で斃したと申すか」

「はあ。まあ探索にはドゥレムの者達の手を借りましたが」

「そうです。シグマが魔術でオーガを焼いて斃したんです」


 伯爵が顎髭をまさぐる。

「ほう。焼いてか。そちは中級魔術を使えると申すか」

「いえ。使える魔術は初級だけです」

「馬鹿な。オーガが初級魔術で斃せるものか」

 伯爵の脇の男が初めて口を開いた。


「本当だって。ボクがこの目で見たよ、お父様」

「ボクはよしなさい」

 俺もそう思うが…なんだって?お父様?

「アイオライト士爵よ」

「はっ」


 ええぇぇ?

 ラムダの名字もアイオライト…間違いないようだ。

 はあ、そうですか。こんな厳つい顔から、ラムダがねえ。

 母親似という設定なのかな。

 おっと、失礼な思考が伝わったのか、かなり睨まれている。


「この牙も有ることだ。斃したのは間違いない。初級魔術でどうして斃せたのかは知らぬがな」

 俺は沈黙を守った。

「ふむ。魔術士とは、滅多に自らの手は開かさぬものだ…良いだろう」


 伯爵が、手を叩くと奥の部屋から木盆を持った、召使いがやって来た。

「士爵への推挙状だ。持って行くが良い。王都に出向き、内務卿ブルーム侯爵閣下を訪ねよ」

「かしこまりました」

 丸く巻かれた羊皮紙を受け取る。


 派手なファンファレーが脳内で鳴って、視界をダイアログが塞ぐ。

 討伐クエスト完了。シグマは、ボーナス経験値50000を得ました。

 OKボタンを意識で押す。

 続いて、別のファンファーレ。魔水晶獲得の知らせだ。


 右手を開けると、黄、緑、橙、紫のクリスタル、魔水晶が入っていた。

 LSF(リスタ)では、これで新たな魔術を憶えることができる。天からの贈り物。ギフトだ。

 おおう。

 βで存在は知っていたけど。魔術士プレイは初めてなので、実際貰ってみると結構感動するなあ。

 

 ぱっと見だが、黄と緑はやや大きいように見える。もしかして下級魔術か?

 初級から下級魔術で100から2000ディールで売却することもできるが、ギフトは1種類の魔術で1回しか与えられないので、よく考えて選択すべきだ。

 ここでは、記憶作業インストールはできないので、虚空庫に入れておく。


 ステータス。

 おお、魔術スキルのバー表示が2段目になってる。

 やっぱり。魔術スキル経験値の獲得量がすごいことになっている。連唱や並行励起のスキル外技術の経験値が、まあ初級の魔術士としては半端ないのだろう。確かに、戦士の時の連撃も大きかったからなあ。


 LSF(リスタ)では1回の攻撃で与えられたダメージが多いほど、大きい経験値が得られる。おそらく2乗ぐらいだろう。つまり100のダメージを10回の攻撃で与えるより、1回で与えられれば10倍の経験値が得られるわけだ。連撃や連唱は、流石に1回の攻撃とは認められていないが、一連の攻撃の後になるほど加速度的にダメージが増えていくので、経験値としては連続数が多くなれば恐ろしい勢いで増えていく。そのように考えれば、このバーの表示も納得できなくもない。


 そんな考え事をしている内にも、話は続いていた。

「我が娘の話ながら、シグマ殿は、なかなか魔術の素養が高い様子」

「そうだな。ラルフに、いや。アイーシャ殿に似てと言ったところか。しかし、師事していた魔術士は亡くなったと申しておったな。たが、このような辺境におれば、今後の成長は期待できん。誰か別の師匠についた方が良いと思うが。心当たりはあるか」


 伯爵の諮問に、士爵が答える。

「当代きっての、大賢者。ラティス卿ではいかがでしょうか」

「ラティス卿なあ…。師は弟子を取らぬ上に、かなり偏屈と聞いたが」

「そこに取り入れてこそ、伸びるというもの」


 伯爵は、手を下ろした。

「そうだな。できたらで良い。ラティス卿は、王都近くのシャラ境という住まわれているはずだ。叙爵の手続きが済んだら、そこを訪ねよ」

 俺は立ち上がって、一礼した。


「あのう」

 ラムダが、恐る恐る手を上げる。

「何か?」

「ボクも…ボクも、王都に行ってもよろしいでしょうか」

 ほう。伯爵の口角が吊り上がる。

「何を申すか」

「良いではないか。士爵。なかなか似合いだと思うが。素養があると申したのはそなたであろう。はははは」

「お言葉ですが、ヨハン様。素養云々はともかく、未婚の男女を二人で行かせるわけには」


 ふむ。再び顎髭を撫でる。

「道理だな。ならば手の者から、同行者を遣わそう。転移ゲートで王都へ迎え。それで良いな、士爵」

「はっ」

 士爵は苦虫を噛み潰したような表情で、それでも頭を下げた。

 ラムダは、朗らかに笑う。全く対照的だ。

 にやりと笑った伯爵は、傍らに立つ召使いを呼び寄せて何事か耳打ちする。一礼して下がろうとする召使いを、士爵が止め再度耳打ちしていた。


「先ほど母のことを申されましたが、お知り合いでしょうか」

「そうか、聞いたことがなかったか。儂がまだ、家督を継ぐ前の話だ。そちの父母と、そこの士爵含め6人でパ-ティーを組んでおった」

「そうでしたか」

「ああ、アイーシャ殿は戦闘となると、普段の穏やかさが嘘のようでなあ。すさまじい黒魔術の使い手であった」


 うーむ。親父は呼び捨てで、お袋は殿付けかあ。

 サードニックス子爵の娘と言っても、伯爵家からすれば、はるかに目下だし。友達とその妻という事は有るのだろうが…まだまだ深いエピソードというか設定があるのだろう。はたと思いついて、腰の物を見せる。


「これなんですが…」

 伯爵と、そして士爵も身を乗り出した。

「それじゃ。そのクリスを使っておった。懐かしいのう」

 士爵も頷いている。


「そう言えば、魔力吸収マナドレインの効果を持っていたな。魔術士には重宝するであろう。精々大切にするがよかろう」

 そうこうする内に召使いが戻り、伯爵にしゃべりかける。報告であろう。

「そち達の同行者は手配がついた。1時間ほど後に転移ゲートで会うよう」

「はっ。承りました」

「それからな、当座物入りであろう。これを使うが良い」

 召使いが捧げ持った盆から、布袋を摘み俺に渡す。

 2000ディールと表示される。


「ありがたき幸せ」

 うん。現実なら遠慮するところだが、NPCに気を遣っても詮無い。素直に受け取った。

「ではな、シグマ。また来るが良い」

 伯爵は、召使いと士爵を引き連れ、奥へ立ち去った。

 ホールを辞し、庭へ出るとラムダが寄り添う。

「伯爵は太っ腹だよね。餞別までもらっちゃった」

「ラムダにも分けるさ」

「ボクは良いよ」


 館から持ち出した分と、戦闘獲得分、それにさっきの選別を加えて3000ディールを超えている。資金は潤沢だな。うーん、戦士プレイの時とは大違いだ。まあ、良い装備があれば、購入も考えよう。


少しずつ読んで頂ける方が増えてきました。うれしいです。


皆様のご感想をお寄せ下さい。

ご評価も頂けるととても嬉しいです。

誤字脱字等有りましたらお知らせ下さい。


訂正履歴

2015/7/18 魔水晶の色を変更

2015/7/29:用語訂正:陛爵→叙爵,叙任→叙爵,推薦→推挙


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