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幕間 夢幻晶とゴーレム

どこに、この話を入れるか迷いましたが、とりあえずここで。

 ルイス子爵の反乱鎮圧の後、リスィ村に帰った俺は、静養と称して我が私有地に籠もっていた。1ヶ月余りの間、やっていたことは2つある。


 前半は紫夢幻晶作りだ。

 前にも説明したが、俺自身の魔力増強のためだ。もう少し補足すると、上限値もそうだし、瞬間的な投入量も上がった。それは、魔術の規模ではなく、同じ魔術でも威力を高めることができる。


 原典の知には、呪文の意味が書かれていた。伝説の始祖三賢者以前の魔術士が営々と研究してきた成果と言うべき知見だ。


 現在の魔術には初級から最上級まで位階があるが、始祖三賢者のジョセフ・アペリウスが、魔法から魔術を創り出した時には、そのようなものは無かった。


 だから、魔術士は誰でも会得さえしていれば強力な魔術を発動できた。しかし、頻繁に魔術が暴走し、大怪我を負ったり、命を落としたりしていた。


 そこで、やはり始祖三賢者のダヴィデ・サラキンが位階を創った。呪文を洗練し、投入できる魔力の上限を呪文の中の魔術式に組み込んのだ。これにより魔術行使スキルに応じて、より巨大で強力な魔術を使えるように、逆に言えば、拙劣な術者は、無理な発動ができないようになった。


 そして、最後の1人、メガエラ・アメリウスが、魔術習得の魔石使用とギフト・システムを作り上げたことにより、魔術行使による術者の安全性が担保できるようになった。

 その代わり魔術は、個性が激減して自由度が喪われた。特に賢者や大賢者でもない一般の魔術士にとっては。


 メガエラ・アメリウスは、それを行き過ぎと反省し、闘皇の化身システムに原典の知の継承の術を忍ばせたのでは無いだろうか?

 そう俺は思っている。



 前置きが長くなったが、俺は会得した魔術式の一部を書き替えた。無論魔石を経由することなく会得したので、ギフトによる流出は無いはずだ。

 書き替えにより、その気になれば初級魔術によっても、中級並の威力を出せるようになった。無論投入魔術の制御は面倒だし、魔力消費効率は良く無いが。


 そう言った訳で、自分自身を強化するために、夢幻晶を作っていたので、最上級の紫のみに集中していた。

 他にも使い途は無いのかと、一瞬考えた時に、莫大な情報が流れ込んで来た。

 それが、原典の知の問題点だろう。全てを記憶しては居るが、意識下にもって来るには、それに興味を持たねばならないのだ。


 夢幻晶は、周囲から魔素を吸い上げて、魔力を自律的に作り出す魔力源とできる。しかも、紋章魔法を刻印することで、固有機能を持たせることもできる。これにより屑魔石の代わりと言うには、余りにも贅沢な使い方もできる。


 ただし夢幻晶にも品位が3段階ある。

 紫、橙、紅だ。

 紫は劣化せず、また刻印できる紋章も大きい高品位だ。

 橙は、おおよそ数百回の補給で使えなくなる。

 紅はさらに魔力上限が下がるという感じだ。


 したがって、本来夢幻晶は紫だけだと思うのだが…。


 他の用途は?

 そう考えたとき、ジュダを封じた魔術武器としての使用がある。しかし、夢幻晶の最も有効な使い方は、ゴーレムの核とその動力源とすること。原典の知にはそう記されていた。


 その観点で言えば、俺自身がある意味ゴーレムなのだ。

 俺は、そこからゴーレムにも興味を持った。


 初歩は石を材料とするストーンゴーレムだが、上級のメタルゴーレムに興味を持ったところで、金属の精製、冶金の技術と魔術情報が入ってきた。

 土属性と火属性の中級魔術を使える俺は、金属魔術が使えるようになった。無論会得した。


 1ヶ月の後半は、これらの環境が揃ったので、橙夢幻晶とゴーレムを作り始めた。


 最初に作ったのは、単機能のストーンゴーレムだ。


 廃坑跡に、大きめのコテージを作り上げ、そこで作業開始だ!


 中級土属性魔術の岩霹靂がんへきれきを使って、大きな岩塊を生成する。本来この魔術は、上空に岩を生成して落下させる攻撃魔術だが、岩の出現位置を変えることも可能だ。


 次に奔流錘をウォータジェットとして使い、岩塊を必要な形にカットする。

 これで、身体の形を作った。

 体長は、3m程。

 用途は穴掘り用で、腕に多くの棘を生やし、これを回転することで掘削する。



 問題は、ゴーレムの核だ。

 黄色転移結晶を3つ融合して作る、橙夢幻晶に紋章を刻印して作るのだが。


 ただ刻印できる規模を、紫夢幻晶に比べ、大幅に小さくせざるを得ない。

 規模を大きくするには、紋章を細密に刻む必要があるが、像が暈けやすく限界が来てしまう。

 まあ、仕方ない。


 不満を持ちつつも、刻印魔法、篆刻てんこくを行使した。


「よっと」


 横たわったストーンゴーレムの胸に登る。

 できた橙夢幻晶を、近づけると、ぼうと光り出した。

 おおと思いつつ、手を離すと夢幻晶が岩にでできた胸に吸い込まれた。


 起動!


 地面に降りた俺は、初の指令を与えた。


 ギギギシギシと、ゴーレムは音を立てながら、まず上体を起こし、手を突いて立ち上がった。


 すげーーー。

 一発で成功したよ。俺って天才?!


 まあ、俺というよりは、原典の知に拠るところがほとんどなので、誇るのはお門違いだ。


 直立すると、指示待ち状態になった。


 よし、試運転だ!


- 玄天移げんてんい -


 廃坑の東第一坑道に転移した。


 壁を掘削しろ!


 俺が指令を与えると、腕を回しながら、岩壁に近寄る。


 ドゥウウウウン…ギギギャギャギャギャ……。


 う、うるさい。減音力場を作りだして見ていたが。

 うううむ。やっぱりか。


 パワーが足りてない。

 掘削の速度が、想定より遅い。遅すぎる。


 もちろん、人力に比べれば、数倍の能率はあるが。さらに数倍のトルクが欲しいな。


 トルクの源泉は、魔力だ。

 ならば、不具合はゴーレムの核だ。


 やはり、橙夢幻晶に刻んだ紋章に課題がある。


 夢幻晶を作り直すこと数回。

 多少改善したが、到底満足のできる域では無い。


 根本は、紋章中のパワー系の記述の割合が多くできないからだ。

 それは前提として、ゴ-レムが、俺が言ったことを理解できるように、知識系の記述が紋章の結構な割合を占めてしまうからだ。


 うーーん。難しいなあ。

 やはり、紫夢幻晶を使うべきか。


 いや、だめだ、だめだ。どれだけコストを掛けるつもりだ?

 紫夢幻晶は、がんばったとしても1日に3個ぐらいの精製が限度だ。試作はともかくとして量産など不可能だ。


 橙色なら、1日数百は作れるし、俺でなくとも作れる可能性がある。だから、ゴーレムは橙夢幻晶で稼動できることが必要条件だ。


 ならば、どうすれば良いのか?

 参考になる手本はないのか?


 実際の鉱山はどうなってる?


 鉱夫が居て。そして、親方として坑道の管理者が居る。


 そうか。

 また、単純なことを見落としていた。

 誰が天才だって?

 まったく恥ずかしくなるね。


 掘削用ゴーレムの核では、人間の言葉は最低限の緊急時の停止指令のみ理解できることのみに絞った。したがって、指令は細かく魔法で与えることが必要だ。だが、それで知能系の紋章はばっさり削り、パワー系に多くを割けるようになった。


 とは言え、俺もしくは術者が、ずっとお守りをするなどは、現実的ではない。

 そこで、お守り専用のゴーレムも作ることにした。

 パワーは人間ほどしかでないが、知能系を重視したメタルゴーレムだ。俺の抽象的かつ包括的な指令を、個々の細かい指令に展開する機能を持たせた。


 そして、チーフと名付けた。


「チーフ。掘削用ゴーレムに、岩壁を掘らせろ。とりあえずフルパワーだ」

「了解しました。御主人様」


 甲高い声が返ってくると即座にストーンゴーレムが、腕を回して掘り始めた。

 そこに向かって、何歩進み、両腕を差し出して、軸回転させる。その指令は、俺の包括的な希望を、チーフが細分化、翻訳して、掘削用ゴーレムに与えている。

 上手く機能した。

 出力というか掘削も、ようやく狙いの速度が出て、俺は満足した。


 後は。

 俺は、夢幻晶を作るゴーレムを作った。

 流石にこいつには、紫夢幻晶の埋め込みが必要だったが。

 量産前提ではないので許容範囲だろう。


 3体を作り上げると、玄天魔術を使って亜空間の間を作って設置した。言うまでもないが、防犯対策と情報流出を恐れたものだった。しかし、そこでは魔力の充填が通常空間より速いことに気付いた。

 そいつらに、フル稼働させると日産300個作れた。なかなかのものだ。


 また俺自身の回復も亜空間の方が早いことを確認し、別途瞑想の間を作って時々籠もるようになった。


 ラムダに話すと、とても嫌な顔をされた。

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