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幕間 ドミトリー侯爵城にて

 ──アンジェラ視点──


 ルイス子爵の反乱は、仮面の魔術士ことシグマ様に鎮圧された。


 シグマ様は、腐敗亜竜ワイバーン・ゾンビやハーピィを多数斃す活躍をされたが、精神的外傷を負われたようだ。口数が少なく理性的な行動は変わらないが、セリムの地で少年を治療した頃の元気というか生気には達していない。

 シグマ様自ら、休養が必要だと仰ったところからも、そう言えるだろう。


 亜竜を葬るには千人の兵が必要と言われるが、お一人で斃された疲れと見るのが自然だが、規格外のシグマ様もそうだろうか。

 もしかしたら、反乱の首謀者であるバルドーの死骸が無くなったことが影響しているかも知れない。


 サマルードに着き、侯爵様への報告の後は、転移ゲートを使って、すぐドミトリー伯爵領に戻ると言われたので、私自身は一足先に戻ることした。


 城内に入り、伯爵様に帰城報告したい旨を取り次ぎに依頼する。

 まもなく、伯爵様の執務室に通された。


 伯爵様と家宰様が入室されたので、私は敬礼して迎える。ソファに差し向かえに座った。


「良く戻った。アンジェラ。詳しく旅の状況を伯爵様へ説明申し上げよ」

 私が付き従うラムダ様の父上、アイオライト子爵の言葉だ。

 真面目なのは分かるが、労いの言葉一つもあった方が、人心収攬ができるのだがな…。


「ジェイク。そう急かずともよいではないか。アンジェラ役目ご苦労であった。折に触れての書状も読んでおるぞ」


「はっ、痛み入ります」

 思わず会釈する。


「小官も目を通したが、中々に信じがたい。王都で叙爵頂いたのは、伯爵様のご威光もあり、円滑に進んだのは分かるがな。その後、大賢者ラティス卿に気に入られ、魔術の手解きを受けられたというのは真か」


 えっ。そこで既に納得できないの?


「無論です。トリニティ・カーラ・ラティス卿は、シグマ様にかなり親密に接しられます。さらにラムダ様には、自らの孫のように扱われまして…申し訳ありません。話が逸れました」


「うむ。問題ない、事細かに話すのだ」

「はい。魔術としては、多くの中級魔術を、シグマ様に伝授されているだけでなく、転移結晶や魔水晶を自ら作ることのできる魔法についても与えられたようです」


 伯爵は、腕を組み顎に手を当てて唸っている。

「あの人嫌いで有名なラティス卿がなあ」


「いえ、驚くのはまだ早うございます。なぜかはわかりかねますが、火属性と風属性の合成魔術である爆炎魔術、光魔術をも、中級魔術士にして使われております」


 士爵が後を引き継ぐ

「それで、コカトリス、闘皇の化身であるエンシェント・タートルにヘカトンケイルまで斃したと申すか」


「はい。まあ、化身につきましては、ラムダ様に加護を下賜頂くために、共に戦われてはおります。ただ。昨日のことで、報告が間に合っておりませんが、空を飛び、ワイバーン・ゾンビをも一人で斃されました」


「なんと」


 伯爵様と士爵が、顔を見合わせている。

 無理も無い。語っている私自身が信じられぬのだ。

 白昼夢を見たのでは無いかと言われれば、返す言葉が見つからない。


「ワイバーンと言えば一軍よりも強いと言われるのを知っているのであろうな」

「存じております。ただ、同行したルイード家の私兵数十人も見ております。それが元で一時的にシグマ様は体調を崩されておりますが」


 お二人とも、何度か頸を縦に動かし、何とか信じようとされているのが分かる。

 そして、伯爵が重い口調で話された。


「そなたの言が正しければ、我が領内で最も強い魔術士となるな。これはいがかしたものかな…」

「王都から送られた書状に依れば、王立魔術学院アカデミーのフォルス准教授の人評では、精々中の上の人材とあったはずだが」


「最も強いかにつきましては、私はそう信じられます。フォルス殿のご評価との食い違いにつきましては、シグマ様の急速な成長もありましたし、ラティス卿より、能力を過小評価させる隠蔽魔術が施されて可能性があります」


 士爵が話を続けた。

「うーむ。なるほどのう。それはいずれ確認するとして。その他に気になることは?」


「はい。いくつかございます。一つ目は…シグマ様は、かなりのお金を手にされています。王都の域内に館を買われました。ご当家出入りのゼノン商会と懇意にされています」


「そうか、他は」

「ルイード侯爵家嫡男、ヨーゼフ殿を死病から魔術をもって救われました」

「なんだと。シグマは、医学を修めていたか?」

「分かりませんが、それは、侯爵家家宰頭の方も申されていましたし、主治医の方も下を巻いて居られました」


 士爵は、疲れたように項垂れ頸を振った。


 伯爵様は、何か考えられるように瞑目されている。


「早急なる対策が必要だ。して、ラムダとの中はいかがじゃ」

「ヨハン様」


「ご存じのこととは思いますが、相思相愛です。私が知る限り、一線は越えて居られませんが、それに準じる段階と言えます」


 士爵がそれに準じるっと小声で繰り返していた。


 伯爵様は目を見開いた。

「わかった。……ジェイク。そなたの主君としてではなく、友人として頼みがある」


「はあ。どうされました?どのようなことでしょう」

「そなたの娘、ラムダを我が養女としたい!」


 一瞬惚けた表情が浮かぶ。

「…理由を、理由をお聞かせ頂きたく」


「無論じゃ。シグマは得がたい人材だ。その人材をつなぎ止めるには、我が一族に迎えるのが最良と考えるからだ」


「…つ、つまり、一旦ラムダを娘とされ、シグマに嫁がせるということでしょうか?」

「そうじゃ。我が娘では幼すぎるからのう」


「お考えは分かりますが、そこまですることが…単純にラムダを嫁がせるではダメなのでしょうか?」


 士爵は険しい顔だ。まあ愛しい娘の婚姻だ。予想はしていても納得が行かないのだろう。


「もっともな言い分じゃが。問題は…既にシグマは、ルイード家に目を付けられていると言うことじゃ」


 数秒の沈黙の後。


「承りました」


「うむ。済まぬの。では、シグマが帰郷し次第、まずは二人を別々に、ラムダから我が元へ出頭させるのじゃ」


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