表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
45/122

38話 魔獣島(10) 力皇の加護

 いつも冷静な、アンジェラが声を荒げた。


「ヘカトンケイルと言えば、巨神種ではありませんか。我々が太刀打ちできるはずなど…」

「ああ、劣化してる」

「は?」

「巨神が唯々諾々と化身に納まっていると思うか?」


 やや腑に落ちた顔だ。

「なるほど」

 

 ヘカトンケイルを言うなら、サイクロプスも神話由来で神と言えなくもない。まあ、今ではモンスター扱いのゲームの方が多いが。


「疑似的に作り出された物だ。いくらメガエラ…」

 おっと。


「メガエラ?」

「ああ、名高い賢者メガエラ王女でも本物には敵わない。つまり、そんな強敵が化身になる訳ない」

 ごまかせたか?いくら伝説の賢者メガエラでも、化身などにできるはずがないと言い掛けたが。それを言っては、アンジェラに何でそんなことを言えるのかと尋問に遭うだろう。


「そうですよね。少し安心しました。それにしても、神名を冠するだけあって強いのですよね?」

「その通りだ、まともに力勝負すれば、圧倒的に不利だ。俺に策がある」


 広場に出た俺たちは、第一の化身サイクロプスに向き合った。が、昨日と同じくビーム魔術・煌芒閃こうぼうせん一撃で葬った。


「油断するな、現れるぞ」


 地響きと共に、大地が揺れ、地中から土埃を立てながら、化身がせり上がってくる。

 そのまま、空中に浮かんだ。

 多宝如来か!

 そうツッコミを入れたくなったが、それどころでは無くなった。


 化身の姿がはっきり見えない中で、大きな岩が幾つも射出されてこちらへ飛んで来たからだ。

 無論、俺は造作もなく避けることできるが、ラムダはややパニック気味に右往左往している。危ないな。


─ 青嵐斬せいらんざん×2-


 風系魔術で、切り刻んでやる。

「ありがとう、シグマ」

 手で前を向けと指し示す。


 ズゥウーン。

 土埃が晴れてきた。


 ヘカトンケイル。

 伝説では、五十面百臂。

 つまり頭部が50あって腕が100本有る巨人とのことだが。この化身は、頭は4つ、腕は6本しかない。個数の少ないのが劣化では無いだろうが。


 それでも体長は8mほどはある。

 でかい。

 足も大型の野獣ほどあるが、何と言うかバランスが悪い。腕が成人程有り、決して細くはないのだが、象ほどもある肩には不釣り合いなのだ。


「あれ?なんか、腕が少ないよね。ショボくない?」

 ラムダのその言が聞こえたからでもないだろうが、化身の双肩が鈍く輝いた。それが放射状に延びていき…。


 腕!?


 光が無数の腕をかたどる。それらが、手に手に大岩を召喚した。


「ラムダ、岩が来るぞ!」

 叫びながら、再び風系魔術だ!


─ 青嵐斬せいらんざん×3 ─


 飛んでくる大岩を異なる3つの仰角で切り刻み、全て破砕した。破片がラムダに当たっているようだが、流石は剛皇の加護(中級)、ノーダメージのようだ。

 破壊できなかった岩も、鉾槍ハルバートで斬り飛ばしている。


 今度はこっちの番だ。


─ 玄天黒界 ─


 玄天魔術。時空に干渉する魔術群だ。

 この魔術自体は、特定座標の重力場を歪ませる。媒介中間子に質量を持たせることで極微の時間のみ存在させ、魔術発動時に設定した範囲内のみ作用させることができる…らしい。


「あれ?止まった?」

 まるで縛鎖に囚われたように、ヘカトンケイルが静止した。自らが重くて動けないのだ。

 ラムダが俺を窺う。

 大きく頷く。


 全てを理解したラムダは突進していき、魔石に念を込めつつ、渾身の力をもって鉾槍を揮いまくる。

 黒光りする皮膚から、紅い血が噴き出す。劣化神にも効いているぞ。


 俺はと言えば、玄天黒界が途切れないように供給を持続しつつ、ラムダのMPが切れそうになる度に、中級回復魔術の竜涎りゅうぜいを発動して補給してやる。


 こんな面倒くさいことをしているのは、力皇の化身たるヘカトンケイルに、ラムダ自身でダメージを与えさせるためだ。そうしなければ、加護が下賜して貰えないのだ。

 今は相当効果を抑えている玄天黒界も、本気で行使すれば、魔獣を動けなくするどころか、自重による重力で圧壊させることも可能だろう。


 さて、そんな思考を巡らせていく内にも、ヘカトンケイルのHPはどんどん減殺されていく。突き技のみでなく薙ぎ技も連撃となっているようだ。槍術上級は伊達じゃないな。


「ラムダ。がんばれ!もう少しだ」

「了解!」

 力を振り絞って、さらに袈裟懸けに斬りつけていく。


 それから結末は数分後に訪れた。

 劣化神は無音の極低周波の空気振動を発すると、無数の星屑を散らせて消えた。


 ふうぅぅうう。


 それを見届けた、ラムダは相当疲れたのだろう、鉾槍の石突を大地に突き立て、縋り付いた。その数秒後。


 おおぉぉ。

 野太い声が上がる。

「どうした」

「力が、力が漲ってきた」


 加護が得たようだ。修慧で見ると、確かに力皇の加護が中級に変わっている物理攻撃力のSTRが倍近い…だけじゃない。HPが2割、MPが2倍弱に増加している、これは驚きだ。まあMPは定率ではなく定量が増加したのだろう。元が低かったので率は大きくなっているということだ。まあそれでも魔術士の平均には足りないが。


「良くやったな。ラムダ」

「うん。がんばったよ、ボク。でもシグマとアンジーの助けがなければ、化身を2頭とも斃すことができなかったよ。ありがとう。本当にありがとう」


 その目線で、俺の後ろにアンジェラが立って居ることに気が付いた。

「さて、一度コテージに戻ろう」




 和やかに話しながら、徒歩で戻るとコテージの戸口に人影があった。

 あっ。そう声を上げると、ラムダが駆け出した。


「カーラさん!?」

「おーおう。ラムダ。ずいぶん元気そうじゃの」

 大賢者トリニティー・カーラ・ラティスは相好を崩して、ラムダに抱きつかれたままにしている。

「うん。みんなのおかげで、加護が2つ穫れたの」

「そうかあ、それは良かったのう」


「でもなんで?どうして魔獣島に来たの?」

「おぬしに会いに来たと言いたいところじゃが、実はシグマに用があるのじゃ」

「シグマに?うーん。まあいいや。お茶淹れるよ」


 俺たちは、コテージに入りお茶で一服すると本題となった。

 カーラさんを空き部屋に誘う。椅子を出庫して向かい合う。


「儂がここに来た理由は、察しが付いているであろう」

 カーラさんは、ラムダと接していたときとは別人の、締まった表情だ。

「ええ、大体は」


「ほれ、これが儂の手元に来た。15年ぶりのギフトじゃ」

 黒い魔水晶を俺に見せた。


「それは」

「玄天魔術のものじゃ。お主が刻印したのじゃろう」

 猛禽の目だ。


「…はい」

「そうか、お主は4属性全てを持っているゆえ、いつかはそういうときが来ると思ってはおったがのう。別れて一ヶ月足らずか、呆れて物が言えぬ」


「はあ」

 メガエラ始祖賢者から授かった原典の知に拠れば、玄天魔術は4属性黒魔術の内、対となる属性、風と土、火と水の少なくとも1対の上級魔術以上、あるいは2対つまり4属性全てが中級となれば、会得する資格が得られる。カーラさんは3属性上級で前者、俺は後者に該当する。


「お主、賢者と大賢者を分けている条件は、この玄天魔術と知っておろうの」

「へえ。戦略級魔術を使えるかどうかと思っていましたが」


 カーラさんは、脚を組み頬杖を突く。

「いいや、例えば王女のメガエラを知っておろう。やつは、戦略級を使えるが、賢者扱いじゃ。理由はそういうことじゃ。口外するでないぞ。玄天魔術の重要さは少しか分かったかの…」


 俺は無言で数度頷かねばならなかった。

 確かにメガエラ王女の属性は、おそらく風と火だ、それでは対とならない。


「…それと。玄天魔法の呪文を如何にして覚えた」


 俺は、化身のシステムのことを話した。


「…そのようなものがの。メガエラはメガエラでも始祖三賢者か」

「俺はもう分かりませんが、玄天移を使えるカーラさんならば入れるはずです。行きますか」

「…いや、行かぬ。儂には必要な無い魔術に知識じゃ」

「そう…ですか」


「お主もじゃ。これより、玄天魔術については、魔水晶の刻印を禁ずる」

「なぜですか」

「このギフトじゃ。お主が覚えた玄天魔術が、儂以外の者の手に渡れば…いや次はきっと渡るであろう…そうなれば、お主の存在は草の根分けて突き止められ、場合によっては軍を持ってお主を葬るやもしれぬ。現政権にとってはそれだけ物騒な魔術と知れ」


 ふーむ。

「…分かりました。以後、玄天魔術について魔水晶・・・の刻印はしません」

「そうか、物わかりが良い男は好きじゃ」

「え?」

 少し罪悪感を感じた。


「冗談じゃ。どれ、胸を捲って見せるのじゃ。お主の身体の状況は大凡おおよそ、呪いを通じて伝わって来ておるわ」


 俺は、言う通りチュニックをはだけて、胸を露わにした。


「ふーーむ」

 カーラさんは、顔を近づけ胸の手形を見つめる。

 そして、瞑目した。


「さぞかし、辛かったであろう」

「いえ、特には…」

「嘘を吐け!」

「…まあ、朝起きると、うなされたり、汗を大量に掻いたりとか位はありましたが…」


 上目遣いで、睨まれる。

「そのようなことで、済んで居るとは思えぬが」

「玄天魔術の副作用ではありませんよね」

 原典の知にも無かった。


「いや、それはない。儂を見よ。お主の容態の悪化は、呪いの進行じゃ。儂の対向呪も健在ではあるが、用心に越したことはない」

「はっ?」


「お主の寝起きする部屋に行くぞ」

「はい」

 チュニックを整え、俺の部屋に向かう。

 途中でソファに座った、ラムダが無言でこちらを見ている。


「さて、この寝床に寝て、もう一度胸を出すのじゃ」


────────────────────


「ラムダ」

「はい。カーラさん」


「用は済んだ。儂は帰るぞ」

「えっ?もう帰るんですか?…それで…シグマは?」

「今は寝て居る。明日になるまで、起こすでないぞ、よいな」


「…はい」

「心配は要らぬ」

「でも、シグマは朝になると、とても苦しんでいるんです」


「…そうか、気付いておったか…ラムダよ。男を奮い立たせるばかりが、女の為すことではないぞ」

皆様のご感想をお寄せ下さい。

ご評価も頂けると、とても嬉しいです。

誤字脱字等有りましたらお知らせ下さい。


用語解説

・多宝如来

法華経のクライマックスで、地の底から多宝塔となって現れる仏。安土城天守閣の地階に有ったかも?とされる宝塔はその情景を模したものとの説がある。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ