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36話 魔獣島(8) 次元魔術

 昼食を摂りながら、昨晩の作業を思い出していた。

 魔水晶の呪文の分析だ。

 これまで、会得した魔術は、自分で刻印した物はもちろん、ギフトで貰った物も、予備知識があった。どういった魔術か分かっていたので、畏れることなく会得してきた。


 しかし、この2つ黒い魔水晶は違う。

 魔術の名前も分からず、一言で言えば、得体が知れない。

 なぜ今になってギフトがと言う疑問、未知への躊躇ちゅうちょ、黒という色への恐怖。

 そうした気持ちが綯い交ぜになって、光あれとは口に出来ない。


 それで、乏しい知見を基に、見える呪文の分析を着手したのだが。

 大部分は、見たことがある文字列だ。

 他の魔術で大凡挙句の直前に出てくることが多い。魔力を込めるループの後だ。

 つまり、色からも分かるように、この魔水晶は4大属性では無い。無属性…。


「…だよね?シグマ…ねえ。シグマ。聞いてる?」

「ああ。悪い。考え事してた」


「もう」

 ラムダが、ぷんすか怒っている。


「で、何の話だ」

 ちょっと、ラムダの表情が柔らぐ。


「ああ、エレさんの薔薇の香りが、香水なのか、魔術なのかってことから始まって…」

 女子はそういう話し好きなんだろうな。

「…逆にアンジーは、全く香りがしないよねと…」

 はあ。

「…それってやっぱり、隠蔽ハインディングスキルのため?って訊いて…」

 俺もそう思ったぞ。

「それで、シグマもね姿を消せるって話で、アンジーと同じなのか?って聞いたら、違うって言うからさあ」

 食事時にしては、随分とコアな話題に変わったな。


「少し考えれば分かるはずです。シグマ様は魔術。私はシーフの技です。まあそれだけではありませんが」

「と言うと?」

 いいぞ!ラムダ。その無遠慮さ加減。


 この2人はかなり打ち解けたようだ。アンジェラは、やや表情を変えつつ、話を続ける。

「まあ、簡単に言えば。シグマ様は本当に見えませんが、私はそうとも限らない。要は気付かれなければ良いのです」


「意味わかんないってば」

「そうですね。人は見たくない物は、目に映っていても見えないってことです」

「はあ?ますます分からないって」

「ふふふ。いいんですよ。お嬢様は戦士なんですから」


 目に映っていてもか…。


 俺も本当は目に映っていても、理解するのを避けている?

 この魔水晶が何者なのか──


 この黒い魔水晶は、時空魔術に違いない。つまり、可燃物や空気や水を亜空間から取り出すのが魔術なら、時空魔術こそが魔術の根源だからだ。


 夜になったら会得するか…いや、今すぐ会得しよう。いつもプロメテウス(先に考える)が正しいとは限らない。


 光あれ──

 光あれ──


 眼の奥に神聖文字が躍り、それらが瞬いて消える前に、紋章も見えた。これまでより、こぢんまりした大きさだ。それが何を意味するか?今はエピメテウス(後で考える)に徹しよう。


 俺は、玄天翔げんてんしょう玄天移げんてんいを会得した。

 魔術を会得すれば、それを行使しなくても最低限の情報、例えば名称、位階、属性、効果概要がイメージできるようになる。もっとも俺は、カーラさんの家で学んだ知識が先にあり、今までは確認にしか使ってなかったが。


 玄天翔は飛行、玄天移は瞬間移動を可能とする。

 やはり時空魔術だったか。

 玄天移はおそらく、カーラさんが俺を連れて荒野に転移した魔術だろう。飛行魔術は、前世(β)のデモプレイで、名高き賢者メガエラ王女が使っていたのがそうかも知れない。


 魔術名の、玄とは黒と同じ意味だ。他のゲームで言うところの闇魔法相当なのかも知れないが。他にどんな魔術があるのかは興味が尽きない。


「シグマ。何をやってるの?」

「ああ、新しい魔術を思えた」

「へえ…。どんな?」

「俺もやってみるまでは分からない」


「そっか。ボクも、もっとがんばらないとなあ」

「そんなことないぞ。ラムダは良くやってる」

「本当?って、シグマは嘘付かないもんね」


 少なくともお前にはな…そう考えた時に、ラムダの向こうでアンジェラが苦笑していた。


 それから数時間。

 合計5回ほど会戦し、至極順調に撃破した。



 それはラムダも思っていたようだ。

「あのさあ。本島より、こっちの島の魔獣の方が弱いのかな?」

「弱いと言うより、ラムダと相性が良いんだろうな」

「相性?物理攻撃に?」


 この娘は察しが良い。

「そうだ。まずは武器で歯が立つしな。あと打撃がダメージになるからな」

「そうだよね。あの大亀の足なんか、ボクが斬っても斬っても全く感じてなかったし。その点こっちは、効果有るよなあ」


 ラムダもここ数日で確実に強くなってからな。

 そんな会話を2人でしながら歩いていると、前方にもう1人の仲間が立って居る。


「シグマ様。この先300m位のところに化身の広場を見つけました。ただ、残念ながら、先客がいます。つい先ほど、対戦を始めたばかりです」

 アンジェラは偵察に行っていた。


「仕方ない。今日はあきらめるか」

 もう4時近い。秋の太陽は釣瓶落としというぐらいで、今は明るくても、あっと言う間に暗くなる。速攻で斃せれば良いが、今戦っているパーティーが長引けば、日没に掛かることが十分考えられる。まだ3日目だ。そんなに焦ることはない。

 それよりやりたいことがある。


 まずは…。

「コテージを設置するか」

「良い場所を見つけておきました。こちらです」

 

 踏み分け道から50m程林に分け入ったところに、やや開けた平地があった。

 土属性魔術で整地し、コテージを出庫して設置した。

 そして夕食の準備をラムダに託し。俺は偵察に行くと言って、外に出た。


 我空ステータスを意識して、魔力(MP)の現在値を確認、そして港町フェイエの近くの草原を意識した。


─ 玄天移げんてんい ─


 眼の中に小さくいびつな紋章が煌めくと、辺りが暗く、何時にも増して暗黒に包まれる。ガフの間…?しかし、その後が違った

 目の前に、虹色の光が見えた刹那、それが爆発するような勢いで広がったように見え、俺は草原に立って居た。


 俺は転移したらしい。

 街道から外れているせいか、辺りに人影はない。北を見ると湖水の先に、フェイエの街がある。


 あの暗黒はワームホールだったのか?

 転移結晶を使う時のような、溜めは無かった。おそらく転移に掛かったのも数秒にも満たなかったはずだ。

 魔力(MP)は?我空で見ても変化が分からない。ほとんど消費していないのか…。まあいい、次は──


─ 玄天翔げんてんしょう ─


 飛んだ!

 身体の重さががくっと減るような感覚が走った途端、足は地から離れ、十mほどの高さに居た。まるで自由落下しているようだが、周りの景色は静止しており強烈な違和感に襲われる。しかし、視覚以外でも上下の方向は認知でき、重力は少し残っていることがわかる。


 着地をイメージすると、みるみる落ちて接地したものの、ちょっとした階段を降りたような衝撃しかこない。

 重力が減った?


 試しに腕を振ると、戦士の頃にも味わえなかった程のスイング速度が出た。ヤバいと思って減速したが特段の反動もなく、まるで筋力だけが上がったかのようだ。

 我ながら引くなあ、この魔術の効果は。


 傍らにあった自分の頭ほどもある石を掴むと、苦もなく持ち上がった。握力というか指先との摩擦のみで把持できている。怪力…の実感がないのだが。

 目の高さまで持ち上げて離すと、いつも通りの加速で落下し、がすっと地面は鈍い音を立てた。重力が軽減されるのは、俺が触っている物限定のようだが、かなりやばい魔術だ。


 ふむ。次だ。

 俺が地面を蹴ると、月面の宇宙飛行士を遥かに超えた跳び方をした。


 ほう。肌を空気が流れ、暑気が去ってかなりの清々しさだ。着替えた麻のマントがたなびく。高度上げつつ、南へ進路を向ける。特に何の難しさもなく、思い通りに飛行できる。

 何時しか陸地は後方へ去り、海上を水平巡航している。空気の流れをほとんど遮断しているのか風は強く感じない。比較する物がないので、ゆっくりに感じるが、おそらく航空機の着陸寸前のスピードくらいは出ている。


 数分そのまま空の旅を楽しんでいると、街が見えてきた。まずい!


─ 泡影ほうよう ─


 慌てて光学迷彩魔術を行使。人口が多ければ、飛んでいるところを見咎められる可能性が高まる。近付くにつれて、城塞都市かつ大都市であることが分かる。


 我空を意識。

 あそこが、ルイード侯爵領サマルードかあ。王都よりは規模が小さいものの、なかなかの繁栄ぶりだな。高度を上げる。ぱっと見、楕円形だ。長軸が3km強、短軸で2km弱か。王都程緑地が多くは無く、都市計画も一見無作為というか有機的だ。一気に高度を下げつつ、外縁を過ぎる。

 都市の転移障壁…と思ったが、特段の抵抗なく入城できた。そのまま、突っ切って、城門の外まで飛び、接地した。

 これで、転移結晶で、ここまで来られるようになった。

 よし。島に戻ろう。再び舞い上がった。



 前方の水平線に島影が見えてきた。ベラミ群島、魔獣島に違いない。それもあっと言う間に近付いてきたので、慌てて減速を意識する。


 島の上空に差し掛かる。本島上空を通過、広場にはストーンゴーレムがゆっくり歩く姿が見えた。中之島に近付き、高度を100m程、速度もホバリング並みに落とした。


 中之島の中央に、広場が見える。


 サイクロプス


 一つ目の巨人だ。力皇第一の化身に違いない。

 頭頂に大きい角を蓄えた魔獣は、右手に人間大の棍棒を持ち、恐るべき速度で振り回している。

 挑戦者パーティーは、6人だな。

 もうすぐ、日没だぞ。


 メンバーは槍を持ったタンク役戦士が3人、シーフ1人に魔術士2人か。額面上は良いバランスと言えるだろう。魔術士に十分な攻撃力があればの話だが。

 1人が回復、もう1人攻撃に回っているものの、下級魔術を漫然と発動しているだけだ。

 それなりにサイクロプスを削っていっては居るが、ヤツのHP上限は驚異的だ。

 ダメージで言えば、壁役の損耗率の方が大きく、回復が追いついていない。このままだと破綻するぞ。


 それから数分後。

 挑戦者パーティーも理解したようだ。

 撤退に移った。実のところ化身戦では撤退は容易だ。

 広場の縁、結界の外までは、追って来ないからだ

 前衛の1人が、閃光榴弾を投げ、サイクロプスが怯んだ隙に、メンバー全体がそこから出られた。悄然となりながら、撤退していく。林の向こうに消えた。


 さて。


 右腕を突き出す。


─ 天眼てんげん ─

─ 煌芒閃こうぼうせん ─


 サイクロプスの頭頂から顎にビームが貫通した。

 HP上限がいくら高くとも、脳が蒸発すれば、0になる。魔獣の巨体がほぐれるごとく、光粒子となって消えていく。

 広場の外から、化身を斃しても加護は得られないが、そもそも魔術士には与えられない。


 しかし、そんな光景をのんびり眺める暇はない。

 そこか!

 

 魔力が立ち上る。左手の岩場だ。そう天眼で見えた。手前に着地する。第2の化身が現れたが無視だ。

 岩を丹念に確認する。これか?


─ 肉眼にくげん ─


 凹凸が非常に小さいが、魔法紋章が刻まれている。

 その岩に触ろうとして、手を伸ばすと、俺は身体ごとすり抜けた。

 勢い余ってでんぐり返ししてしまった


 むう。

 一瞬身を強ばらせたが、敵意を感じない。

 目が慣れてくると暗い部屋の中に居ることが分かる。

 どこかに飛ばされたらしい。


 丸い部屋だ。近くに壁がある。さっき、ここを抜けてきたのか?


 燐火──

 あれ、発動しない。

 げっ。

 急に明るくなったと思ったら、化身の広場の脇に戻っていた。


 ふう。今度は転けなかった。閉じ込められた訳ではなかったか。少し安心して、再度さっきの岩に触る。

 あれ?

 身構えたが、何も起こらない。ぺたぺた触ったが反応なしだ。

 

 うーーん。だめだ。

 さっきはなぜ行けたんだ?

 まだ効力の残っている肉眼で見ても手がかりなし。

 分からん。


 こういう時は…もう一度、上手くいった時と同じようになぞるのが鉄則だ!

 えーと。俺は上空に居て、ここを見つけて降りてきた。


 じゃあ、上に昇るとするか。


─ 玄天翔げんてんしょう ─


 いや、ちょっと待て。このまま触るとどうなる?

 すーうとすり抜け、さっきの暗い部屋に入った。


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