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3話 幼馴染みとゲームスタート

 一旦暗転して視界が回復した。部屋の中だ。

 戦士プレイの時は、全部戸外でスタートだったが…

 魔術士は恵まれてるな。


 簡素なヨーロッパ風の内装。

 LSF(リスタ)の時代設定は、Lithic Stageと名付けられているが、いわゆる石器時代ではない。少なくとも中世後半の並の文明レベルはある。


 辺りを見回していると、自分の腕が目に入る。

 あぁ、細い。

 立ち上がり壁の鏡の前に立った。

 華奢だな。かなり痩せ型だ。背丈だけは180cm位あるが。


 当然と言えば当然だ、今までの戦士は重い武器が揮えてこそ意味がある。

 しかし、魔術士はそうではない。魔力とそれを支える精神があればいい。


 こう言う個性も良いか、続けてみよう。現実そのものだしな。


 ちょっと手脚を動かしてみる。

 やるなあ、先輩。動きが、βよりも滑らかになっている。かなり自然なフィードバックだ。


「で?ここは、どこなんだ」

 そうつぶやくと、目の前にキャプションが現れる。自らの館2階自室と簡潔な表示だ。

 しばらく、きょろきょろしてみたが、特にイベントが始まる様子がない。


「ステータス」


────────────────────────

 HP (ヒットポイント): 100(100)

 MP (魔力     ): 500(500)

 VIT(行動力    ): 300(300)

 

 STR(物理攻撃   ):  80+5

 DEF(物理耐久   ): 100+10

 AGT(素早さ    ):────

 INT(知性     ): 500

 MND(精神     ): 500+10


 DIN(所持金    ):      0D

                    0C

────────────────────────


 視認性を上げるためバー表示だが、右端にデジタル表示もある。値は全て一般成人男性の平均が100となっている。

 上から3つは、時々刻々と変動するので、現在の値と括弧内は上限を示す。

 HPは一般人並、魔力は前は100で一切上昇しなかったが。魔術士なら当たり前か。VITはいわゆる元気だが、そこそこあるね。HPは0になると死亡(行動不能)だがVITは0になっても死ぬことはない。疲れ切って身動きが取れなくなるだけだ。


 STRは…、これ酷くないか?絶望的だ。この腕の細さではなあ、致し方ないか。まあVITも高いし、やり方次第でカバーできなくもないがな。INTとMNDは十分高いな、初級魔術士としては。


「スキルリスト」


────────────────────────

●攻撃技

    なし

●黒魔術

 ・火属性:初級

    紅蓮ぐれん

 ・風属性:初級

    烈風れっぷう

 ・水属性:初級

    なし

 ・土属性:初級

    なし

 ・属性外

なし

●白魔術

 ・回復:初級

馥郁ふくいく

 ・解毒:初級

    なし

●無属性魔術

    虚空庫<P>(入庫、出庫、回収<P>)

    鑑査<P>

結印けついん魔法

    燐火りんか

    みお

    受肉じゅにく

●その他

    なし

────────────────────────


 おお、黒魔術の欄が存在してる。やや感動を憶えたが、魔術士だから当たり前だ。とは言え、使えるのは、初級火魔術、同じく風魔術の2つか。どうやら、4大系統の火系と風系に素養がありそうだな。


 白属性は、初級回復だけか、解毒の瑞光ずいこうが有ると便利なんだが。

無属性は、まずは魔術士に付きものの虚空庫こくうこいわゆるインベントリで、<P>の表示はパッシブスキルで、意識しなくとも常時発動していることを示す。入庫と出庫と回収を合わせて、虚空庫4魔術。回収は魔獣を斃した時にジェム化した魔獣結晶を、自動的に回収するものだ。


 あと虚空庫とは仏教の用語だ。虚空庫(蔵)菩薩という仏様もいらっしゃる。

 おお。鑑査(下級)がある。いわゆる鑑定スキルだ。下級だが。前回はこれを手にするまで相当苦労したが、魔術士にはデフォルトで付いてますか。なんだか、むかつくな。


 あとは結印けついん魔法か。照明や火種となる燐火りんかに、大気から水を取り出すみおか。それに受肉じゅにくは当たり前のようにあるな。これは、魔獣結晶を解凍するスキルだ。


「プロフィール」

────────────────────────

●名前

 ・本名:シグマ・ペリドット

 ・異名:なし

 ・称号:なし

●種別、性別、年齢

    人間、17歳(男性)

●職業

 ・天職:魔術士

 ・軍籍:なし

 ・所属:なし

●爵位・階級

    平民

●家族:

 ・父:ラルフ・ペリドット(戦士、士爵)

 ・母:アイーシャ・ペリドット(魔術士)<死亡>

 ・他:不詳

●詳細:▼

────────────────────────


 へえ。俺の名字はペリドットか。俺の誕生石と合ってるけど。入力してないし。うわっ。こっちでも、母が亡くなってるし。


 さて、後は追々で良いだろう。


 おっと。階段を下りようとしたが、そこをNPCが行く手を塞いでいる。頭上に!が顕現中だ。もう少し近づけば、拘束モードが始まるはずだ。


─ 鑑査 ─


 そうつぶやくと、女性の説明ウィンドウが開く。基本この魔術はパッシブで発動しているが、あまり説明が過多だとうざったいので、普段はキャプションが開くのみだ。鑑査とコールすれば、存在しているならば、詳細説明が表示される。

 さっき、何かちかっと光った気もするが気にしないようにしよう。


 説明書きには、アンナ、ペリドット家の女中。家宰ハンスの妻、農民、隣家の住人と書かれている。まあ、上に戻っても意味が無い。歩みを進めた。

「御館様が、お部屋でお待ちです」


 !が消えて、アンナさんが俺を促す。眉頭を寄せ上げた顔から、おろおろした心情が伝わってくる。NPCの表情コントロールも良い出来だなと改めて思う。


「わかった」

 俺の意図では無いが、勝手にしゃべっていた。既にクエストの拘束モードに入っていると言うことだ。指し示された扉の向こうが当主の部屋のようだ。自分の家なのにこの違和感はなんだろうか。一歩踏み込んだ瞬間に、辛気くさい微粒子が漂った気がした。


 父、ラルフ・ペリドット士爵のキャプション。

「シグマか」

「父上」

 父上って呼ぶんだな。

「どうやら、儂も黄泉よみへ行かねばならないようじゃ」

 やつれた相貌に加え、なかなか重厚な演技だが、突然すぎて感情移入が追いつかない。


「そのようなこと」

「済まぬな。そなたは母も知らず育ち、それに…さぞかし辛かったであろう。だが、シグマはここまで、よくぞ育ってくれた。うれしいぞ」

「父上」


「もうひとつ死ぬ前に申しておくことがある」

 思わず首肯する。

「門地のことじゃ。爵位のことは、気にするな。無理に継がぬとも良い。シグマが思うまま生きれば良いのだ。それに、この館にあるものは、何でも好きに使うがよい…」


 これが親か。つい1年前までは、壮健だったのだろう。

 しかし、今は死病に冒され、首筋が随分痩せている

 俺の白魔法で…初級ではだめだろうが。何もやらずに死なせて良いのか。

 さりながら、身体はおろか口さえも動かすことはできない。


「あと山もじゃ。だが、農地はだめだ。小作人達が居る」

「分かっております。父上。もうお休み下さい」

「あと少しだ。農地のことは、ハンスに任せよ。あいつは鉱山技師であったが、閉山にも関わらず、ここに残ってくれたのじゃ。頼りになる男だ。善く善く家のことは何事も相談するのじゃ。分かったな」


「はい」

「そうか。言っておくべきことはすべて申した。もう思い残すことはない……」

 声を紡がぬ唇は、アイーシャ今参るぞと動いたようだった。

俺は、やつれきった壮年の父と見つめ合った。

 何のエフェクトか、俺の頬は濡れていた。


 暗転し、三日後とキャプションが出た。俺は、墓地で穴に土を掛けていた。これは、先輩の差し金なのかなと考えていた。自分が病院に居て、父の死に目に会うことができなかったと言ったことが有ったが。その心残りを拭うために、このクエストを選んだのだろうか。ただ、また天涯孤独か…。


 遠くに蹄音が聞こえた。近づいてくる。3頭だ。顎髭を蓄えた壮年の男を先頭に、軽装ながら戦装束の一行だが、胴当のきらびやかさ明らかに貴族と分かる。


「伯爵様じゃ」

 参列者の何人かがつぶやく。どうと手綱を引くと馬は止まり、先頭の男が大柄な身体に見合わず身軽に下馬した。こちらに歩み寄ると右拳を左胸にあてがい、軍礼を表した。俺も一歩進み出て、左手を胸に、右脚を引いて膝を地に付け、頭を垂れた。これが貴族か。


「そなたが、ラルフの息子、シグマ殿か」

「はっ」

「此度は、戦友を亡くし、我は残念じゃ。我にも土を掛けさせてくれるか」

 俺は首肯すると、手にしていたシャベルを、伯爵に渡した。

 それ以外の葬儀をつつがなく終え、一行を館へ案内した。


 無骨な一枚天板のテーブルに、使い込まれた革張りの椅子。応接間だ。

「そなた。2年ほど、公爵領で魔術修行したと訊いたが」

 伯爵が切り出す。


 対面に腰掛けた壮年の男性。キャプションには、ドミトリー伯爵、カスター領領主とある。伯爵領か。拘束モードなので、特段やることはなく想像の翼を広げる。ここは国境に近い辺境なのであろうと推測した。


「はい。父の遠縁に、魔術士が居りまして。そこに師事していましたが、最近身罷みまかられまして。こちらに戻ってきたのですが」

「ほう。ラルフに、そんな親戚が居たとはな。初耳じゃ」

 そう言われてもなあ。勝手に俺のアバターが設定をしゃべっているに過ぎないんだけど。導入時に毎回思うが、すごく変な気分だ。

「それで?これから、どうする積もりじゃ?」


「はっ。できますれば魔術士として身を立てるべく、いずこかで修行致したく」

「修行とな。今でも一廉の魔術を使えると聞いたが」

 いや、たった4種類しか使えないし。


「この辺りに出てくる、魔獣で有れば追い払えましょうが」

「そうじゃな、昨今いささか物騒な魔獣も現れているからな。それで、修行できる当ては有るのか」

「いえ、特には」


 ふむと伯爵は顎髭を摘んだ。

「話は変わるが、爵位はどうする。知っての通り、士爵は準貴族の扱いでな、概ね一代限りだ」


 そういえば、父親の欄には士爵と書いてあったな。

 初期キャンペーンの舞台、ランペール王国の貴族制はオーソドックスな設定となっている。上位から公爵、侯爵、伯爵、子爵、男爵とあって、最後は士爵だ。公爵は大きい都市の総督位、侯爵は王都周りの中小都市を中心とした領地、伯爵は国境周りの領地を持つことがほとんどだ。子爵と男爵は通常領地は持たず、俸給が国庫から支給される。ここまでが本来の貴族であり、士爵は平民が功績を上げたときに授与する準爵位だ。基本的には領地も俸給もない、完全な名誉職だ。また個人が対象で世襲もできない。

 しかし、実のところ、士爵は官吏として雇われることも多く、平民からも敬われる存在ということが多い。


「はあ…」

「ラルフのように我が代官を務めずとも、魔術の修行においても士爵位を持っておれば、何かと優遇されるであろう」

 へえ、そういうものなんですね。

「とは言え、そなたがいくらラルフの息子であろうと、なんの功績もなく士爵には推挙できぬ」

 はいはい。そう言うと思ってた。まあ、戦闘チュートリアルなんだろうけど。


「隣村の街道沿いに出没しておる魔獣共を討伐するため、このような身成で出張ってきたが、どうじゃ。我らの代わりに退治してみぬか。首尾良く倒せば、内務卿宛ての士爵推挙状を書いてやろうぞ」


 言い終わった瞬間、ダイアログが開く。

 クエスト!街道に出没する魔獣を仕留めよ。完了条件、クエスト受領からログイン経過時間72時間以内に、首領オーガを討伐して、伯爵の城に赴くこと。討伐証明部位、オーガの牙。クエストを受領しますか?YES、NO。


 オーガと言えば、下級魔獣の中ではそこそこの強さだ。チュートリアルにしては、難易度高いな。戦士プレイの時は軽く斃せていたが。今は魔術士見習い状態だからな。同じようにはいかないだろう。まあいい。失敗したらリセットすれば済むことだ。


 YESを脳内で選択した。

「はい。承りました」

 クエストを受諾しましたと、数秒表示されてダイアログが閉じた。

「そうか。やってくれるか。そうじゃ。魔獣共も1頭ではない、誰ぞ連れを付けた方が良いぞ。ではな」


 伯爵と随行2人は立ち上がると、帰って行った。

 拘束モードから抜けた。


 殺気──


 咄嗟にサイドステップで避ける。

 ぃやぁぁあ。

 気迫と共に、すぐ脇で煌めいた。

 槍──


 俺が居たところを通り抜け、引き戻される。


 ぶん。

 袈裟懸け。

 振り向くいとまなしに、右上から凶器が来る。

 転がって逃げつつ、杖を出庫。反撃だ!


─ 紅蓮ぐれん ……


 杖を下ろした。


「なぜ、魔術をやめた?」

「…お前に殺されるなら、生き続ける価値はない」


 見上げると黒い長髪の少女が立っていた。

 白銀の鱗片を多く縫い付けたスケイルアーマーと、短めの白いプリーツスカートに膝上ブーツ。スタイルは女戦士だ。

 30分ほど前に、自分で構成したキャラだ。


「ふん。相変わらず、シグマはすばしっこいな」

「でも、手加減したんだろう。一突き目」

 ちっと舌打ちが聞こえる。

 

 キャプションが開いた。

 ラムダ・アイオライト

 隣村に住む士爵の娘。16歳。戦士。シグマの幼なじみと表示される。


「ちょっとふざけすぎたか。立って!」

 差し出された手を握り、引っ張り起こされる。

 硬い手だ。


 端正な顔に勝ち気そうな双眸が印象的な容貌が見えてくる。皮鎧を押し上げる胸も肉感的だ。その割に手脚はどこにその槍を扱う膂力があるか疑いたくなる感じで、筋肉隆々というわけではない。適当にアバターを作った割には、かなり好みの姿に仕上がっている。

 いや。かなり手抜きしたつもりだが、補正が掛かったのか?


「久しぶりだね。シグマ」

 やや高めの声も、悪くない。


 はっとするぐらいの美貌をぐっと寄せる。

 近い近い。切れ込んだ襟ぐりから予想以上に深い谷間が見える。しかし、女と言うには早い。ほのかに色付き、蕾にも似たふっくらとした頬から顎の曲面が少女の甘酸っぱい薫りを未だ留めている。

 ゲームキャラクタと分かっているのに、ドキマギしてしまうじゃないか。


「ふうん。背が伸びたね。以前はボクの方が高かったのになあ」

 って、ボクっ娘か。

 なんだか、本当に悔しがってるようだ。


 男女関係は、最初が肝心だ。なめられちゃいけない。やや意識して低い声を出す。

「それで何の用だ」

「うん。久しぶりにシグマの顔を見に来たって言うのもあるけど。伯爵は何だって?」

 ああ、そうか。大体察しが付いた。


「魔獣の討伐を依頼された」

「ふーん。それで?」

「それで、とは?」

 じらしてみる。


「い、いや。その…」

 何だか、そわそわしだした。かわいいなあ。

「ああ、そう言えば、伯爵から仲間を募れと言われたな」

「そ、そうか。そうだな。ボクが手伝ってやるよ」

 顔が紅いぞ。


 俺の表情が変わったの見咎みとがめたか?

「か、勘違いするな。ここでボクが手伝ったのを伯爵が知れば、覚えがめでたくなるだろうってだけだ。それだけだよ。で、どうなの」

 なんだか、わかりやすいな。いろんなフラグが既に立っているようだ。


 またもダイアログが開く。背景色が特殊警告色だ。

《 パーティ操作。ラムダ様より、パーティ加入申告を受けました。受諾しますか? 》


 パーティ加入申告は、戦士プレイで何度も受けたが、今回は受諾ボタンしかない。却下ボタンがないのだ。ここで却下したら話がつながらないよなと思い、脳内でOKを選択した。


《 ラムダ様をパーティに加えました。パーティを名付けますか? はい/いいえ(予約名【シグマ】) 》


 いいえ。


「ああ、頼む。手伝ってくれ」

 ダイアログが閉じると、その向こうに仏頂面のラムダが居た。


 えっ。何?

 間が開いたのが気に入らないのか?そこは即答だろうってこと?

 見つめ返すと、声を荒げて振り返った。

「ま、まずは装備を調えないとな」

 そのまま、ラムダは館に入っていった。

皆様のご感想をお寄せ下さい。

誤字脱字等有りましたらお知らせ下さい。


訂正履歴

2015/4/24:爵位の順序訂正(男爵と子爵入れ替え)

2015/8/10:戦闘時のセリフ、呻き声、擬音を更新

2015/7/18:パラメータ表示方法変更。ラムダとの出会いに戦闘を追加。

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