16話 再びの魔術(序章最終話)
ようやく(といっても小生が遅いだけですが)序章がこの話で、結びを迎えます。
長い導入部におつきあい頂きましてありがとうございます。
「眠れん」
夜中、一度床に入った俺だったが、眠気は訪れなかった。
、疲れたら眠れるかと思い、起き出して篆刻で魔水晶を造り、片端から黒魔術を会得した。それでも目が冴えまくったので、俺は一時寝るのをあきらめた。
ローブを纏い戸外へ出る。
日中と違って、空気がひんやりしていて気持ちが良い。
空には半月が浮かび、澄んでいて明るい。十分歩ける。林を抜けて、この前行った原っぱに出る。
さて会得した黒魔法を試すか。
まずは、劫烈火から。
ローブから手を出し構える。
「待て」
うわっ。
すぐ横で声が掛かり、反射的に飛び退く。
「びっくりしたぁ。カーラさん、脅かさないで下さいよ」
珍しく白いローブを着た、老女が悠然と立っていた
「びっくりしたのは。こっちの方じゃ。夜中に家から、ひっそりと抜け出しおって」
うーむ、何も言い返せない。
「それで、これから何をするつもりだったのじゃ」
まあ、隠しても仕方ない。
「あれから、いくつか魔術を憶えたので、試そうかと」
「ここでか?」
はあ…。
「そうか。しばし眼を瞑れ」
「は?」
「良いから、眼を瞑れ」
何だか分からなかったが、瞼を閉じる。すると腕を掴まれた。
「もう良いぞ」
そう言われた途端、足の裏に違和感が来た。
おおう。ぐずぐず崩れる感じの土壌だ。
さっきまで原っぱだったのに、今は違う所に居る。
月に照らされた見渡す限り、赤茶けた荒れ野。カーラさん以外は何も無い。乾ききった軟弱な土に足を取られ掛ける。
またびっくりだ。
「ここは?」
「ああ、少し転移した」
少し?
どう見てもシャラ境の近くには思えないが…。
何時、転移結晶を使ったんだ。ラムダと比べるのはだめなような気がするが、集中するのに時間が掛かってたよな。やはりそこは大賢者様ということで、納得すべきなのか?
「なんでここに」
「我が家の周りで、火事を出したくなかったからじゃ。前は初級魔術しか憶えて居らなかったからよかったものの」
そうですよね。というか、この前さっきの原っぱに行ったときも、見張られてたんだな。
「どうかの、ここなら好きにやれば良い」
はあ…
「では遠慮無く。ああ一つ質問が」
「なんじゃ」
「あのう、魔術行使に杖は必要なんでしょうか?」
カーラさんがにーと嗤う。
「慣れてしまえば、杖無しでは使えぬ者もおるでの。あながち不要とは言えぬが。まあ、必要ないのう、魔術士には」
やっぱりな。何だか反って発動が遅くなるような気がしてたよ。
「じゃあ、使いません」
徒手で魔術を行使する。
─ 地槍 ─
おお、なんか良い感じだ。前に比べて手応えがあるし、発動速度も上がっている。
ごごごと鈍い音共に、次々と地面の一部が紡錘形に隆起する。まるで蟻塚のようだ。
できた突起の数も多い。
─ 縮重 ─
それらに硬化魔術を掛けて丈夫にしておく。
転移結晶を作ったときとは違って、そこそこで止めておく。その所為か、あまり魔力を消費していない気がする。
この2つの魔術を繰り返して、一角を突起だらけにした。これで、標的ができた。
そろそろ攻撃開始だ。
─ 劫烈火 ─
手から一条の焔が伸び、隆起を焼く。明らかに前より火勢が強まっている。これも気持ちよく行使できたが、流石に土は燃えない。魔術を止めると、もうもうと湯気が上がっている。うーむ、こんなものかぁ。新たに憶えた火魔術をやってみるか。
集中。周囲が凍えるように、歩みを遅め冥くなる。
─ 炎礫弩 ─
眼の奥に新たな神聖文字列が何度も閃く。
腕の先に炎が生まれ、放たれる。腕に反動が来る。
すると、次の刹那には、再び炎が生まれ、俺は腕を捻って別の隆起に照準した途端、一気に飛翔していく。それは5度繰り返されたところで、周囲が元の明るさに戻る。
瞬く間に空中にはいくつもの炎弾が迸り、猛烈な勢いで遠ざかって行く。
ダダダと周囲に響き渡る、発射音。
初弾が狙い違わず隆起に着弾。紅蓮などとは比較にならない速さだ。
どごっんと鈍い音を立てて、土の塊を吹き飛ばしつつ燃え上がる。
引き続き、俺は反射的に照準を変えて撃ち続けたが、我に返り発動を中断する。
続け様に着弾。手近な隆起が全て吹き飛んだ。派手に土煙が上がりまくる。
右手がわずかに痺れた感じがあり、無意識に握りつ、開きつした。
ふう、炎礫によるセミオートマチック自動小銃と言ったところだな。一発ごとの熱は初級魔術である紅蓮並だが、礫として結構な慣性もつため、破壊力は増している。
音が収まると、カーラさんが寄ってきた。
「どうでしょう」
「下級魔法としては、そこそこの威力じゃな」
「あと一つ訊きたいことがあります」
「何じゃ?」
「魔術、特に初めて行使する場合が多いのですが…周りが感覚的だけかも知れませんが、時間の進みがかなり遅くなり、辺りが暗くなって誰も居ない所にいる時があって…カーラさんもそうなるんですか」
俺は、鷹のような眼で見られた、そして目を伏せる。
「ふーむ。儂にはそういう事は起こらぬ。まあ確かに時間がゆっくりと感じることは無くも無いが。分からぬの、古文書でも調べておいてやる」
他の魔術士にはあの感覚はないのか。俺だけなのか?
「ありがとうございます。俺はまだ続けたいんですが」
「ふむ。じゃが、動かぬ土塊を撃ってもつまらぬじゃろ」
おっしゃる通りだが。見渡す限りの荒れ地。他に撃つものもないし。
訝しんでいると、カーラさんは,また俺の額に手を翳した。
「ふむ、意外と減って居らぬの」
どうやら、魔力残存量(MP)を見たようだ。
「今から、魔獣を呼び出す」
「はっ?」
カーラさんは右手を胸の高さで開くと、そこには、褐色の粒々が小山を作った。虚空庫から出庫したのだろう。
なんだあれ?琥珀?
「行くぞ!」
「はい」
質問する前に、戦闘開始らしい。
カーラさんは軽く手を振ると、琥珀らしき粒が放物線を描いて前方に飛び散った。それらが地面に付いたと思った瞬間、閃光を発した。逆光に中に影が立ち上がる。
うわっ。
閃光が消えると、そこには、魔獣の群れ。
「木?いやトレントか」
召喚魔術?いやさっき投げた、おそらく魔石だろうが、あれに魔獣が封入されていたのか。現れたのか、樹木魔獣のトレントだ。
動き出しやがった。
ぱっと見は常緑樹にしか見えないが、幹に眼と口がしっかり見える。風も無いのにざわざわと枝を振るわせ、うねうねと地表に出た根を蠢かせ、こちらにゆっくりを向かってくる。
うわーー。相変わらず気持ち悪い。
あれ?カーラさん、どこ行った?
『奴に儂の姿は見えぬ、お主が斃すのじゃ』
結界か。
まあいい。
前世(β)で戦ったことがあるが、トレントは駆け出しの戦士には鬼門な魔獣だ。
物理攻撃が効きにくい、ダメージを与えても再生しやすい、すぐ仲間を呼ぶ。まあ既に数十体は出現しているが。あと厄介なのは、鋭利な葉っぱを飛ばしてくるところっと。
サイドステップで、跳んできた手裏剣のような葉を避ける。
案の定、遠隔攻撃を仕掛けてきたか。
虚空庫から、ローブを出庫して着る。
─ 盾無 ─
一瞬俺の周りが光って、ぶれる。
火属性下級防御魔術。電磁波による物理障壁を纏った。
─ 炎礫弩 ─
2回目だからか、辺りは暗くもならず、眼の中に神聖文字が瞬くのみで発動。徒手の右手を向けて炎を釣瓶打ちする。
ギィィ。
着弾したトレントは、枝や幹を吹き飛ばしつつ燃え上がる。
一気に何体か斃れたが、何せ敵が多い。わらわら迫り囲もうとする。俺はフットワークで右回りに動く。
─ 炎礫弩 ─
並行励起して、左手でも発射する。
5体、10体と斃したが効率が悪い。この魔術は、動き回るような敵を追い回すのには良いだろうが、連発速度が今ひとつ。多数の敵に対するには制圧力が足らない。
トレント達が包囲の輪を絞り、葉っぱの礫を背後から受ける。障壁で全て叩き落とせているが、精神衛生上良くない。
─ 燎原炎舞 ─
網膜に新たな神聖文字列が流れ、魔力を最大限籠める。
火属性領域下級魔術。炎の波が地を舐めるように広がって行く。そこそこの火力ながらも、地に居る者達に逃げる術は無い。平面角60度ほどの範囲でトレント達が次々燃え上がる。
─ 燎原炎舞・燎原炎舞 … ─
俺は身体を捻りながら、5方向に次々と扇型の焔を放った。
俺を中心として、C型に炎が瞬く間に燃え上がる。それはトレント達の包囲壁の成れの果てだ。
ここで…わずかに残った壁の間隙に、突進。ジグザクにサイドステップを踏み。
─ 紅蓮 ─
─ 紅蓮 ─
火が点いていないが、混乱して動きの鈍ったトレント達の脇をすり抜けながら、残さず着火。
─ 旋風牙 ─
環状劫火の外に出た俺は、20mほど離れて振り返ると、燃え盛れとばかりに風魔術を送り込んだ。全てのトレントが焔に飲み込まれ、炎の壁は大きな一つの渦となって、紅蓮旋風を遙かに凌ぐ火焔竜巻を作る。赤かった火が橙に変わり、周囲に凄まじい輻射熱を放射。
熱っ。
盾無を展開して無ければ、俺自身が火傷してしまいそうだ。
手を顔に翳しながら、ゆっくりと遠ざかる。
焔から幾筋もの光が飛び出して行き、全て燃え尽きたか、轟と風の音を残して、焔竜巻も消滅した。
うーん。トレント。戦士の時は、結構手こずったが、相性が良い火魔術の前にはこんなものか。
「やり過ぎじゃ!」
姿が見えなくなっていた、カーラさんがすぐ横に現れた。
おっと。いや、この暑さでも、背筋に冷たい物が走るから勘弁して下さい。
「それにしても、下級魔術の連続発動で、中級魔術に劣らぬ威力を出すとはの…」
何となく賞賛よりは、あきれの成分の割合が多そうだ。
「はあ…あっ、これどうします?」
虚空庫から、トレントの魔獣結晶を取り出し、手にとってカーラさんに見える。
「ふふふ。続けざまに魔術を放っておきながら、息も乱さぬとはのう。この程度では、硬直も現れぬか。どれ、ここに来た目的を果たすとしよう」
俺の質問を無視して、カーラさんは、また俺の額に手を当てた。
「やはりのう。思った通りだ」
「はい?」
「お主。先程の魔術行使では、魔力がほとんど減っておらぬ」
まさか。
─ 修慧 ─
自分自身に鑑定魔術を掛ける。確かに魔力は上限と変わらない。
そんなことがあり得るのか?
「術後硬直が出ぬのも、その所為じゃ。硬直は疲労と同じ、もうこれ以上無理をするなとの警告、自衛反応じゃ。よって、その長短は使った魔力に依る」
つまり。
「そうじゃ、気が付いたようじゃが、お主は魔力を余り使わぬから、今のところ硬直も気付かぬ程、軽微という訳じゃ」
一応理屈が通って居るようで、別の疑問を誘発してるよな。
「しかし、何故、少ない魔力で、俺は魔術が使えるのでしょうか」
「ふふふ。では、魔力はどの程度、結果に効いておると思う」
「は?」
「お主は自分が込めた魔力が結果に見合うと思うか?魔術行使に籠める魔力は呼び水に過ぎぬと言う事じゃ。後は自分で考えよ、得意であろう」
いやあ、謎だけ展開して、突き放すね。カーラさん。
「とにかく帰るぞ、夜更かしは年寄りには酷じゃでな」
カーラさんは、また俺の腕を掴んだ。
そう思った瞬間に、俺たちは再びシェラ境の湖のほとり、小川の岸にいた。
埃っぽい空気も、気持ちよく変わっている
いやいや、心臓に悪いって。先に言って欲しい…いや言ったか意味は分からなかったが。それにしても、カーラさんは転移結晶使っていたようには見えなかったぞ。大賢者恐るべしか。
館に戻り、床に入る。
「魔力は、呼び水かあ」
魔力は、行使した結果のエネルギーの全てを供給していない。要するにエネルギー保存則が崩れると言う事だ。
これまでの拙い検証では、魔術で得られる現象や物質は異空間から来ている。ならば少なくとも観測できる範囲では、保存則が崩れていても不思議では無い。
結論としては、俺は異空間から魔術による現象を引き出すために、必要な魔力が少なくて済むと言うことだな。一つケリを付けたことで、今まで寄りつかなかった睡魔に襲われた。
─序章 結─
すぐ2章が始まります(物語的にも繋がっています)。お楽しみに。
その前に、ここまでの登場人物と、用語をまとめる予定です。
皆様のご感想をお寄せ下さい。
誤字脱字等有りましたらお知らせ下さい。
訂正履歴
2015/5/23:シェラ→シャラ
2015/8/10:戦闘時のセリフ、呻き声、擬音を更新




