表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
100/122

79話 聖都にて(4)  聖職者たち

 ミサの次の日。

 記念の食事を外でして祝った。


 エレの能力は、法力相当の魔力が5割増となり、魔力の使用効率も上がったので、実質2倍になった。

 すごい御利益ごりやくと言えるだろう。


 そして、今日はその翌日だ。

 今日は、宿を引き払ってリスィ村に帰る予定だが、その前に済ます用事がある。


 俺は、昨日の夢見が余り良くなかったので、エレとラムダに転移結晶を渡し、一足先に帰れと提案してみたのだが。2人からは大不評で、結局一緒に帰ることにした。


 その代わり、アガサにも黄色転移結晶を渡し、万一の場合はラムダとエレと共に退避しろと命じた。


 もうすぐ10時だ。

「そろそろ、時間だな」

「はい。あのレストランでお待ちしています」

「早く来なかったら、先に食べてるからね!」


「ああ。行ってくる」


─ 玄天移げんてんい ─


「おっ、おおう。し、失礼致しました。いらっしゃいませ。聖者様」

「ああ」


 女が大きくたじろいだ。


 教皇庁にある部屋、前回通された部屋に転位すると上級巫女が待機していた。この前は、瞬間転位で退出したし、この時間、この場所と特定できるはずだ。その割に、巫女は結構動揺している。座っていて良かったと言うことだろう。


 あと、まあ。俺は聖者ではないと思っているが、いちいち否定するのは面倒臭くなっていた。


「教皇猊下は既に向かわれました。議場にご案内します」

 先日入ってきた扉とは違う扉から外に出た。


 廊下が若干、使い込んだ感が有る。


「歩きながらで恐縮ですが、1つ伺ってもよろしいでしょうか?」

「なんだ?」

「先日、先程の部屋から去られたときには、転移結晶をお使いになったのでしょうか?」

 なかなか核心を突く質問だ。


「……」


「私、聖者様は転移結晶を使ってみえなかった気がするのです。我が教団にも魔術士に詳しい者がおりましたので、聞いてみたところ──ああ、ご安心下さい。その者には、聖者様のことは申しておりません──大賢者であれば転位魔術を使えるかも知れないと申しておりました。そもそも私も転移結晶を使ったことがありますが、屋外で無ければ使えませんから」


「そなた達が呼ぶ聖者の御技、では納得できないのか?」

「そうなのですが。聖者様は、この間大結界からお越しになった時に、聖者と成られたわけですし、当然ながらそれ以前から、それをなし得る素養は、お持ちだったと拝察されます」


「それで?」

「要するに、聖者とはあなた様の一側面に過ぎないのではないかと?」


 ふん。

「他の側面が大賢者かどうか答えろと?」

「はあ、恐れながら」

 なかなか鋭い女だ。


「大賢者でもなければ、聖者でもない。我は、我の他に何者にも非ず」


 巫女は、一瞬真顔だったが。

「ぷっ、くくくっふふふ…」


 ちぇ。がっつり笑われた。


「すみません。我の他に何者にも非ず──メシア様のお言葉ですよね!?」


 そっちか!

 ちと臭すぎる科白だったかと後悔したじゃないか。

 お前たちの契約の書など、読破してないつーの!


 まあ、はぐらかすという目的は達したから、よしとするか。


「すみません。仮面をされていらっしゃるので、表情が分かりかねます」


 などと的外れな謝罪をしてきたが、無視だ。


 そうこうしているうちに、廊下も端となり階段を下りる。そこに扉がある。そこを抜けると、また廊下だ。

 しかし、床も壁も大理石。明らかに格式が変わった。


 15m程先に、木の槍を持った男が2人立っている。

「衛士!」

「巫女様。お待ちしておりました・・・こちらが」

「そうです。もう皆様、入場されましたか?」


「それが、リベリウス様と何名かが入られておりません」


─ 法眼ほうげん ─


 上級感知魔術を発動した。

 法眼は、障壁透過型の天眼てんげん慧眼えげんを組み合わせ機能の上に、何らかの欺瞞工作をした対象の多くを見つけることができる。


 そのときだった。


 ゴーーン・カラーン~~~~~~

 ゴーーン・カラーン~~~~~~

 鐘の音が響いた。


「10時です。致し方有りません。この方に入場戴き、扉を閉塞しなさい」

「はっ!」


 重厚な木製大扉が開いた。

 赤絨毯の通路と左右に廻り階段がある。

「その上が議場でございます。私はこちらで失礼させて頂きます」

 巫女が手を重ねて礼をすると、扉が閉じた。

 どん、と鐘の音の中でも、戸の音が響き、風圧が掛かった。



─ 泡影ほうよう ─


 光学迷彩魔術を発動。

 扉の音に、気付いたのだろう。

 聖職者が身につける貫頭衣の男が2人見に来た。


「誰も居ないな」

「さっき10時の鐘が鳴ったからな、閉塞されたのだろう」


 階上から見下ろされたが、姿を消している俺には見つけられなかったのだろう。

 残念そうに戻って行った。


 まだまだ修行が足らないな。

 右回りに13段昇ると、大きな丸いステンドグラスが見下ろす広間だった。


 俺が、光学迷彩を使ったのは訳がある。

 俺以前に、光学迷彩を使っているやつらが、6人もこの議場に居るからだ。まあ俺と違って、魔道具を使っているようだが。


 目に見えている人間を、複数人ごとぐらいで意識すると、そのパーソナリティーが見える。奥に教皇ローテルが椅子に座り、その周りの司教、大司教の塊がある。同じように枢機卿がそれぞれグループをつくり、派閥を物理的に見せている。ざっと見たところ司教より下の役職者は居なかった。

 最高聖職者会議にふさわしいメンバーと言えよう。


 それらの人々をすり抜けながら、誰にも気付かれることなく、教皇の横に近寄った。


 彼にだけ聞こえる声で話しかける。

「聞こえるか教皇。貴様が聖者と呼ぶ者だ。聞こえたら声を出さず、右手を軽く3度振れ」

 一瞬びくっとなった教皇ロテールは、聞こえたようで、右手を振った。


「よし!実はこの部屋に刺客と思われる、我と同じように姿を消した者が居る。我が護ってやるから、我が間に合わなかったていで、会議を始めろ」


 彼は、微かに首を横に振った。

「護る必要はないということか?」


 今度は首肯した。

「わかった、とにかく会議を始めろ」


 教皇は立ち上がった。

「10時を回った。最高聖職者会議を始める。見たところリベリウス卿が居ないようだが…デミアン卿は何か聞いていないか?」


「これは猊下。なにやら、私とリベリウス卿が示し合わせているようなお言葉のようですが、不本意ですな」

「知らぬと言うことか?」

「御意」


 嫌みなやつだな。

 法眼が枢機卿、神学審問官、32歳と伝えてくる。怜悧な目つきに細面。如何にも切れ者という面構えだ。まあそうで無ければ、30代で枢機卿に成れはしまいが。本人は認めては居ないがリベリウス派だ。


「猊下!我らが招集に当たり、大いなる示唆が下賜されると使者の口上がありましたが、大いなる示唆とは、メシア昇天の後は聖者が与えるもののはず」

 デミアンは、うっすら笑いを浮かべる。


「そうだ!」

「では、聖者様とやらはどこにいらっしゃるのやら」

「デミアン卿。不敬に過ぎるぞ」


「不敬?フェランテ司教。存在もしない相手に不敬といって議論を抑え込むのは、猊下の最高聖職者会議のあり方かね?」


 ああ、口では負けないと増長しているタイプだ。


「聖者様は直にお出ましに成る」

「それは、正式の発言と受け取らさせて戴いてよろしいでしょうか?猊下」

 手を広げ大げさな、振る舞いをする。


「もちろんじゃ」

「それでは、精々首を長くしてお待ちしましょう」

 また、見下した表情だ。


「で、では通常の議題として,先に配布しました書面をご覧頂きたい……」

 教皇の右隣に立った男、グロメル大司教が議事を進行し始める。


 5分経ち、出席者の誰もが書面に視線を落とし始めた頃。

 野太い男の悲鳴が上がった。


「どうした?」

 議員の一人が倒れている。

 いや。切りつけられているのも見たがな…。


「議員の諸君!静かにして貰おうか」


 武装した賊達6人が、姿を顕わにした。

 長柄の青竜刀に似た武器を持った、男が大きな声を上げた。

 むき出しに捲り上げた腕は、ゴツゴツと太く、黒光りする皮膚が精悍さを魅せている。

 傭兵か。

 見るからに魔術とは縁遠そうな男達だな。


 それはともかく。倒れた男は、貫頭衣の斬られた辺りから、かなりの勢いで血が滲んでいる。流石に放置はまずいな。


─ 遅効 竜涎りゅうぜん ─


 距離を置きながらも、治癒魔術を掛ける。

 悪いな。

 まともに行使すれば、たちまち治ってしまうので、効果を遅くする術式を混ぜる。

 それが効いて、目立たない勢いで回復していっている。気付かれることも無いだろう。 まずは背後関係と目的を確かめないとな。


「どこから出てきた。ここを議場と知っての狼藉か!」

 いや、知ってるに決まってる。言いたくなる気持ちも分かるが。


 あれか。

 首に懸かっているペンダントの褐色の魔石だ。

 不可視化魔術は、あれで発動していたのか。今では魔力のかけらも残っていない。

 もう魔術を維持できなくなったのだろうな。


 賊はドンと床に柄のこじりを叩きつけた。

「やかましいぞ」


 主犯格の男が、そばに居た聖職者の胸倉を掴むと、自らの方に引きつけ、刃をその首に当てる。

 賊と聖職者達が対峙した。

 人数は、後者の方が多いが、武器を持っていることを含め、個の強さを合計すれば、物理的に強いのは圧倒的に前者だ。


「お前達。この人質が見えないのか」


 くくく…。

 自分が掴んでいる男が、笑い出して賊が微妙にたじろいだ。

「我々が暴力に屈するとでも思っているのか…ぐぁぁぁあ」

 鳩尾に一撃を入れられ悶絶する。


「ソーシア司教の言う通りだ。我らは負けぬ」


「ご託は良い。我々の要求はだ。教皇!退位しろ。まあ言うことを効かねば殺して目的を遂げるだけのことだが、どうする?お偉い神の弟子供!」


 人質に成らなそうな、司教を前に蹴り出した。


「答えは分かっておろう。断る!」

 ああ、教皇。あんまり挑発しないで欲しいな。


 今、部屋を俯瞰すれば、人の分布は3つに分かれていることに気がつくだろう。

 賊たち、教皇を含む聖職者たち。

 そして、最後の1つはリベリウス派の聖職者たちだ。

 対立軸の側面で傍観する者たちだ。身構えては居るものの、自分たちが襲われるとは思っていないようだ。ああ、これは


「…そうか。投降してくれれば、お前達の血で床を汚さずに済んだのにな。まあ、どっちでも良い。者共、行くぞ!」


 賊達が獲物を振り上げ、一斉に躍りかかった。

皆様のご感想をお寄せ下さい。

ご評価も頂けると、とても嬉しいです。

誤字脱字等有りましたらお知らせ下さい。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ