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ア・チャイルド・オブ……

作者: 佳純優希

ショートショートです。天使祝詞。

 その異変に気が付いたのは新緑のまぶしい七月初めのことだった。私はこの中学で理科の教師をしている。だから他の人より気付くのが早かったのかもしれない。

 花壇の向日葵ひまわりの花が、「北」を向いて咲いている。

 向日性――光合成を行う植物なら、その殆どが太陽の方角を向いて育つ性質を指す。そして太陽の方向と言えば当然南である。

 何故、向日葵の花が北を向いて咲いているのか? 北には校舎があり、南はグランドである。北の校舎に太陽より強い光源があれば花が北を向いて咲く可能性はある。だが、そんなものは見あたらない。どう考えても説明がつかない。

 私はその日の授業をこなしつつ、ひとつの計画を立てた。この謎を解明するのは理科教師の使命のように思えた。

     ○

 その日の夜、深夜一時。私は学校に忍び込んだ。手にはビデオカメラを持っている。八時間の録画が可能な代物。それを花壇の隅に置き、録画ボタンを押した。そして人目につかぬよう、持ってきた新聞紙をかけ、砂をかけてカモフラージュした。

 今はしぼんでぐったりと垂れているこの向日葵が、夜明けにどういう動きを見せるのか、全て録画できる。これで、謎を解く鍵は得られるかもしれない。私は夜の校舎をあとにした。

     ○

 翌日。やはり向日葵は北の校舎の方を向いていた。時刻は八時三十分。

 向日葵の花が太陽の方向に向かって刻一刻と向きを変えるという話があるが、それは俗説である。実際はほぼ向きを変えずに南を向いたままなのだ。しかし、どういうことだ?南とは正反対、北を向いているとは。

 私は、花壇の砂に埋もれたビデオカメラを取り出した。全てはこのビデオに収められているはずである。

     ○

 放課後、私は家に帰りビデオをパソコンに繋いだ。

 私は恐る恐る動画を再生した。

 太陽が昇る頃、朝五時頃に変化があるはずだ。動画の表示が朝の五時四十分を示した頃、向日葵の花々はひとつの方向に向かって首をもたげだした。

 この方向は……西?

 太陽は東から昇るものだから花が東を向くならまだ分かるが……。

 ことは既に私の理科常識を覆す大問題になっていた。西にあるのは校門、それと住宅街である。なんの解決にもならない。

 私が登校するのは毎朝八時三十分頃である。それまでにこの向日葵の花は全て、北を向くことになるのだ。私は動画を早送りし続けた。

 六時……七時……向日葵はいぜんとして西を向いている。

 七時二十分……おや?

 一人、女生徒が通りかかった。こんなに早く登校する生徒がいるのか。と、その時、私は異変に気付いた。

 その女生徒が校舎に入っていくのを追うように向日葵が北の方、つまり校舎の方を向きだしたのだ。そして、向日葵は完全に校舎の方を向き、動かなくなった。

 向日葵は……あの女生徒に向かって咲いているのだ。

 でも、何故そんなことが。

 私は動画を巻き戻して、歩いていく女生徒の姿をスローモーションで見てみた。よく見ると、顔に見覚えがある。確か三年の……名前は思い出せないが知った顔である。

 そして彼女の周りに何か光が見える。なんだ? それは彼女がカメラに対して背を向けたとき、はっきりと光の輪の形になって映った。

「後光……?」

 神仏の背後に見えるという後光。そうとしか思えなかった。

 彼女が神の――ア・チャイルド・オブ・ゴッ……。私は途中で言葉を呑み込んだ。

 私は理科を愛する一介のサイエンティストである。「あれが後光」で、「彼女が神の子だった」、などという非科学的な帰結を認める訳には断じていかない。

 そして今日、私は三年の女生徒の名簿を漁っていた。彼女に、何か他の科学的根拠があるに違いない。顔写真の束をザッと並べて名前を見つけるのに、そう時間はかからなかった。

「あった、この子だ。ハーフで、名前は…………」

 その女生徒の名前。

「阿部【アベ】・マリア」


 ア・チャイルド・オブ・普通の人

(了)



オチは前書きに書いたとおりです。


脱力御礼m(_ _)m

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