ケース5:ギルドの自立支援援助 その1
俺は、いま。ギルドの窓口業務をしている。夕方の近い時間帯。この時間帯になると近場での依頼を受理した人達が依頼の報告に来る。
その依頼の報告は、達成もあれば、失敗の報告がある。失敗と一口に言うが、単なる冒険者の実力不足か、それとも依頼以外のイレギュラーが存在したかで、内容が大分変って来る。
「はい。次の人」
「ほら、キスケのオッサン! 薬草10株取って来たぞ!」
「……はい! 依頼失敗ですね。依頼の失敗ですね。それじゃあ、失敗なので、違約金銅貨3枚を払ってください」
「何でだよ! オッサン」
「何でも何も、それは似た毒草ですよ。本来、依頼の薬草の根は、白いですが、それは赤い。しかも葉っぱに繊毛が生えています。ちゃんと精製すれば薬になりますが、今は需要がありません。それから……せめてお兄さんって呼んでください」
俺の目の前で依頼の報告に対してわーわー喚いている人がいる。こんな地元の子供でも達成できる依頼を失敗するのはどんな人か……と言えば、実は、ギルド加入できる最年少の十三歳の少年だ。
きっと最速でギルドのランクを駆け上がり、金も女も自由自在、なんて儚い夢や希望を抱いてギルドの門を潜ったのだろう。実際、門は無いが……。
「それと、これで連続依頼失敗数が三回です。あと一回失敗するとギルド員の依頼を受けられなくなりますよ」
「げっ! そんなの困るぜ! オッサン!」
「はぁ、とは言っても一応、救済措置はあるんですけど……。そちらの依頼を受けますか?」
「救済措置? 俺にそんなのが必要なのか?」
「一応、絶対に依頼に成功するので、連続失敗数は、リセットされます。それに少ないですが、一泊二日で食事も出ますよ」
「おっ!? それいいな! 早速、受理頼む!」
はぁ、この子は、十三歳にして大分アホな子なのだろうか。ギルドの依頼とは一種の契約なのだ。そして、その契約を良く読まずに受理を頼むとは。しかも、以前の失敗では、その依頼内容を理解していないために、失敗している。識字率の高くない世界だから、割と普通に起ることだが、これから受ける依頼は、そう言う所をしっかりと学べる場所だ。
「……分かりました。では、ギルド講習の依頼を受理します。この依頼は、救済措置的な物なので、依頼料は発生しませんが、その間の食事と寝床は確保されます。では、依頼の集合時間は、朝の五時、ギルド前です」
「ちっ、まぁ良いか。そのギルド講習で一番の成績だしてやるぜ!」
この子は、先輩冒険者に何度もギルド講習の受講を勧められているが、それを無視して今日まで来た。俺も何度か勧めてみたいが、今回は半ば新人に対する強制だ。
そもそも、冒険者の死亡率は他の職種に比べて非常に高い。魔物や盗賊、時には危険地帯への探索などを行う職業であり、技能職とも言える。だが、それは、高ランクの冒険者であり、新人たちは、単純な肉体労働者としての側面もある。
そうした肉体労働者が、ギルドの依頼を受けて、実地と独学で技能を学び、頭一つ飛び出すと言うのは、かなり無理がある。というか、そんなことできる人は、百人に一人いるか、居ないかレベルだ。それも、何度も死ぬような危険を犯して、運良く生き延び、そこから学び取れる者だけ。死ねば後で学ぶ機会などない。
そんな冒険者の生存率を少しでも上げる為に、ギルドでは、初心者に向けてのギルド講習を開講している。
「一番簡単な、常時依頼の見分け方。依頼の報酬の計算の仕方、依頼の選び方のような基本的な座学知識も必要ですけど、もっと色々な事を教えたいんですよね。一週間くらい」
「まぁ、キスケさんの言いたい事は分かりますけど、無理ですって、それは学校では無いんですから」
「ですよね。ギルドに足を踏み入れる時点で、既に差がありますからね」
貧民や孤児などの生活に困窮している人は、ギルドに登録できなくても常時依頼などを受けることが可能で日銭を稼いでいるので、ギルドの講習で教える基礎知識は実地で学んでいる。俺たち職員も短い対応の時間の中で様々な知識を断片的にだがそうした子どもたちに教え、吸収していく。彼らのハングリー精神は非常に逞しく、眩しく感じる。
また、貴族や騎士、冒険者の子供は、親からの英才教育である程度の知識や技術を継承されているパターンがある。貴族なら読み書き、騎士なら武力、冒険者の子供なら、町の子供よりもより高次の知識だ。
そういう人たちは、どこかのパーティーに入り込み、各々の分野で活躍も可能だ。
「彼みたいなパターンが一番面倒なんですよね」
「そうですね。ある意味、貴族冒険者の態度とどっちとも決めつけられないですから」
同僚の同意するのは、ギルド講習に受ける人たちだ。
貴族が立場を傘に要求することも何度か遭遇したが、それ以上に俺の言う彼らというパターンは発生頻度も高く、また放置するのも無理なのだ。
何らかの職業や農家の次男坊や三男坊。という立場の彼らは、本来、その家の継ぐか、何処かで独立を考えるだろうが、冒険者で一山当てることを夢見て、スタートラインに立てずに、依頼で躓く、魔物に殺される。冒険者の生活が出来なくて実家に帰るならまだいいが、場合によっては、盗賊に落ちたり、町の浮浪者になるケースも多い。奴隷落ちも一つの暗い未来だ。
「まぁ、町での常識がある人は、街中依頼受ける人も居ますから、一括りにはできませんし、最低限の武力も必要です。それを二日に押し込むのはハードですよ」
「ですね。しかも、ギルド職員も一度はそれを体験させられて重要性を覚えさせられるんですから。それで、キスケさんの今度の当番は」
「はははっ、次ですよ。俺としては、相談役の出来ないこの時がちょっと辛いですね」
「大丈夫ですよ、受講生たちから沢山相談されますよ」
まぁ、その相談には、俺は何ら無力なのを知っての同僚のジョークに苦笑いを浮かべる。
そんあ、ギルド講習に向けて、俺は軽くマニュアルを読み直しをするのだった。




