ケース2:社会資源の発掘 その1
「こんにちは、レイモンドさんいますか?」
「また来たのか、お前も物好きだな」
今日は、ギルドの外回りの仕事で商業ギルドへと来ている。商業ギルドの同じ事務員のレイモンドさんと冒険者ギルドの依頼の確認など、重要な話をするのだ。
だが、俺にとっては、それは二の次である。
「お前がギルドマスターに頼んだ、その『社会資源の発掘』か? そんな面倒な仕事を何でするんだ」
「何で。って重要な仕事ですよ。新しい仕事でやりがいを持ちましょうよ」
「うっせぇな。前は、『町の特産品』について、とか。その前は『町の空き地情報』とか。他にも『町に来る商品の詳細な内容と相場』とか。意味分かんねぇこと調べさせやがって」
やる気無く、カウンターに頬杖を付くレイモンドさんに定例の商業・冒険者ギルドの依頼を確認していると小言を言ってくる。だが、文句を言う割には、見易い資料を作ってくれている。
「まぁ、良いさ。お前さんが言った通り、商業ギルドが欲しい素材や商品の一覧とその説明だ。全く、こんなの作って何になるんだ」
「すみません。ありがとうございます。……これは、何時も商業ギルドに持ち込めば買い取ってくれるんですか?」
「あ、ああ。って言っても常時依頼に比べたら安いし、安定供給される見込みがねぇからな」
「そこですよ。安定供給されない素材をどうやって安定供給させるか。もしも安定供給されたらどうですか?」
「まぁ、元々需要があるからな。それのために新しい常時依頼が生まれるし、安定供給されれば、価格も抑えられる。ああ、やっとお前のいう社会資源の意味が分かった気がするわ」
少し目を見開き、俺の提案した仕事の内容を理解したレイモンドさん。
商業ギルドが欲しい商品や安定的に採取出来るようにギルドや知り合い冒険者と相談して、色々な方法を模索する。それにより、新しい依頼を作り、冒険者の人の仕事を増やす。
依頼の納品物という物質的な資源ではなく、定期的な仕事や商品の産地というものは、社会的資源であり、町の発展に必要なのだ。
冒険者は不安定な職業。現代でいう派遣労働や日雇い労働のようなものだ。
腕の立つ剣士は、騎士といてヘッドハンティングされて安定収入を得たり、同じ剣士でも、巨獣を倒し一攫千金を成し遂げる。または、日々の生活を割と安定して送る物やその日暮らしの物など。
成功するのは一部の人間であり、地域によっては、冒険者の数に対して、依頼が少ない。
そうなれば、冒険者が物乞いや強盗、盗賊へと変わり、治安の悪化の可能性もある。依頼と言う人生のチャンスが少ない状態は良くないのだ。
だから、俺は、ギルドマスターに『社会資源の発掘』の重要性を説き、自由にやる分には、と許可を頂いた。
「うーん。一番数が多くて採取できるのは、この整腸作用の薬草ですね」
「はぁ? そんなモノ一束でも微々たる価値だぞ。それに、生える速度が早いものだから雑草扱いの」
逆に持ち込まれては迷惑だ。というレイモンドさんだが、これだけ沢山の整腸作用のある薬草を有効活用出来れば良い。と考えて一度ギルドに帰っていく。
ギルドで一覧の素材を確認したが、この近辺で取れる素材では、整腸作用のある薬草は難しい。逆に奥地にある薬草も難しい。手頃な素材などを知り合いの冒険者と話して相談する。
「と言うことで手頃な素材知りませんか?」
「って言われてもな。そんな誰も見向きのしねぇ奴なんて……おい、この素材」
「はい」
「俺は、以前緊急で出ていた依頼を受けたんだが、この素材の群生地を見つけたぞ」
声を潜めるようにして離してくれるジョルジュさん。
話によれば、中堅パーティーなら辿り着ける位置でまだ群生地は残っているとのこと。群生地が見つかれば、そこから定期的に採取できるが、そこを保全しなければ、群生地の消滅で資源の継続的な採取が出来なくなる。
俺は、ジョルジュさんに詳しく話を聞き、同じギルド職員との協議を重ねる。
依頼の難易度や保全の体勢、依頼の周期、また商業ギルドへの安定供給する場合の価格などの相談など、常時依頼として張り出すための協議を繰り返し、一か月以上かけて、試験的に新しい依頼が出来上がる。
比較的安い依頼だが、中堅上がりのパーティーを中心に行われ始めた。しばらくは様子を見て、好調ならば、このまま継続。塩漬け依頼になるのなら、撤去。中々に難しいと苦笑いを浮かべながら、新しい社会資源について、考え始める。