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アウトランド・メモリー  作者: 三日月
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落ちていく

2、落ちていく

 口の中にいやな風味が広がると同時に、老婆の姿がぼやける。

 毒だ。そう思ったのと同時に地面が口を開け、自分を飲み込んでいくような気がした。目が回って、立っているのか倒れているのかさえわからない。ただただ落ちていく感覚だけに支配され、闇に飲み込まれた。

 


 目が覚めて初めに思ったのは、あの老婆にもう一度会うことがあったら、ただでは済まさないということだった。たとえ今わたしが死んでいないとしても、あの落ちるような感覚は死んでもごめんだ。そして二番目に思ったのは、猛烈にのどが渇いているということだ。

 ゆっくりと体を起こし辺りを見回す。

 ここはどこだろう?

 辺りには青々とした木がまばらに生えている。地面にはひづめの跡と二本の細い溝がずっと先まで続いている。まるで馬車でも走ったかのようだ。

 突然がたがたと何かが揺れるような音が聞こえてきた。それもこっちに近づいてくる。本能に促され、急いで立ち上がると近くの草むらに身を隠した。

 ほんの数秒後、まさに馬車としか言いようのないものが、目の前を通り過ぎていった。

 日本でもまだ馬車に乗る人がいるんだ。きっとあの老婆に誘拐されて、いまだに馬車を使うような遅れた場所につれてこられたんだ。それしか説明の仕様がないもの。

 誘拐しておいて人質を縛りもせずにほっぽらかしておくなんて、なんてずさんな誘拐犯だろう。だがどんなにおかしく思えても、あの老婆の怪しげな薬で、本当にタイムスリップしたと考えるよりはまだまともに聞こえる。今は少しでも論理的な説明にしがみついていたい。

 なんにせよこのまま草むらに埋もれていてもしょうがない。

 あの馬車の跡を追えば、誰かがいる場所に着くだろう。

 


 かれこれ一時間は歩いただろう。それほど暑い気候ではないはずなのに、体を動かしたせいで汗が出てきた。羽織っていたシャツを脱ぎ、ぴったりした黄色のキャミソールとジーパンという格好になると、少しはましになったものの、いい加減人のいるところに着かないと脱水症状を起こしそうだ。

 こんなはずではなかった。どうして誰もいないの? あそこでじっとして、誘拐犯が戻ってくるのを待っていればよかった。だがあの時はじっとしているなんて耐えられなかった。

 そう思った矢先、ついに馬車の跡が途絶える場所に来た。

 嘘でしょ・・・目の前に広がる光景に、ここが日本である可能性はほんの一パーセントも無くなった。

 目の前には、大きな、お城といっても差し支えのないような石造りのお屋敷が建っていた。


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