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わりとテソプレな異世界転生  作者: ぐらんこ。
七.冒険者の章~グラゥディズ戦乱編 <後>~
77/83

第零話 レジスタート

「右翼が押されてるわ!

 救援お願い!」


「……」


 ベルの要求に従ってルートは無言で戦場を駆け抜ける。

 小規模かつ連携すらままならない烏合の衆に右翼もなにもあったものではないが、意図は伝わった。

 その手には聖剣フライハイツ。魔術の才も抜きん出ているルートであったが、この時の彼は、魔術師であるよりも、より剣士であることを自ら望んでいた。

 ルートが剣を振るうたびに、敵兵の命がひとつ、またひとつと奪われていく。

 命を重さ、奪うものの尊さをその手に感じるために、あえて直接に剣での攻撃に固執しているともいえる。


「ごめんな! 手間を取らせ!」


 自らも順次敵を無力化しつつもシノブがルートに叫ぶ。

 彼女は彼女なりに、自分の役目を全うしているのだが、いかんせん敵の数が多かった。

 戦線をやみくもに後退させずに現状維持を保つのが精いっぱいというところ。

 それでも、味方の冒険者たちの何倍もの効率で敵を退ける活躍は、彼女の才能の片鱗を物語っている。

 しかしそれでも、物理的困難は付きまとう。


 駆けつけたルートの救援で、見る間に勢力図が塗り替わる。

 ジリ貧の後退劇間近の状況から、ほぼ圧倒的な攻勢へ。

 それにつれて仲間の士気も上がる。


「お節介な王子が来てくれたぞ!」

「いつもすまんな!」


 軽口を叩きながらも、反乱軍と対抗する冒険者達は勢いを取り戻した。

 それを確認しつつも、ルートはしばらくはその場にとどまり情勢を確認する。

 もはや再び窮地に押されることがありえそうにないことを見て取ったルートは再び戦場を駆ける。

 最前線を転々と。無数の屍を築きながら。




 グラゥディズの崩壊から、はや数週間。

 絶望に瀕し、後退を余儀なくされたルートらは、それでも常に戦場に居た。極端な表現を用いるのならば彼らの居る場所を前線と呼んでも差支えないだろう。無数にある前線のうちのわずかなひとつではあっても。


 反乱軍の勢力は日増しに拡大している。

 巨大大陸グラゥディズのほぼ中央に位置するオフパルシュツンの街――反乱軍の拠点――から、東西にその勢力を伸ばそうとしている。

 殊に西方への進行速度は目覚ましい。すでに2~3の街が反乱軍の攻勢に屈したと聞こえる。

 徹底抗戦の上に破れて、あるいはもはや抵抗することを諦めた降伏をもって。

 それぞれの街が反乱軍自体と戦いうることは不可能なことではなかった。

 だが、善戦したとしてもそれは、圧倒的火力を持つ魔術師たちが姿を現すまで。

 グラゥディズやポートヘールツのように、大規模な魔術攻撃によって、あるいは街を破壊すべく呼び寄せられた魔物によって滅ぼされることは無かったが、抵抗するものは容赦なく魔術の火に焼かれた。

 正義よりも、よりよき善政よりも今の命を。仮初の平和を。それを望むことを誰が攻められようか。


 一方、東の方角とわずかに人類居住地が開発されつつある南方への反乱軍の侵攻は、幾度となく繰り返されたものの、それが実りを手にすることは無かった。


 グラゥディズの南、オフパルシュツンからすれば南東に位置する小さな街。

 エルヨーグ。

 とりたてて特筆すべき点のない、単なる大陸開拓の中継点でしかなかった街はその存在の重さを日々増していた。少なくともそこに居る当人たちはそう考えていた。


 首都であるグラゥディズと南方の開拓の拠点とに挟まれたエルヨーグには、騎士団などは配備されておらず、常駐する冒険者の数も少なかった。

 元々少なかったうえに、反乱の起こりを機に、地理的にも近かったグラゥディズやポートヘールツへと冒険者が流れた。そして多くはその命を絶っただろう。

 今なお、前線で戦いうる冒険者の数は百人をようやく超すばかり。


 だが、この小さな街が反乱軍には堕とせなかった。

 それは、たった3人の異国の冒険者の存在による。






 破壊の光がグラゥディズを崩壊させたあの日。

 理解を阻む理由により、姿をとどめた王城へと向かったルート達の前に立ちはだかった謎の男。

 立ちはだかるばかりか、ルート、ベルの二人がかりの攻撃をやすやすと跳ね除けて、最終的にはシノブも含めて三人の意識を奪った。

 ルート達が気が付いた時にはその姿は無かった。

 命を奪うこと、身柄を拘束することもできたであろうにそれは為されなかった。


 意識を取り戻したルート達は、自分たちの命が途絶えていないことに安堵した。

 そしてそこにあったはずの、彼らが目指したはずの城が消えているのに気付き愕然とした。

 さらには、超高火力の魔術攻撃にも耐えて見せた城の後方の区画が、他の場所と同じように潰滅的状況になっているのを見て心を痛めた。

 混乱は度を極めたが、それを消化している時間すらなかった。


 ルート達は疲弊した心と体を癒すために、ただ近いからという理由でエルヨーグへと向かった。

 ロイエルト達の姿を見、合流することも叶わなかった。

 逃げ出したのか、捕えられてしまったのかすらわからない。


 その後、エルヨーグに攻め入ってくる反乱軍となし崩し的に抗戦を交えながら今に至る。



「こってんぱんにしてやったんだから、またしばらくは大人しくしてるでしょうよ」


「しばらくったってねえ……」


 楽観論を口にするベルに対してシノブの表情、口調は冴えない。


 意図してなのか、そうでないのか。反乱軍の攻め手は迫力に欠く。

 ルート達がこの街に来た翌日、つまりは彼らがこの街の冒険者たちと初めて共に戦った時の攻撃がピークだった。あるいはその時点でエルヨーグの攻略を確信し、阻まれたことを理由に人員を割くことに消極的になっているのか。

 それでも嫌がらせのように小規模な部隊は二日と置かずに攻め込んでくる。

 それを撃退しては、また次の部隊。そしてその次。またその次と。


 体力はともかく精神は疲弊する。

 それこそが敵――反乱軍――の狙いなのでは? とさえ思ってしまいうる。


 そんな状況下で事態が再び動き始めた。世界は停滞を好まない。誰がそれを望むにしろ、望まないにしろ……。

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