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わりとテソプレな異世界転生  作者: ぐらんこ。
六.冒険者の章~グラゥディズ戦乱編 <前>~
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第十六話 knock


 ベルさん、シノブと合流を果たした俺達はグラゥディズへと向かった。

 アリシア達の無事を確認する。ただそれだけ、たった一つの、だが大きな目的だ。


 その道のりはなんら気持ちを軽くするものではなかった。

 仲間の生存への軌跡をたどる道だとはいえ。


 破壊の痕跡が、いやがおうにも目に入る。

 表面を削り抉られて原型を失った地面。そこに生えていたであろう木々はわずかに根――根であった部分の痕跡を一部残すだけだ。

 見渡す限りに広がるその光景を見ると胸が痛むどころではない。

 その惨状の中で唯一残る希望。

 俺が魔術を遮断した後に続く細い道筋。それは確かにグラゥディズへと続いていた。

 だが、その終着点はアリシア達が居るはずだったパルシの家ではなかった。

 グラゥディズの中心部。元の王城があった方角へと続いているようだった。


 朝日が昇り始めて周囲を照らす。

 闇にまぎれて姿を確認できなかったグラゥディズの姿がほの見え始める。

 そこで俺達が目にしたのはもちろん、今なお防壁に護られて在りし日の姿をとどめているかつてのグラゥディズではない。

 かといってすべてを失った廃墟でもない。

 二律背反する理解を超えた状況。


「まさか!」


 誰とも無く声をあげた。


「城が……。城が残ってる!?」


「ルートの作った障壁が……?」


 言いかけてロイエルトの言葉が止まる。ありえないことだと即座に気付いたのだろう。

 俺も一瞬は同じ考えを持った。


 俺が魔術を遮断して守った道筋は確かに王城へと続いている。

 一部の家屋が全壊せずに、王城へと向かう一筋として姿をとどめているのがその証拠だ。

 だが、生存者の姿は見えない。それに、全壊してはいないとはいえたかだか俺が作った護りの壁はグラゥディズに至ってその幅は1メートルがせいぜいという大きさになってしまっている。

 人ひとり救えるかどうかも危うい。王城を護り通せたとは到底考えられない。

 それに……。

 明らかに、アリシア達が居たと思われるパルシの家とは違う地点へと向かっているのも気になる。

 俺はアリシア達を守ろうとした。だが、その力は弱く、そしてその方向すら誤ったものだった?

 だとしたら……なんのために。自分の意思と力だけで行った行動ではないにしろ、不安と猜疑が鎌首をもたげてくる。


「とにかく、近くまで行ってみましょうか?」


 ベルさんの提案で、調査組と待機組に別れることとなった。

 ロイエルトにレンレン――彼女は渋ったが、何とか言いくるめて――を預けて、ベルさんとシノブと共に街であった地域に踏み入れる。

 目指すべきは王城だろう。そこに至れば何かがわかる。少なくとも現時点で判明していることよりかは。生存者も居るかも知れない。話が聞けるかも知れない。

 アリシア達だって……。


 だが、元のハルバリデュスの王城は俺達の接近を許してはくれなかった。

 姿をとどめる城の間近に人影が見えた。

 それは、ゆっくりと近づいて来る。


 俺達は警戒心を強めた。


「仕掛けてくるなら、あたしが迎え撃つから……」


 ベルさんが小さく呟く。双方共に――相手も魔術を使えるのならば、だが――射程距離内。物理遠隔攻撃の気配や、それに使用する武器の類は見えない。

 だが、相手はただゆっくりと歩いてくる。

 その輪郭がはっきりとしてくる。

 お互いの表情がかろうじて確認できるほどの位置でその男は歩みを止めた。


「やはり、こちらに来たか。トール・ハルバリデュス」


 男は、俺の本来の名を口にした。

 冒険者にも、騎士にも見えない。あえて表現するならば、貴族。ただし、私服を肥やしのうのうと時を消費するそれではない。

 戦乱に身を投じて乱世を生きつつも気品を損なわない豪傑。そんな雰囲気を醸し出している。

 長身、整った顔立ち、長い黒髪。キザったらしく嫌味がましいとみればそう見えなくもないが、そんな印象を抱かせないどこか決意に満ちた鋭い眼光。


 彼は何故ここにいるのか? どういう理由で何のために?

 聞くまでもなく彼は言う。


「予想はできたことだ。だからこそ、わたしがここに居る。

 これ以上……城へ近づくことは控えて貰おう。

 黙って退くなら悪いようにはしない」


 それだけ言うと、言葉とはうらはらに男は剣を抜いて構えた。


「門番ってわけ!?

 誰が何のために差し向けたか!? なんてわかんないけど!」


 叫びながらもベルさんは、既に男と斬り結んでいた。


「足止めだったら! もうちょっと人数集めなさいな!

 あたしを誰だとっ!」


 なおも叫びながら威勢よく攻撃を繰り出す。

 が、ベルさんの言葉はそこで止まる。男の振るった剣の勢いそのままに弾き飛ばされたのだ。

 加勢する隙を伺っていた俺とシノブが動けなくなる。

 いや、シノブは状況の変化に即座に対応してベルさんに駆け寄る。


「大丈夫……。一人じゃ敵わないなんて情けないことは言わないけどね。

 シーちゃんにはちょっと荷が重いかも」


 立ち上がりながらもベルさんは暗に相手の力量のほどを仄めかす。

 黙って俺を見つめる。

 その間、男はただこちらを見やるだけ。隙を見ての攻勢には出てこない。

 3対1に臆している様子はまったく感じられない。

 余裕なのか? それとも足止め以上の何事も望んでいないのか。

 逃げようとすれば見逃してくれるのかもしれない。だけど、それをするにはまだ早すぎる。時期的にも、そして精神的にも。


 俺は駆けた。男に向って。

 魔力はほとんど尽き、魔法薬でわずかに回復しただけだ。剣気だってどれだけもつかわからない。

 だが、戦う力が皆無というわけではない。


 俺の動きに合わせてベルさんが魔術で男を牽制する。避けたなら、避けた時。相殺を図る、あるいは防御のための魔術を使用するのならその時に。

 少しでも隙ができるはずだ。

 その隙をついて俺の剣を叩き込む。それが通じなくともその時にはベルさんも距離を詰めて連携してくれるはず。


「な!?」


 抱いていた勝算……互角以上の戦いへの足掛かりが砕け散る。男が無造作に振り上げた腕から魔術がほとばしり、ベルさんの放った魔術を飲みこむ。相殺どころではない。

 そして、男が放った魔術はそれだけではなかった。俺に向けて一発。シノブにも向けてもう一発。


 仕留めるための攻撃ではないことが逆に心を凍らせる。

 躱すなら躱せ。だが、前に進むことは許さない。といった意思の結露。


 均衡が続いた。

 俺とベルさんは何度も仕掛けようとするが、そのたびに魔術で阻まれる。運よく魔術を回避して懐に飛び込めたとしても、剣を、魔術を相手の体に触れさせることは敵わない。

 シノブは傍観者と化していた。言外に戦力外だと諭されたシノブはそれでも俺達に余分な負荷をかけないように、一瞬も気を抜かずに身構えているのだろう。


 距離を取っての何度目かのにらみ合いのその時。

 初めて男から動き出した。

 ほとんど防御に徹していた時の動きとはまるで違う。速さと鋭さを持った動き。


 油断などしていなかったはずだ。だが、ベルさんは男の一撃で倒れ、返す刀で俺に向けられた剣を受けとめたその瞬間。

 腹に鈍い痛みを感じた。体中の血液が沸騰して、自由を失う感覚。


 男は俺の耳元でささやいた。


 それを聞きながら、俺は意識を失った……。






「地震?」


 強い揺れを感じたアリシアは体を強張らせた。

 彼女が意識を取り戻してからまだそう時間は経っていない。


 アリシアが目覚めた時、そこには彼女ひとりしかおらず、その場所が人を捕えて獄するための場所だと気が付いた。

 ありていに言うならばそれは牢以外の何物でもない。

 彼女の逃亡を阻むために設けられた鉄柵は、魔術による破壊を阻む措置が取られている。

 耳を澄ませて、精神を集中した。あたりに人の気配のないことを確認したアリシアは、それでもうかつに騒ぎ立てることをしなかった。

 ただ、記憶を辿り、自分の状況を確認しただけだ。

 彼女の記憶はプラシやパルシ達と王城の付近へと足をやった時点で途絶えている。

 まばゆい光を、圧倒的な不快感を伴った光奔を目にしたところまでは覚えている。

 だが、それ以降のことはまったくわからない。


 鉄柵越しに見える風景から、ここが単一の牢ではなく、アリシアの居る左右にも同様の部屋が存在することがうかがえる。その規模までは量れないが。

 だが、そこに人の気配はない。


 自分だけが助かったなどと思いたくもない彼女だったが、であればそれぞれ隔離されているのだろうか?

 そもそもここは何処なのだろう?

 そう考えていた矢先に感じた振動は、彼女にとって幸福のドアを叩く現象とは到底思い難かった。

 そしてそれはある意味で真実であった。


 時を同じくして、ルートはアリシアの無事を知ることになる。

 だが、それを安堵に変えるには幾ばくかの時間が必要だった。


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