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わりとテソプレな異世界転生  作者: ぐらんこ。
六.冒険者の章~グラゥディズ戦乱編 <前>~
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第十四話 collapse


 体が勝手に動いていた。

 何が起こったのか、何をしているのか自分でも完全には理解していなかっただろう。

 意識というより無意識で。

 まるで何か……、常軌を逸した力に突き動かされるように。


「頼む!」


 俺は叫んだ。何を頼むのだろう? 誰に?

 体の動作に反して現状の把握が追いつかない。


 だが、やるべきことはわかっていた。そして今の自分に何が出来るかも。何が足りていないのかも。足りていないものを補ってくれる存在が何なのかということも。


 少女の手を引いて走った。少女は何も言わない。ただ、握った手を軽く握り返してくる。それだけだ。


「どうした!? ルート! どこへ行く!?」


 ロイエルトが俺の背中に声をかける。

 だが、立ち止まっている時間は無い。振り返っている時間もない。

 そうした制約だけはわかる。

 ただ少女と手を繋ぎながら走った。どこへ向かって?

 わからない。ただ、直観の……本能の告げるままに。


 少女は、突然の俺の行動に驚くことも無く黙ってついて来てくれる。俺の速度に合わせて走ってくれた。

 全力で走る俺には、少女の表情を伺うことはできない。俺の行動に理解を示しているのか? 無理解なのか? 無関心なのだろうか?

 だが、そんなことを気にしている暇も無かった。

 ただ走った。


「どこだ! ここか!?」


 目的の場所が近づいたところで、ようやく事態が飲みこめ始めた。

 何が起こっているのか。何を為さねばならないのか。


 オフパルシュツンからの追撃。追撃の部隊?

 いや、追手なんかじゃない。誰も追っては来ていない。

 部隊はオフパルシュツンの近辺に居る。

 そして、その標的は俺達ではない。

 膨大なエネルギーを蓄えている。発散の号令を待ちながら準備を整えている。


 竜魔術師の超長距離魔術攻撃。


 狙いは……、アリシア達の居るグラゥディズ。

 細かい照準なんていうものは存在しない。街ごと、グラゥディズ全体を吹き飛ばしかねない爆発的な力。

 かねない? そんなことはない。

 未来が見えた。頭の中に映像が浮かぶ。オフパルシュツンより光が放たれる。

 それを放つのは、何人も居る竜魔術師達だ。魔術師の限界を超え、大いなる力を引き出された得意な存在。

 彼らが、やがて光を放つだろう。

 その光は真っ直ぐにグラゥディズへと向かう。あろうことか街を覆い尽くす程の長大な幅を持った光だ。

 等間隔に並んだ魔術師たちが、平行に驚異の魔力を放つ。

 レーザーの照射。熱量を持った殺戮の光だ。

 街は間違いなく崩壊する。


 俺には……、それを防ぎきることはできない。アリシア達のいるグラゥディズを。

 だが、全てを諦めるのには早すぎる。

 この位置。そうだ。オフパルシュツンとグラゥディズを結ぶ地点。

 光の通り道に自らの体を晒している。いうなれば自殺行為だ。

 

 だけど……、俺の力の全てを使えば……。そして少女の力を借りれば。

 わずかでも、グラゥディズへ安全地帯を作ることができるはずだ。


 啓示? そうかもしれない。超常的な力? なのかもしれない。

 理屈ではない。感覚が告げている。

 竜魔術師の構えるオフパルシュツンと俺の位置を結ぶその先に。この延長線上にアリシアが居る。


「うん。そうだね。ここだね」


 突然少女が口を開いた。だが、その表情は? 目に灯る光は?

 先ほどまでとは何かが違う。あどけない表情が消え、そして代わりの感情がまったく浮かんでいない。


「驚かなくてもいいよ。それに焦ることもない。まだ時間は少しだけど残っている。

 この子……、レンの意識は眠っている。

 レンって言うか、自分じゃレンレンって呼んでるんだけどね。

 僕の都合で眠ってもらった。

 初めまして。ルートさん。いや、トール・ハルバリデュスって呼んだ方がいいのかな?

 どっちが好み? 僕としてはどっちでもいいんだけど?」


 少女が淡々と語る。間違いなく俺に向けられた言葉なのだろうが視線は遠くを見ているようで定まっていない。

 こうして二人で対峙していることに、会話していることにとてつもない違和感を感じる。


「ねえ、答えてよ。ルート? それともトール?」


 再び少女が問いかける。


「そんなのどっちでも……」


 言いかけて、考えなおす。会話だ。事態を把握するためには会話を繋がなければならない。まだ時間があるのならば。


「ルートだ。

 お前は……」


「そうだね。自己紹介が必要だね。時間はあるよ。それくらい。

 時の流れぐらいは変えられる。

 昔話をしようか? ルートさん」


「昔話? だけど、今にも街は……。

 グラゥディズは竜魔術師の攻撃に……」


「だから、時間はあるって。まあでも、昔話はまたの機会でもいいかな。

 あんまりのんびりしててもね。それにあまりに沢山の情報を一度で渡してもパンクしちゃうかもしれないしね。

 風を感じてみてよ。木々の葉の動きを見てみてよ」


 言われるがままに周囲に目をやる。神経を研ぎ澄ませる。

 穏やかだ。信じられないくらいに。

 風が感じられない。木の葉には揺らぐ気配すらない。

 月の光すら、星の輝きまでもがゆっくりとさしこんでくるような奇妙な感覚。


「時間が……?」


「止まっているわけじゃない。ただ今の僕たちの間ではゆっくりと流れているだけなんだよ。だから、しばらくは邪魔も入らない。

 あのロイエルトとかいうお兄ちゃんも、こっちに向っているけど、たどり着くまでに今必要なことぐらいは全部話し終えられる」


「今? 必要な……こと?」


「そう。今のルートさんに必要なこと。といっても大した量じゃない。すぐに終わるよ。

 昔話は今度にするからね。

 第一段階は合格。チェックポイントは通過した」


「第一段階? チェックポイント?」

 

 そのままおうむ返しに聞き返す。


「うんそうだね。この場所に立つってただそれだけだから。

 簡単だったでしょう?」


 そして、少女は語り始めた。より正確にいうと少女の体に宿った、あるいは少女の体を借りた何者かだ。


「僕の名前はレヒト。まあ、ぶっちゃけ言うと次世代の魔王の側近になるべき使命を帯びて生まれた。右腕となるべき者。いうなれば魔王の配下のナンバーツーだよ。半人前だけどね。ナンバーツーとしては。

 左腕はね、リンカっていってね。アリシアさん達のところに行ってるよ。

 まあ、リンカは僕から見ても何考えてるかわからないから、上手くやってくれるかどうか心配だけど。

 できれば目立った行動はしたくなかったんだけどね。魔王様も居ないし。だけどそんなことを言っている場合じゃなくなった。

 やむなしの処置だね。こういうの。詮方ないっていうの?

 僕たちもね、選択肢が非常に限られてしまってるんだ。

 そして……、ルートさんの未来も実は限られている。その道は限りなく細く、途絶えかけている。すごく近い未来でね。近いと言っても僕たちの基準だけど。

 僕はね、未来を知ってるんだ。竜のあぎとに咥えられて、その命の灯を消してしまうルートさんの姿が簡単に想像できる。

 このままじゃ、アリシアさん達も死んでしまう。ロイエルトさんがどうなるのかなんてのはさすがに知らないけどね。まあ生き残っても死んでしまっても僕らには関係ないからわからなくたって問題ない。

 僕が知っているのはこの世界の命運を左右するだけの力を持った人間の歩む途だけなんだ」


 世界の命運? いや、そんなことより……。


「俺が……死ぬ?」


「ルートさんだけじゃないよ。まずは、アリシアさん、プラシさんが死ぬ。

 まあ、グラゥディズに居る人達はほとんど死んじゃうから仕方ないけどね」


「だから、それを止めるために!」


 叫んでから気が付いた。俺には未来なんて見えるはずもない。遠隔視だってそうだ。

 オフパルシュツンで竜魔術師が超長距離魔術攻撃を試みている? どうしてわかった?

 その狙いはグラゥディズ? ありそうなことだが……、何故今のこのタイミングで?

 それに、この場所だ。ここに来ればアリシア達が救えるなんて保証がどこにある?

 確かに、地理的にはここは、オフパルシュツンとグラゥディズを結ぶ線上だろう。

 それはなんとなくそうだというだけで、確証はない。

 正確な位置なんてわからない。GPSもなければ上空から俯瞰しているわけでもないのだ。

 アリシア達……おそらくはパルシの家で眠っているだろう。

 そのアリシア達を救うためには、正確に、数メートルの誤差もなく、オフパルシュツンからのアリシア達の居る場所へと繋がる射線上で、強力な魔術攻撃を防ぐ防壁を作らねばならない。

 勘などに任せて適当にこなせる仕事ではない。

 なのに……、わかる。ここだ。俺の背後にアリシアは居る。プラシもパルシも。

 たとえ今はそうではなくても、その時、その瞬間には。


「そう。ルートさんの力じゃない。

 この時間にこの場所に辿り着けたのはね。

 とはいえ僕の力でもない。正直に言うとね。まあこんなことを隠しても特にメリットもないからいうんだけどね。

 鍵を探してるんでしょ?」


「どうしてそれを?」


「僕はなんでも知ってるよ……。なんていうつもりはないけどね。

 取引をしようよ。

 とりあえずのところ、命の危険にさらされているのはアリシアさんやプラシさん達。ついでにいうとあの大魔道師のパルシとかそのお弟子さんとかも一緒に居るけど。

 死んじゃったら困るよね?」


 言うまでもないことだ。俺は少女の姿を取っているレヒトへとただ頷く。


「じゃあ契約だ。取引成立ってことで。

 さしあたって僕が差し出すのは、アリシアさん達の身の安全。

 ルートさんからは、魂を貰う」


「俺の魂……?」


「悪く思わないでよ。これって、僕たちにとって、とっても大事なことなんだ。

 僕達どころじゃない。魔王軍だけの話じゃない。

 この世界に人間にとって必要な手続きなんだ。

 三界の調和を保つためだね。そのためにはね。

 犠牲はつきものだよ」


「犠牲?」


 少女が……レヒトがゆっくりと近づいて来る。

 あいかわらずその顔には何の表情も浮かんでいない。視線だって俺のほうなんて向いていない。


 俺の魂を……貰う?

 どういうことだ? 魂? 命……?

 俺の命?


 思わず後ずさりをしそうになって気づく。

 か、体が動かない……。瞬きすらできない。

 いや……、動かないんじゃない。時間の流れが狂っているのだとわかる。

 意識だけが高速で流れ、体の時間の流れはゆっくりと流れている。

 だから、頭で描いた命令が体には伝達していかないのだ。

 そんな中でレヒトだけが、周りからすれば何十倍も、何百倍もの速さの時間の流れを生きている。自由に動いている。

 俺もついさっきまで、レヒトとの会話をしている間だけは、その流れの中で行動していたのが、取り残されただけのようだ。

 徐々に意識も周囲の時の流れと同化していく。

 レヒトの歩みが加速する。気が付くとすぐ目の前に居た。もはや目で追うことすらできない。

 ただなすすべもなく。俺はレヒトに魂を奪われる?

 こいつを信じるのなら、その代償としてアリシアの命を救ってくれる?

 それは願っても無いことだが……。

 だけど……、俺はこんなところで立ち止まってしまうわけには……。

 

 終わってしまうわけには……。


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