第十話 crossroads
街道を外れ、わざわざ林の中を進む。
だが、極端な遠回りまでは考えない。出来る限り最短距離でベルさん達の潜伏地点を目指す。
追手の気配は感じられない。街を出る際に、少女がもう一撃あの力を使ったのが一番の大きな原因だ。
道すがら、少女に事情を聞く。
が、一向に要領を得ない。
「名前は?」の問いには「忘れた」
「今までどこにいた」にも「わからない」
「歳は幾つだ?」と聞いても「数えていない」
「家は?」「わからない」
「親は居ないのか?」「覚えていない」
年齢不詳で身寄りのない、まるで迷子の子猫ちゃんである。
「どうして逃げたんだ?」
と聞くと、
「逃げたの?」
との問いが帰ってくる。
俺とロイエルトは少女の返答を聞くたびにやれやれと顔を見合わせることになった。
ただ、一点。唯一得られためぼしい情報。
この少女としては、特に逃げ出したという意識はないらしいが、捕えられていたのかそうでないのかも定かではないが。
「おにいちゃんが居ると思ったから」
少女の言うおにいちゃんというのは、これまでの話を聞く限りでは俺の事らしい。
ただ、本能? に従って、俺の気配を察知して、俺の居る方向へと向かった。
要はそういうことらしい。
俺に覚えが無くても少女にはそれなりの理由があっての行動だ。
相変わらず訳がわからなくもなくないが、たまたまあの騒動に巻き込まれたのではなく、その騒動を起こしたのは俺の存在がトリガーだった。
少女の言葉を信じるのであれば……だが。
三人は自然と無言になる。
そもそも、久しぶりに会ったロイエルトは俺との話のネタは無いこともないのだが、あまり積極的に話すタイプではない。
俺もそうだ。
名も知らぬ少女も自分からは話し出さない。
ただ……。落ち着いたのか、なにかきっかけがあったのかはわからない。
少女は静かに歌いだした。
永久に……永久に 永久に 続く
永遠の眩しさ 胸に……
永久に……永久に 永久に 続け
悠久の輝き 世界に……
カレンダーの数字をそっと指先で辿る
あとどれくらい待てばいいンだろう?
儚さ 暗闇の中で感じる震え
手の中で大切にくるみましょう
舞い落ちる雪が 溶けて消えるように
この想いも いつか消えるのかな
Don't be afraid こぼれても
Don't hesitate 壊れても
傷つけあう感情も ぶち壊しかねない混沌も
全てはZEROじゃない だから
ダ・キ・シ・メ てあげて!
未来へ 続く この道の果て
明日への橋が 今 架かる
さよなら 昨日 までの 命
永遠になる これから……
交差点立ち止まって耳を澄ます
あのメロディは流れて来ないのかな
拙さ 自分の中の壁を越えて
キミの目の前に差し出しましょう
崩れそうなキモチ 見えなくなる前に
キミの前に届くそれだけをネガウ
Don't be afraid 怖くても
Don't hesitate 迷っても
受け止めてくれる世界がある ひび割れたこのempathyも
今はまだZEROじゃない だから
メ・ヲ・ア・ケ て進め!
永久に……永久に 永久に 続く
永遠の眩しさ 胸に……
永久に……永久に 永久に 続け
悠久の輝き 世界に……
永久に……永久に 永久に 続く
永遠の眩しさ 胸に……
永久に……永久に 永久に 続け
悠久の輝き 世界に……
少女の口からこぼれ落ちた歌は、この世界ではもちろん初めて聞いた歌。
この世界の言語ではない。日本語と若干の英語で構成された歌詞。
俺が、転生する前の世界で、子供の頃に聞いた……大ヒットしたアニメの主題歌だった。