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わりとテソプレな異世界転生  作者: ぐらんこ。
五.冒険者の章~クァルクバード編~
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第九話 シーム ~ 生誕祭

 やるべきこと、方向性がはっきりしてわりとすっきりした気分だった。

 焦りは禁物。とりあえず、冒険者としての日常生活ってのを送って置けばやがて、時が来たときへの備えとなる。


 なんだかファシリアには、第六感というかちょっとした占い師的な感覚があるらしい。

 勘がちょっとだけ鋭いという程度のものらしいが。

 もちろん外れることもあり、万能でもない。

 だが、そのファシリアの直観によるとシノブとプラシについては今後末永くお世話になるだろうということを小難しい言葉で言われた。

 ベルさんももちろんのこと。アリシアについてはちゃんとした答えが得られなかった。ファシリアも直接会ったこともない人物が相手だ。はっきりわかっているわけではないのだろう。なんとなくそういう気がするという程度で。


 まあ、そんなお墨付きも得られたことだから、とにかく実力アップ、ランクアップを目指して日夜ギルドの依頼に没頭する。


 おもなパーティは、俺、シノブ、プラシ、アリシア、それにミッツィ。


 火力はともかく、体術や身のこなし的な身体能力ではベルさんからも評価の高いシノブ。

 大魔道師の血縁、ポーラさんの言うとおりに晩成型であるなら今後一番の成長株のプラシ。

 なんだかんだで、サポート役としては非常に有能なアリシア。

 安定したパーティだ。

 ほどほどに仲も良く、まとまりもある。

 実力的には少し抜け気味の俺は控えめで無難が信条であるから自己主張しない。

 俺に次ぐ実力者であるシノブは性格的に問題あり、適度にポカをやらかしては他に迷惑をかけるのでそう大きな顔をしない。というかできない。


 非常にバランスがいい。

 ただ一人を除いて……。




 ある晩、突然プラシに相談を持ちかけられた。


「ちょっと相談があるんだけど」


 なんとなく察しが付く。慎重派のプラシがわざわざ俺に相談まで持ちかけてくる案件。

 ここのところのパーティの唯一といっていいほどの――シノブの乱行らんぎょうは除く――不安材料。


「ミッツィのこと?」


「まあそんなところなんだけど……」


 ミッツィはミッツィで頑張ってはいる。

 回復も出来るし、補助系の呪文もそれなりに覚えている。

 ただ、いかんともしがたい問題点がひとつ。

 上位互換のアリシアが存在するということだ。

 アリシアの欠点と言えば魔力が少ないことだと誰もが思っていたが、ここのところの働きぶりを見ているとまったくそんなことを忘れさせる。

 呪符も魔法陣も無しで無尽蔵に魔力を使いたい放題だ。


 これはいったいどうしたことだと疑問に思って聞いてみると、やっぱりアリシア自身にも自覚はあったようで。

 ポーラさんに相談したことがあるらしい。

 ポーラさん曰く、


「えっとアリシアさんは、一度魔力が枯れました。そこから回復した人の中には、ごくわずかですが、元々の魔力量を大きく超えるだけの魔力量を得た人もいるそうです。はい、文献に書いてました。

 一時は邪法としてわざと自分の魔力を限界まで消費するという荒行も出回ったくらいです。成功確率があまりにも低かったので、すぐに廃れましたが……。

 とどのつまりですが、運が良かったんじゃないですか?

 多分、アリシアさんは選ばれし英雄的な方の御伴をする運命にあるとか?」


 とかなんとか。

 

 そういうわけで、一応みんなの手前、魔力が少ないことを理由にミッツィにも魔術を使う機会を与えているアリシア。

 だが、みんなうすうすとは感じている。

 ちゃんとした役割分担が出来ていないことに。アリシアが本気になればミッツィの出番が無くなってしまうということに。

 さらに言えば、徐々に自分達とミッツィとの力の差が開きつつあることに。

 今はまだそれほど大きくはない。だが、いずれは……。


「彼女もさすがに気にし始めてて……」


「そりゃそうだろうな。

 いや、ミッツィが肩身の狭い思いをしているというか、アリシアが邪魔だって言うんなら……」


「いや、それは違うよ! アリシアはアリシアで気を使ってくれてるし、ミッツィもそれを感謝はしても嫌だとは感じてないって言ってたし」


 たまにアリシアは、復習も兼ねてギルドへは行かずポーラさんの元へ魔術修行に行く。 そういう時は後方支援はミッツィの独壇場になるはずなのだが……。残念ながらそうはならない。

 どこかちぐはぐな感じ。パーティの勢いが萎む感じ。

 いつもの全力感が抜け落ちてしまう。

 だから、自然とアリシアの居ない時は、控えめな依頼を受けることになる。報酬も安い。やり応えもない。


「で、どうしてあげたいって思ってるんだ。プラシは?」


「いや、どうしてあげたいとかそんなんじゃなくって……。

 ただちょっと思いついたことがあって。

 ……一度……、アリシア抜きで長めの依頼を受けられないかなって」


 なるほど。


「まあ、アリシアは別にかまわないって言ってくれそうだな。

 だが……問題は……」


「あっ、そんなに長期じゃなくっていいよ。

 ルートには、特務とかで急な連絡が入るかも知れないんでしょ?」


 いや、今のところは特務の依頼主――ファシリア――も、積極的な活動を考えてはいないらしい。ひとつには、ムルさんという頼れる人材が欠けてしまったことも理由のようだ。

 ファシリアのせいというわけでもないが、焦りが招いた結果だと少し自重気味になっている。

 問題はファーチャだ。一日でもファーチャ参りをさぼると怒号のように非難を受ける。機嫌を直すのが大変だ。こないだなんだ深夜まで起きて俺を待っていたとか、気が付いたら朝だったとか。

 勝手に待って、来なけりゃ怒る。厄介な性格をしてくれている。

 だけど……、前もって言い含めておけば問題ないか。


「いや、一週間とかそれぐらいなら全然問題ないとは思う。

 思うが……、ちょっとだけ時間が欲しい。

 今週は無理だな」


「なに? その特務とかに関係した話?」


「いや、ファーチャの誕生日が間近に迫っているんだ」




 偶然にも、ファーチャと、この国のお姫様の誕生日は一緒だ。

 十進法で数の勘定が行われているこの世界では、10歳の誕生日はひとつの区切りとされている。成人として認められる訳ではないが、子供からの脱却の第一歩。


 街は、次期女王のファシリア・マーソンフィールの生誕10年を祝うムードでにぎわっている。

 冒険者にとってそんなイベントはあまり関係ない。ただひたすら依頼をこなして日々の糧を得る。

 精々浮かれた気分に引きずられて飲み歩く回数が増えたりするぐらい。

 別にパレードをやろうってわけでもないらしく、護衛任務とかも募集はされない。

 お姫様のお誕生会は式典というより顔見せ挨拶ぐらいのイベントなのだという。

 それでも、大国の世継ぎが顔を見せるとなると、街は活気づく。


 その国を挙げてのお祭り騒ぎと、ささやかな――それでも大商会の娘なんだが――お誕生会を前後して。

 マーソンフィールを南北に挟むそれぞれの隣国の情報が相次いでもたらされた。

 ひとつは北、地続きの隣国。もうひとつは南の海を挟んでの隣。


 ひとつめの噂は瞬く間に町中に広がった。ファーチャの誕生日前のことである。

 

 クァルクバードが崩壊の危機にあるという一報。

 国を纏める立場の教祖代が精神に異常をきたして、混乱を極めているという。

 かといって、クァルクバードには軍隊も騎士団も無く。

 興味深いゴシップとして街に広がりはしたが、自分たちの国への影響は少なく、脅威でもなんでもなく。


 教祖代が言うところによると、とんでもない罰当たりな冒険者が複数やってきて、イェルデの逆鱗に触れる所業を行ったとかなんとか。

 いずれ、天罰が下るとか、世界が再び混とんに陥るとか預言めいたことを口走っているとかいないとか。

 人々はただただそれを、面白がって話し合った。イェルデ教の信者でない限りはそんな予言など信じないし恐れるに値しない。当のイェルデ教の総本山であるクァルクバードですら、まともに取りあうものは少ないらしい。

 ただ、イェルデ教や頭が大丈夫じゃなくなった教祖代に見切りをつけて、マーソンフィールへと流れてくる信者が少なからずいるとかなんとか。


 そんな当たり障りのない噂話。俺の、俺達のせいじゃないからな。例えクァルクバードが滅ぶことになったとしても……。






「お誕生日おめでとう!!」


 掛け声に合わせて、ポーラさんが小さな花火を打ち上げる。室内であるにも関わらず。

 天井付近で花開いた火花に向って、ポーラさんは矢継ぎ早に次の魔術を発動させる。

 ポーラさんから沢山の水滴が飛ばされる。

 それらの小さな水滴はそれぞれの火花へ向かって飛び、ピンポイントに消火活動をする。


「どうでしょう? ファーチャさん! 綺麗だったでしょう?

 わたしの開発したお祝い用の魔術です。

 その名も『のぼりぎんりゅうみえしんさきべにせんりんぎく』です!

 本来ならばもっと大きな華を咲かせるのですが、室内なのでコンパクトにまとめました!

 ですので、ミニのぼりぎんりゅうみえしんさきべにせんりんぎくです。

 どうでしょう? シーファさん。ちゃんと消火のことも考えてますので、これなら安全安心、室内でも心置きなく花火を鑑賞できますよね!?」


 自慢げに言うポーラさんにシーファさんはちょっと顔をしかめた。


「料理にかからなかったからいいけど……。

 火をちゃんと消すのは偉いと思うけどその後の水滴がポタポタと……」


「ぞ、雑巾をとってきます!」


 敬礼してダッシュで雑巾を取に行くポーラさん。


 ヘリムゾンフレアみたいな、高火力、超威力の魔術もすごいが。

 今みたいな魔術は……、常人ではとても真似できないぐらいの複雑さを秘めた宴会芸である。

 花火として打ちあがってから花開かせるために、何十ものちいさな火球を生み出しているのだろう。

 それを束ねて打ち上げる。そして同心円上に綺麗に配置誘導する。途中で火花の色が変わったのは炎の温度を変えたのだろう。

 自らの手から離れた炎の温度を調整するなんていう芸当は生半可な集中力ではできない。しかも同時に複数の火花に対して。

 さらにはその後に、最小限の水球でそれぞれの火花に対して消火を行うというきめ細かさ。

 数十もの小さな的に小さな水球で、ひとつも撃ち漏らすことなく。


 これはすごい。それなりに魔術を使う人間ならこの凄さはわかるだろう。

 だがしかし……、なんたる才能の無駄遣いだろう。

 これを開発するのにどれだけの年月がかかったのか。ポーラさんはどれだけ自分の人生が無為に消化されているのかわかっているだろうか……。


「綺麗だったよ。びっくりした。ありがとうね、ポーラ」


 絨毯に落ちた水滴をただ拭くのではなく、雑巾を当てて上からポンポンと叩くという、掃除のセオリーにのっとった作業を行い始めたポーラさんにファーチャが子供らしく礼を言う。

 まあ、本心から喜んだんだろう。こういう子供らしい素直さはファーチャのとりえの一つでもある。


「いいのよ、ポーラ。冗談だから。

 すぐに乾くし、水だったらシミにもならないでしょうからそのままにして。

 さあみんなで食べましょう」


 ちなみに、この世界には誕生日に蝋燭の火を消すという風習はないそうだ。

 蝋燭と言えばあの嫌味な魔術教師が思い出されてしまうのでそれはよかった。結局思い出してしまっているが。


「はい、ルートさん。特別にイチゴをふたつね」


 それは単に切り分けた時の都合上のことなのだが……ふと思い出す。

 今日のケーキもシーファさんの手作り。

 手作りケーキ……。いつ振りだろう。6歳の時は結局食べ損ねたから、5歳の時が最期か。

 10年ぶりのケーキ。

 さらにはイチゴのサービス。懐かしさに胸が熱くなる。

 シンチャのケーキは美化されて、神々しいまでの美味しさとなって俺の記憶に残っているが、シーファさんとして作ってくれたケーキも材料がいいのか腕を上げたのか。

 記憶で輝くケーキの味と遜色ない出来だった。




「いいの! ルート。開けるよ!」


「ああ」


「可愛い!! ねえ、お母さん、結んで! こっちに変えて!!」


 ファーチャは誕生日プレゼントとして贈った髪飾りを早速気に入ってくれたようだ。

 ここのところ、ずっと続けているツインテール。

 シーファさんに、結びなおしてもらって、たたたたと飛び出して行く。

 この部屋には鏡が無いから、わざわざ洗面所にでも行ったのだろう。


「やっぱり! 似合ってる! 似合ってるよ! ルート!」


 遠くからファーチャの声が聞こえる。

 俺は、アリシアの方を見た。アリシアも俺を見てにっこりと笑ってくれた。

 実を言うと、ファーチャのプレゼントなんて何をあげればいいのかさっぱり思い浮かばずに、恥を忍んでアリシアに相談したのだった。

 アリシアは腹も立てずに、プレゼント選びに付き合ってくれた。


 実はその前にシーファさんにそれとなく相談したのだが、シーファさんからはそういうものは自分でちゃんと決めるものですと言われてしまった。

 自分の意思は、アリシアが候補に選んでくれた幾つかから最終選択を行うという場面で発揮したから、シーファさんの意見も一応取り入れられたはずだ。


 大商会の一人娘にしては、つつましく、ほのぼのとした誕生会だった。

 カールさん、シーファさんの人柄がそうさせるのだろう。




 こうしてファーチャは――ファシリアは――、ひとつずつ歳を取って行く。

 3年後には13歳。冒険者養成学園に入る歳だ。さらに3年経てば卒業。順調にいけばまず間違いなく冒険者になれる。

 ファーチャのことだから、別に学園に行かなくても、ポーラさんが教えてくれてたら、それだけでも冒険者になれるだろう。

 6年とはいわず、5年後か4年後ぐらいには。


 とにかく、それぐらいの時間はある。気を抜いてはいけないが、ゆっくり構えていればいい。しばらくは大きなイベントもないだろう。

 そんな風に考えていたのだが……。




 ファーチャの誕生日からわずか数日後。海を挟んで隣の国。

 元ハルバリデュス王国。現要塞都市国家群グラゥディズ。

 そこから、もたらされた知らせ。


 地道に平和で平等な国家づくりを進めるグラゥディズ。

 その平和な歩みを妨げる愚行。


 旧体制派、すなわち王権復興派が力を束ねて、反乱を起こしたらしい。

 それを率いているのは元の国王だという。すなわち俺の実の父親。

 元王族や没落した貴族達が率いるいわゆる反乱軍。

 新体制派を信頼し、ギルドを通して集まった正規軍。

 ふたつの勢力による争い。


 正確な情報は伝わっては来ていないが、噂によると、手段を問わない、悪辣な反乱軍の鎮圧には、正規軍も手を焼いているらしい。


 知らぬふりはできない。

 力はともかく、立場として。俺の生まれた国。俺が継ぐはずだった国。

 国への、権力への未練はない。


 だけど、あそこには……ゴーダが愛した国民が居た。ゴーダが護った平和があった。

 王子としての血や立場を使うのかどうかはまだわからない。行ってみなければ、その時にならなければ。

 だが、狂った父親を宥めるのは、子としての俺の役目だ。

 そして、もうひとりの父親。ゴーダが大切にしていた騎士の誇りにかけても平和は守り通さなければならない。


 俺は決意した。グラゥディズへ。ハルバリデュスの家系が繋いだ地へと舞い戻ることを。

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