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わりとテソプレな異世界転生  作者: ぐらんこ。
五.冒険者の章~クァルクバード編~
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第三話 マシン ~ 進撃の巨竜

「こんなこともあろうかとじゃないわよ!

 なにしてんのよ! この国の重要文化財を!!」


 ベルさんの怒りはもっともだ。あと文化財じゃないってのは、猿轡さるぐつわを噛まされて声の出せない教祖代にかわって突っ込んでおこう。心の中で。


「だってさあ、いろいろ調べているうちに教祖代本人じゃないと開かない扉があるとかなんとか……」


 ジエッジさんは軽く言うが、ほんとになんということをしでかしてるんだ?


「わたし……疲れた……おうち……カエリタイ……」


 シノブがカタコトになるのも気持ちはわかる。

 気持ちはわかるが……。

 俺は外の様子に耳を配った。特に騒動は起きていないようだ。

 どんな魔法を使ったかわからないが、ジエッジさんは、隠密裏に教祖代を誘拐して、こっそりとこの場所へと連れ込んだらしい。


「とにかく、さっさと片付けて帰ろうぜ?

 冬が来る前にさ」


 冬なんてまだまだ数か月は来ない……。


「「「…………」」」


 開いた口がふさがらない中で、真っ先に正気を取り戻したのはシノブだった。予想外だ。


「ちょ、お前。ジエッジだか鋭利仮面だか知らないけど!」


 シノブは苛立ちからか声が大きくなっていたので、ジエッジさんに、


「シーッ!」


 とジェスチャー交じりで抑えられる。


「ごめん……」


 シノブは声のトーンを落とした。


「あのさ、見張りの人間を買収したり、教祖代を連れてきたり。

 あんた一人でやったほうがよかったんじゃないか?

 それともなにか?

 あたしたちが不甲斐ないからか? どういうつもりなんだ?」


「ん~、不甲斐ないか不甲斐なくないかは、それは俺が決めることじゃない。

 俺達が依頼されたのは、この中に眠ると言われる書物を持って帰ること。

 それだけだ。

 一人でできることには限界がある。力を合わせて効率的に。

 不測の事態に備えておかないといけないしな」


「もう、この人には無理なことはないんじゃないかなって思いますけどね」


 と俺が言うと、


「よくわかってるじゃない?

 俺って、不可能とか無理とかいう言葉が辞書に載ってても読み飛ばすタイプだからね」

 と軽く流された。


「さあ、教祖代様。

 あなたにならここを開けることが出来るんでしょ?

 猿轡ははずします。ですが、開封に必要なこと以外は決して口に出さぬように。

 大きな声などをお出しになられたら、あなたには不幸な明日すら訪れないでしょう」


 仮面を付けて偽名を名乗っているジエッジさんはともかく、俺達はフードをかぶっているとはいえ、顔を晒してしまっている。

 教祖代は目隠しをされたままだ。ジエッジさんはそっと口に噛ませられていた布だけを外す。


「お前達っ! どこの誰だか知らんがこんなことをしてタダで済むとっ!」


 途端に叫びだした――それでも声のトーンは幾分か落としていた――教祖代だったが首筋に突き付けられた刃の冷たさに一瞬で黙り込んだ。


「俺達は本気だ。

 さあ、扉を開けてもらおうか」


「この調子じゃあ、中がどうなってて何があるのかも全部お見通しみたいね」


 とシノブが言うが、


「俺もそこまで便利な人間じゃないさ。

 俺の依頼人にとって有益なのかどうなのかはわからないが、重要な書物が一冊収められているということ。

 そもそもこんなクソ寒い山奥がイェルデ教の聖地に選ばれた理由があるとかないとか、それぐらいしか知らないんでね。

 中を知ってそうなこのおじさんも、自分からは話そうとはしてくれないし。

 まあ、中身は開けてみてのお楽しみってことだ」


 と、ジエッジさんが答える。

 教祖代は諦め悪く、


「悪いことはいわん。考え直せ。

 今なら、特別に今回の件は水に流してやろう。

 どうだ? イェルデ教の司祭の職もやろう。

 寒いのが嫌であれば引き留めもせん。

 金が欲しいなら、十分な金も与える。

 だから……こんなバカな真似はやめるがいい」


 などと必死で抗弁するが、ジエッジさんに、


「知らないなら教えておいてやろう。

 俺達は気が短いんだ。

 二度も三度もあんたの心変わりを待てるほどの余裕もない」


 と脅されて黙り込んだ。




 教祖代が呟いた二言三言。

 固く閉ざされていた扉が淡く光る。


「やけにあっさり開いたわね」


 ベルさんが、中を覗き込みながら言う。


「どうする? そのおっさんも連れていくの?

 狭い階段みたいだけど?」


 ベルさんの問いに、ジエッジさんは、


「ああ。ほんとに中に何があるのか知らないんでね。

 ガイドは必要だよ」


 まずはベルさんが。続いて俺とシノブが。

 教祖代を連れたジエッジさんが最後に階段を下りる。


「ここだけ独立した洞窟みたいね。思ってたより広いわ。

 他とも繋がってないみたいだし、照らしていいかしら?」


 ベルさんの問いに、ジエッジさんが、


「ああ、頼む」


 と短く答えた。

 ベルさんが、広範囲を照らす光魔術を唱えた。




「なにこれ!?」


「な、なんだ……」


「りゅ、竜?」


 そこは地下に存在するにしては巨大な空間だった。その壁は天然石。人の手によって削られた形跡は見当たらないから自然に出来た洞窟なのだろう。もともとはもっと奥へと繋がっていたようだが今は、がれきに埋もれて閉ざされている。


 いや、空間の説明はいい。それよりも俺達の目を引き付けた物。

 それは巨大な物体。前衛的なオブジェのような……。

 小さな家ほどもある全高。


 そのフォルム、シルエット、形はまさに伝説に聞くドラゴンそのもの。

 太い胴体に、重量感のある後ろ足。それより多少サイズの劣る前足。

 大きな翼。鋭い牙の並んだ口。


 だが……これは……。

『生きていない』ということが一目でわかる。

 この竜には血肉が存在しないのだ。だが、死んでいると簡単に片づけられるわけでもない。


 骨格だけが残った竜の標本という表現が最も適切ではあるだろう。

 だが、骨格の部分が俺の想像の範疇を超えていた。


 ごく普通の骨ではない。どちらかというと機械仕掛けの巨大ロボットのフレーム、内部骨格のような。

 自然な丸みを帯びているのではなく、平面と鋭角と鈍角で構成されたパーツ。

 工業機械の稼働部にも似た見た目でそれとわかる関節部。

 素材は、石でもなく、金属でもなく。見たこともない質感だ。


ドラゴンゾンビか……」


 ジエッジさんが小さく漏らす。


「ゾンビ!?」


「えっ? 竜の中身ってこんなにカクカクとしたものなんですか?」


「俺だって初めて見たよ。

 だから、正確なことはわからない。

 なんせ、竜を始末したことがある奴なんて伝説の英雄ハルバリデュスとその一行ぐらいだからな。

 だけど、形が竜で、肉が付いてなくって長年朽ち果てていないのならそれはドラゴンゾンビ以外の何物でもないだろう?」


「伝承には残っているわね。死んだ竜もゾンビとなって再び襲い掛かってきたって。

 あたしもこんなふうになっているとは思いもしなかったけど……」


 ベルさんの声にも驚きが残っている。


「生きている竜に劣るとも勝らない力を持つ、邪なる存在。ドラゴンゾンビ」


「劣るとも勝らないって?」


 言葉にひっかかりを覚えた俺がジエッジさんに聞くと、


「ああ、その力は竜の半分とも半分以下とも言われている。

 さすがに、生きていた時の力をそのまま持ち続けているわけじゃない。

 だが、その口からは強力なブレス、そんじょそこらの上級魔法を軽く超える威力の吐息を吐き、巨大な体躯にも関わらず鋭い動き。

 並みの剣では歯が立たない強靭な骨格。

 伝えられているのはそんなもんだな。嘘だかほんとだか。

 まあ、でかい図体はしているが、襲い掛かってくるってわけじゃない。

 ドラゴンゾンビとしか形容できないからそうしただけで、本物かどうかは俺達にはわからない。こいつが動くのなら別だがな。

 それより、目的のものはあそこのようだぜ」


 ジエッジさんの指さすところ。

 ドラゴンゾンビ以外には何もない洞窟の中でこれでもかというほど主張している小さな台座。

 その上に、ガラスケースに納められた書物が載っていた。


 ジエッジさんは俺を見つめて言う。


「君の仕事だ。あれを取ってくるんだ。

 それが依頼主にとってアタリなのかハズレなのかはわからんが……」


 一度ずらしてしまったから、締め付けが緩んでいたのだろう。

 さっきまでもがもがふがふがと声にならない声を出していた教祖代だったが、猿轡が外れたようだ。


「待て! それは、わたしにとって、

 いや、この国にとって重要なものなんだ!

 イェルデ教の存続のためには、誰の手に渡してもいけないと言われているんだ!

 頼む! それだけは!」


 教祖代は必至で俺を引き留めようとするが、言葉の力だけでは俺の歩みは止められない。

 俺は、ジエッジさんに言われたとおりに、小さな台座へと歩み寄った。

 ガラスケースをそっと外す。

 古びた書物。俺の知らない文字で書かれていて書名すら読むことができないが、保存状態は良好のようで腐っても居ないしカビひとつ生えていない。

 これが今回の任務の要。


 とりあえず、これを持って帰れば依頼終了。

 俺は、その本を手に取った。


 突如悪寒に襲われる。


「ふははは……、ふははははは……」


 教祖代の乾いた笑いがあたりの空間に響き渡る。


「もう、この国はお終いだ……。

 わたしも……お終いだ……。

 終わりだ。終焉だ。お終いだ……。終末の時だ……、

 お終いだ……お終いだ……」


 気が狂ったように、甲高い声で自嘲気味の台詞を吐く教祖代。


「きゃあ!」

「まじで!」


 シノブとベルさんが悲鳴を挙げる。

 

 振り返ると、瞳に光を取り戻したドラゴンゾンビが俺を睨んでいた。


「イェルデ教の深淵に、イェルデ教の教義の秘密に触れる愚か者現れるとき!!

 大いなる力を秘めた眠りし竜の遺骸が目覚め、そやつらを微塵に粉砕するであろう!!

 伝説は本当だったんだ!」


 もはや、嬉しいのか嬉しくないのか、悲しいのか怒りなのかさっぱりと感情が伝わってこないが、ただただ大声で絶叫する教祖代。


「そうならそうと先に言えっての!!」


 ジエッジさんの鋭さに欠けた突っ込みが洞窟の壁に当たって反響する。


 睨み付けるだけでは飽き足らず、俺に向ってゆっくりと歩いてくる巨大な竜の骨格。

 地響きとともに、天井がばらばらと崩れ落ちる。


 わりと……大ピンチだな。

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