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わりとテソプレな異世界転生  作者: ぐらんこ。
四.冒険者の章~プロローグ~
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第六話 ポイズン ~ しばらくぶりな面子


「じゃあ、本当に俺達はこれで」


 カールさんに、一旦別れを告げる。いろいろあったが無事にマーフィルまで送り届けることが出来た。


「ありがとうございました。

 ギルドには話を通しておきますので明日以降であれば報酬を受け取れると思いますから。

 本当にお世話になりました。

 お父様……クラサスティス伯爵にもお伝えください。

 何かあれば、フィデルナー商会を挙げて微力ながらお力添えをすると」


「はい。そのお心遣いだけで充分です」


 アリシアが控えめな返事。


「では、また改めてご招待させていただきますのでその時はどうぞよろしく」


 俺とアリシアは、最後まで丁寧に礼を尽くしてくれるカールさんと、ジト目で見送るファーチャの視線を背に受けながら、王都の街へ繰り出した。




 ポーラさんは……実は離脱した。王都目前の街で。

 どうにも踏ん切りがつかないらしい。


「一緒に王都までは行きましょうよ。

 住むところは、用意してあげられないけど……」


 アリシアが何気なく厳しいことを口にする。

 とりあえず王都に着いたら俺とアリシアはまたクラサスティス家の別宅に住むことになっている。

 仮住まいだ。

 だけど、そこにポーラさんの部屋は用意されない。しちゃいけない。それはロンバルトさんからもきつく言われていること。


「少し……、考えさせてください。

 しばらく……この街に留まって、お小遣いが無くなったらその時には……」


 ポーラさんの貯金が幾らあるのかわからないが、浪費癖の強い彼女の事だ。

 そう長くはかからないだろう。

 この街で仕事を見つけるのか、それとも王都へ向かう決意をするのか。はたまた流浪の道を選ぶのか。

 自分で決めたらいい。


「じゃあ、今までありがとうございました。

 まだまだ教えて貰うことも沢山だと思うから。

 落ち着いたら連絡頂戴ね」


「ポーラさんお元気で」


 そんな簡単な別れを済ました。




 さて、家に帰って荷物を置いて。一息入れたら、早速アリシアが部屋を訪ねてくる。


「ルート! ギルドに行くわよ!!」


 ちょっとぐらいのんびりしたらいいのに。

 明日になれば、グヌーヴァからマーフィルへの護衛任務の報酬が下りる。

 さらに言えば、特例中の特例でひよっこに毛すら生えていない俺達に与えられた任務のランクはCランク。無事に完了させたのだから、俺達のランクは明日には飛び級でDに上がる可能性も高いらしい。

 依頼主のカールさんが高評価を約束してくれた。大商会の主なのだから、ギルドからの信用も厚い。

 ならば、明日でいいじゃない。

 今日はFランクの俺達がギルドに行っても碌な仕事にありつけないよ。

 それをそのままアリシアにぶつけたが、


「だって、うっぷん溜まってない?

 しばらくバトルも無かったし……」


 アリシアの胸の奥底に、ファーチャといちゃつく俺を見続けさせられたしという言葉が無いことを願おう。

 あくまでも……、イチャイチャじゃなくって懐かれたという建前。

 ファーチャはポーラさんとも仲良くなって魔術習ったりしてたしね。

 アリシアとは……、必要が無い限り会話も無かったようだけど……。


「バトルってったって、Fランクじゃ受けられる依頼も少ないぜ?

 ドブ晒いとか、河川敷のゴミ拾いとか……」


「わたし、スライムって奴と戦ってみたいのよね。

 あれだったらわたしの攻撃魔術でも十分通用するし」


 哀れでか弱いスライムをうっぷん晴らしに使うのはどうかと思うが……。

 押し切られる形で俺はギルドへと行くことになった。




 俺の人生には幸運と言うか、偶然と言うか、普通ではない現象がちょくちょくと起こる。持って生まれた強運ってほどでもないけど。

 今回もその中の、わりと小さな偶然。


「ルートじゃない!?」


「えっ! ほんとだ。ルートだ! 久しぶり!」


「お久しぶりです」


 ギルドに入ると早速、シノブとプラシとミッツィの総合科三人衆に出会う。あと、ニグタも居た。


「挨拶も無しに行くなんて酷いじゃない!」

 

 シノブに罵声を浴びせられる。


「まあまあ、事情は後から聞いたんだから。

 あの時は仕方なかったじゃない。

 ルートも大変だったんだよ」


 とプラシがそれを宥めてくれる。


「こんにちは。覚えてくれてるかわからないけど」


 とアリシアが三人プラスモブ一人に挨拶する。


「ああ、アリシアさんと一緒だったんだ。

 ってことは二人とも冒険者に?」


「ああ、まだランクFだけどね。そっちは?」


 俺はプラシに答えた。


「地味にコツコツやってるわよ~。

 ゴミ拾いから、宅配業務まで幅広く」


 そう言うシノブの目には疲れが見えた。


「ランクはEに上がったところです。わたしに付き合って貰っているからなかなか危険な任務は引き受けられなくて……」


 とミッツィが言うと、


「いやいや、全然そんなことないよ。

 僕たちだってまだまだ力不足だから。

 地味で安い依頼でも毎日が勉強だから」


 すかさずプラシがミッツィをフォローする。

 

 学園卒業後、気心の知れたプラシとシノブとミッツィは行動を共にしてギルドでも同じ依頼を受けることが多いらしい。俗にいうパーティってやつだ。

 それにニグタのような顔見知りの助っ人を入れたり入れなかったり。

 その依頼の中身は学園時代の延長戦とも言うべき内容で、とどのつまりはほとんどが雑用。

 生活に困ることは無いが、派手でもなく、さして活躍も出来ずという状態。

 まさに冒険者の底辺層。ルーキーランクのFをやっと抜け出したとはいえ、冒険者とは名ばかりの何でも屋。

 今日も、早朝から一仕事終えて、完了報告に来ていたところらしい。


「とりあえず僕たちは、手続きを済ませて来るから……」


「ああ、俺達は依頼表でも眺めて待っとくよ」


 俺はアリシアと共に依頼掲示板へと向かう。

 一枚で収まっていたグヌーヴァの掲示板とは違ってこちらは依頼ランクごとに分かれている。中でも、依頼量の多いEランクの依頼なんかは複数毎に分かれている。


 今のところFランクの俺達が受けられるのはEランクまで。

 ちなみに言うとFランクの冒険者は居てもFランクの依頼というのは存在しない。

 報酬額、難度を加味して依頼はA~Eに振り分けられている。

 その上にSやLというランクも存在はするが、Aランクの依頼ですら滅多にお目に掛かれない。

 A以上の依頼となると単独パーティでこなすにはとんでもない力が必要とされる雲の上の存在だ。

 例えば、数千の大軍を相手にするとか、ドラゴンクラスの魔物を討伐するとか。

 冒険者は自分のランクのひとつ上の依頼までは受けられる。それを連続して成功させていくと、評価ポイントが溜まってランクが上がる仕組みだ。

 Eランクにあがったばかりのプラシ達は、まだしばらくは下積みが必要。

 冒険者と言う名に恥じない程度の依頼はCランクぐらいからだから。

 

 それはそれとして、今日のところはまだまだルーキーのFランクである俺達。

 やはり、掲示板には雑用やお使い的な依頼が並ぶ。

 間が悪いのかなんなのか、最近はスライムもわいていないようだ。


「スライム退治が無いじゃない!

 学園に居た頃はそればっかりやってたんでしょ?」


 アリシアに攻められるが俺の責任じゃない。

 確かに、学園に居た頃はスライムがどんどん増えていっている時期で、毎日毎日スライムの相手ばかりしたとは話したけれど。

 地道な駆除がスライムの殲滅――とまでは行かないまでも大幅な生息域の後退をもたらしたようだ。


「やっぱり、今日はゆっくりしようか?

 プラシ達も今日はもう引き上げるらしいから、一緒に飯でも食わない?」


 アリシアとプラシ達を引き合わせておきたいという俺の思惑。

 5人パーティとなると大所帯だが、そこは臨機応変にメンバー編成すればいい。

 俺とアリシアはしばらくは王都に留まるつもりだ。修行、そして経験値稼ぎ。ギルドのランク上げ。


 二人で動くより、沢山の仲間がいた方が受けられる依頼のバリエーションが増える。

 そして仲間を増やすのだったら見ず知らずの冒険者より、俺にとってはだけど気心の知れた学園時代の友人の方がふさわしいと思う。

 アリシアとプラシ達にも仲良くなって欲しい。

 そのために、ご飯を食べる。うん、非常に論理的で筋道立っている。


「それは構わないけど……。

 ちょっと、窓口行きましょう」


「なんで?」


「カールさんの依頼が完了手続き終わってるかも知れないじゃない?」


「いや、流石にまだだろう?」


「念のためよ」


 アリシアの気持ちもわからないでもない。

 プラシ達はEランク。俺達はFランク。

 だけど、明日になればDランク。なんていうか女の意地なのか見栄なのか。

 アリシアの負けず嫌いは収まってはいるが、完治はしていない。


 仕方なく窓口にならんだ。

 順番が回ってくる。


「あの、アリシア・クラサスティスとルート・ハルバードです。

 さっき完了させた依頼なんですが、完了手続きが終わってないかなと思いまして。

 あ、これがギルドカードです」


 アリシアは俺の手からひったくるようにカードをとって窓口の綺麗なお姉さんに渡す。

「ちょっと照会しますからお待ちください」


 待つこと数分。


「ルート・ハルバードさんはそちらの方ですね。ちょっとこちらへ」


 と俺一人別室へ案内された。応接室だ。


「しばらくお待ちください」


 と窓口のお姉さんはお茶を置くと去って行った。

 代わりにやって来たのは頭の禿げたおじさん。確かこの人、ここの偉いさんだったような気がする。


「ルート・ハルバードさんですね。

 冒険者ランクはF。

 お間違いはございませんか?」


 と、おじさんは俺にギルドカードを返しながら言う。


「ええ」


「わたしはこのギルドの副支配人のキャゼルバです。

 あなたに特務依頼が出ています」


 特務? 特務ってやつは聞いたことがあるけど……。

 確か、秘密に出される依頼が多くて、報酬額はべらぼうに高い。

 依頼主が冒険者を名指しで指名できる。さらには依頼の内容についてギルドの承認も必要。

 おもに国家レベル、あるいはそれ相応の事案を扱う。

 とかなんとか。

 こんな駆け出しの俺に? 特務?


 一体全体誰から? 心当たりは約一名。

 大商会を束ねるカールさんなら……フィデルナー商会クラスの権力があれば、出せないこともないだろうけど。

 だけど、カールさんならギルド任せにせずに先に一声かけてくれそうだ。


「詳しい内容は、こちらに記載されています。

 わたしも中身は知りません。

 知ることは許されておりませんので決して伝えないでください」


 そう言って渡された一枚の封書。

 裏も表も見たが、たった数文字。それ以外には何も書かれていない。

 さして分厚くも無いが、詳細は中身に書かれているのだろう。


 封筒の表に記載された依頼主と思われる二つの単語を見て、期待と、そして言いようのない不安に気分に襲われる。決して後ろ向きな感情ではないけれど。

 なんだか疲れそうだなという気配。


 特務依頼の拒否権は与えられているけれど、それは相応のランクの冒険者にとっての話。

 俺達駆け出しの低ランクの冒険者は、特務依頼を受けることはほとんどないと言っていいほどだけど、もし受けた時に断われば様々な圧力とか面倒なことも起こりうるという。

 まあ、手紙に書かれた名前が俺の思った通りの人ならば、そんなじめじめしたことはやらないだろうけど。


 とにかく、その封書に書かれていた文字。


『鋭利な仮面』より。


 落ち着かない俺の気持ちもわかるってものだ。

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