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わりとテソプレな異世界転生  作者: ぐらんこ。
四.冒険者の章~プロローグ~
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第二話 START ~ 旅人を助けるテンプレ?

「折角だから、もうちょっと奥の方まで行ってみる?」


 アリシアが問いかけてくる。


「そうだな~……」


 ガルバーグさんからの依頼は、言うなれば子供のお使い。

 そりゃそうだ。6歳の俺でもできたことだ。

 魔物の居ない範囲でも運が良ければ――というかよほどの悪運に見舞われない限り――手に入る香草を数枚採るだけの簡単なお仕事。


 時給にすると数百Gにしかならない。さらに言えば全然時間もかからない。

 昔の記憶を頼りに、香草の群生地を目指すとあっさりと必要な枚数分を採り終えることが出来た。


 あまりにもあっけない。これじゃあ初依頼達成記念の打ち上げパーティを開くこともできない。二人でお茶を飲んだら吹き飛ぶ報酬。

 なにより、刺激が少ない。それ以上に達成感がすこぶる少ない。

 無難に終わるのはいいことなんだけど。


「あれでしょ? この辺って薬草とかも生えてるんでしょ?

 ついでに採ってマリシアにでも売りつけましょうよ」


 悩む。思案。

 ボォンラビットなんかが今も居るのかわからない。今の俺ならあれくらいの相手とはやりあえる自信は無くは無い。が、はっきり言って魔物との遭遇は運次第。

 運が良ければほどほどの相手。運が悪ければ恐ろしく強い相手に巡り合う。


 地域や地方によって生息域はある程度は決まっているものの、相手は魔物。気まぐれで神出鬼没なこの世界の同居種族。

 出会いがしらに厄介な種族に遭遇しないとも限らない。


 野獣種ビーストレベルならまだしも昆虫種インセクトなんかは、アリシアと二人で大群に出くわすと対処のしようがないだろう。


 俺はアリシアにやんわりと拒絶を伝える。


「まあ、依頼は完了したし、初依頼なんだからこのまま帰って完了報告でいいんじゃない?

 地道に行こうぜ、地道にコツコツと」


「だって、折角なのになんのイベントも起こらないなんて、幸先が悪いわよ。

 ねえ、もうちょっと、もうちょっとだけ……」


「でもなあ。ヤバいのに出くわさないとも限らないし……」


「あっ、じゃあこうしましょう。

 わたしが探索魔術で、周囲の状況を見るから。

 それだったら、大丈夫でしょう?」


「探索魔術なんて使えるのか?」


「まだ練習中だけどね。一応、魔物の大体の強さぐらいはわかるわよ」


 なんか本末転倒だな~と思わないでもない。

 依頼は完了。それだけだとつまらない――手ごたえやらなんやらが少ないとアリシアは思っているのだろう。

 だから、もう少しスリルを求めて森の奥へ。

 だけど、スリルがありすぎるのも困りもの。だから、探索魔術で危険が無いかを事前にチェックする。

 そしたら、安全でお手頃なスリルを味わうことができる?

 やっぱり目的を見失っている気がする……。


 なんて考えている間にアリシアは魔術を詠唱し始めた。


「ムーギェン・ノル・ジグェン・ヘル・シーソゥ……」


 風の精霊が躍り出す。


 アリシアの顔色が変わった。


「冒険者!? 旅人?

 襲われてる!?」


「どうした!?」


「すぐ近く! あっち。

 魔物が!! 人を襲ってる!!」


 アリシアは駆け出した。俺ももちろんすぐに後を追う。

 アリシアは、元々旅の護衛をしたくて冒険者になったんだ。

 仮に、旅人がちゃんと冒険者を雇っていて俺達が手出しする必要なんて無くたって。

 魔物に襲われているという事実を知ってしまった以上はアリシアは無視できないだろう。気持ちはわかる。


 すぐ近くとは言っていたが声も気配も届かない。

 俺達がたどり着いた時には、全てが終わっているのが一番いい。

 もちろん護衛が魔物を退けたというハッピーな結末。


 だが、期待は裏切られる。最悪の事態ではなかったのが救いだ。




「あそこ!」


 アリシアの視線の先。森が拓ける。街道だ。この付近の街道は結界も整備されておらず、当然魔物も出る。

 だから、力の無いものだけで通ることはまずありえない。そのはずだけど。


「絶対に近寄らせないんだから!」


 小さな女の子の叫び声?

 と、ともに爆発音。

 火属性の魔術か!?


 少女の放った魔術の対象となったのはもちろん魔物……硬い外殻で覆われた昆虫種インセクトのひとつ。アィアンアントだ。

 もちろん初めて見る。

 全部で5匹。運がいい。アィアンアントは、もっと大きな群れで活動することもある種族だ。

 何十匹という数で攻めてくることもしばしばという風評。

 だが気は抜けない。生半可な魔術は通用しない相手。下手に刺激をして、戦いを長引かせてしまうと仲間が呼び寄せられて数が増えないとも限らない。


 護衛は……? と状況を確認する。

 一人は既に倒れている。息はあるようだ。

 傷ついて、立っているのがやっとといった剣士二人が馬車を護るように立ちはだかっている。

 その馬車のすぐそばに、10歳ぐらいの小さな女の子とその父親ぐらいの年齢の男性。

 数の上では5対5だが、既に一人やられてしまっている上に、小さな女の子――魔術は使えるようだが――とその保護者らしき男は武装していない。


 女の子が叫ぶ。


「だからあっちへ行ってってば!!」


 女の子の手から火球が放たれる。威力は中級程度。詠唱も無しに? いや、事前に詠唱してたのか?


 剣士の一人に襲い掛かろうとしていた鉄蟻に火球が炸裂する。

 が、時間稼ぎにはなってもダメージを与えることはできていない。

 昆虫種は魔術に耐性がある。


「ルートッ! あいつらを近寄らせないように!

 みんなは、馬車に集まって!」


 アリシア馬車の周囲を駆け回る。地面に円を、呪文を描いているようだ。

 それから詠唱を始めた。

 俺はアリシアを護るべく魔術で蟻達をけん制する。

 その隙に、まだ動ける二人の剣士が倒れた剣士を馬車の傍へと運ぶ。 


「あなたたちの好きにはさせないからっ!

 三重火炎結界陣!!」


 アリシアの魔術の発動を見届けてから俺は1匹のアィアンアントと対峙した。


 普段は六本足で移動する蟻だが、戦闘になると腹を支点にして後ろ脚だけで立ち上がり、左右合わせて4本の足の先の爪で攻撃を繰り出してくる。

 流れるような攻撃。

 だが、受けきれないってわけじゃない。

 蟻の攻撃を受け流し、躱し、隙を見て相手の胸部に剣を叩きつける。


 キィンと乾いた音が響く。


「ダメだ! そいつは生半可な剣気じゃ斬れないんだ!」


 剣士の一人が叫ぶ。

 剣気か……、生半可どころか、あいにくとまだ剣気自体が身についていない。

 幸いにして俺の手にしている剣、フライハイツはそんじょそこらのナマクラじゃない。 蟻の外殻ぐらいじゃ折れないし欠けないが、さすがに昆虫種の硬い殻を斬りつけるほどの切れ味は持っていない。こっちの攻撃も通用しない。


「まずい!」


 また剣士から声が上がる。


「だから来ないでって言ってるでしょう!」


 少女も叫ぶ。


 複数の蟻が、標的を人の集まっている馬車に定めてゆっくりと警戒しながらも近づいていく。


「大丈夫だから!」


 アリシアが大声で叫びながら、魔術で迎撃しようと前に出た少女を押しとどめた。

 蟻が結界陣の淵に触れる。突如現れた火球が蟻を焼く。だが、それでも進行は止まらない。蟻はまた一歩、一歩と先へ足を進める。

 さきほどよりも大きな火球が蟻にぶつかる。

 そこで蟻はひるんだのか、向きを変える。


 なるほど、セミオートでの火炎による迎撃システムか。攻防一体の結界魔術。

 しかも三重ってことは、今蟻を退がらせた火球よりも強い攻撃がもう一段残っているってことだ。

 アリシアってば、いつのまにこんな高度な魔術を……。

 と感心している場合ではない。

 仲間に据えられた痛いお灸で学んだのか、蟻達の標的は俺に変わった。

 唯一結界の外に出ている俺へロックオン。


 今相手にしている1匹。それに加えて新たに4匹が俺の元に向ってくる。

 まとめて相手したいところだが……。

 囲まれてしまうと厄介だ。


 まずは1匹。

 相対する蟻から距離をとり、一気に詠唱する。切り札の魔術。

 俺が唯一使える上級魔術。

 ポーラさん直伝の必殺技。


「ヘリムゾン……痛てっ」


 いきなり頭を叩かれた。幸いにしてダメージは無い。

 この威力は攻撃ではなく、ツッコミって奴だ。

 振り返ると俺の背後には仮面をつけた男が立っていた。まったく気配を感じなかったのに。


「馬鹿かお前は。そんな派手な魔術使ったら、わんさかと仲間が寄ってくるでしょうよ 。

 こういうのはね、静かに剣でぶったぎるんだよ!!」


 仮面の男は身をひるがえすと、一気に蟻に向う。一瞬の出来事。

 瞬く間に転がる、頭部と胸部を寸断された蟻の無残な死骸。計4つ。


「さあ、少年。1匹ぐらいは自分で相手をしたいだろう。

 残しておいてやった。ぞんぶんに切り捨てたまえ」


 と、仮面の男はすたすたと俺の元へと戻ってくる。残った1匹の蟻もその後をついて来るが一向に気にしている様子はない。

 仮面の男が俺の横を通り過ぎる。

 つまりは、その後を追っていたアィアンアントが、俺の目の前に迫る。


 渾身の一撃をお見舞いする。頭をかち割ろうと繰り出した上段斬り。

 だが……、やっぱり通用しない。

 蟻は俺をターゲットに据えて、攻撃してくる。


「あのですね、情けないんですけどまだ俺、剣気とか使えなくって……」


 ほんとに情けない。3匹ぐらいのアィアンアント相手だったら、攻撃を食らわない自信はあるが有効打を与えられる気がしない。


「馬鹿だねえ、少年。

 わざわざ硬いところを狙ってどうすんのよ?

 あるでしょう? どんな相手にも弱点ってものが?」


 さっきから考えてはいる。実践しようともやってみた。

 外殻と外殻のつなぎ目。つまりは関節部。

 そこは、確かにアィアンアントの弱点だろう。それくらいはわかってる。

 だが、狙ってそうそう命中するものでもない。

 素早く動く手足はもちろん、首の部分も。胸と腹を繋ぐ箇所も。


 本能的に自分の弱部を知っているのだろう。アィアンアントは、不用心に晒している外殻で覆われた部位とは裏腹に、関節のつなぎ目に対する防御意識が高いようだ。


 ピンポイントの精度が求められる事案だ。

 相手が少しでも動けば、関節部を狙った剣閃は、外殻部に吸い込まれる。避けられる。


「やってるんですけどね! どうにもこうにも……」


「まあ、おいそれと簡単にできても面白くもなんともないが……。

 あと一歩と言うところだねえ」


 残った蟻1匹に苦戦する俺を横目に、仮面の男は馬車に向う。

 アリシアや剣士、少女とその父親? に声を掛ける。

 ついでに倒れた剣士を介抱する。

 窮地は脱した。


 後は俺がこの一匹を仕留めたら終わり。

 だけどそれが難しい。


「お嬢ちゃん。結界はもういいよ。それよりアレ。

 なんとかしてやれない?

 少年に対しての補助魔術とか、素早さをほんの少し上げてやるだけでいいんだけど?」

「あ、それなら!」


 とアリシアがまた詠唱を始める。


「タィシー・ダ・ケトウィン・ドーザク。

 ルート! インパクトの瞬間だけだけど!

 30秒ぐらいしか持たないけど!」


「上等、上等」


 仮面の男が、アリシアにパチパチと手を叩いた。


 俺は一歩下がって素振りをしてみた。

 なるほど。俺の攻撃の意思を感知して風が後押しをしてくれる感じ。

 倍とは行かないが、いつもよりも格段に早く剣を振ることが出来た。


 たった30秒。それで十分じゅうぶん

 1撃目は相手の攻撃を防ぎ、2撃目で相手に隙を作らせる。

 とどめの3撃目。

 速度を上乗せされた俺の剣は見事にアィアンアントの首を薙いだ。


 と同時に沸き起こる衝動。俺の意思が、力が、気合が……正確に剣先にまで伝わる感触。

 あ……、もしかして……、これが剣気……なのか……?

 まともな魔物を斬ったのはこれが初めてだ。スライムだけは何十匹も斬ってきたけど。 スライム相手ではまったく身に付かなかったが……。


「お見事!」


 と仮面の男が今度は俺に向って手を打ち鳴らしながら歩いてくる。

 っていうかあれですよね。あなた。

 仮面かぶってますけど。

 いやどうなんだろう? 言わない方がいいのかな?


「いやあ、なかなか見れないからね。他人が剣気に目覚める瞬間っていうのは。

 いいものを見せて貰ったよ。

 初めまして。俺の名は……」


 白々しく語り出す仮面の男を押しのけて、長い髪をなびかせながら駆け寄ってくる少女。


「トオル!! トオルトオルトオルトオルトオルトオルトオルトオルトオルトオルトオルトオルトオルトオル!!」


 最後は跳躍しながら俺の胸へ飛び込んでくる。


 初めて触れ合うのに、伝わってくる懐かしい感触。

 この雰囲気……。間違いない。間違えるものか。

 少女の小さな手がギュッと俺の背中を握る。

 俺も少女を固く、強く抱きしめる。


 やっと出会うことが出来た。護ることが出来た。この異世界で。

 沢山の人に支えられて。

 また新たな……大きな一歩が踏み出された。

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