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わりとテソプレな異世界転生  作者: ぐらんこ。
四.冒険者の章~プロローグ~
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第一話 ステップ ~ 道拓きし者たち

「さあルート! お父さんの許しも出たことだしっ!!

 何時まで寝てるのよ! さっさと行くわよ! 冒険者ギルド!!」


 アリシアに朝っぱらから叩き起こされた。

 強行日程の長旅で到着した昨日の今日だというのに……。

 

 だけど……、アリシアの気持ちもわからないでもない。

 ゴーダの死を悲しんで沈んでいる俺の心を切り替えるために。

 あえて、誘いをかけてくれている……のだと思う。良い風に考えると。きっとそうに違いない。


 そうだ。くよくよしてても仕方ない。

 大いなる目的に向って、再出発のときだ。

 それが、ゴーダへの弔いにもなる。きっとゴーダはそうする俺を望んでくれている。


「いくわよ! さっさと登録して依頼を探しましょう!」


 というわけで……、即出発というわけにはいかない。

 準備が何もできていない。

 着替えと朝ごはん。歯磨き。洗顔。その他もろもろ。


 出発の準備。

 持ち物は、学園から貰った推薦状と、命の次に大事な剣。

 剣を身に付けながら昔を思い出す。


 俺と剣とを繋ぐ剣帯。これはシンチャが6歳の誕生日にくれたものだ。

 学園時代はあえて使わなかった。ずっと大切にそばに置いていたけれど。

 いつか、立派な冒険者になって、自分の剣を手に入れた時に使おうと決めていた。

 だけど、俺の剣はもう手に入った。

 一生……、目的を達成するまで使い続けようと心に決めた、ゴーダが俺に託してくれた剣だ。

 元々は英雄の剣だそうだけどそんなのは関係ない。


 この剣と帯があれば……たとえ遠く離れていても、もう二度と会えなくなっても、俺はゴーダとシンチャと繋がっていられる。




「お待たせ!」


「遅いわよ! もうお昼前じゃない!」


「いや、だって……準備がいろいろ……。

 先に昼ごはん食べてから出発する?」


「今日は罰としてお昼ご飯は抜き! とっととギルドに行って登録して、依頼のひとつも片付けるわよ!」


 アリシアは簡単に言うが、なかなか一日で――しかも昼から引き受けて――片づく依頼というのは少ない。

 実際のところは相当量の短時間でも終わらせられる簡単な依頼もあるのだが、そういったものは朝のうちに無くなってしまう。

 早いもの勝ちなのだ。底辺層の冒険者と言うのは溢れかえっているのだ。


 のんびりギルドに到着した俺は、閑散としたギルドの雰囲気にあっけにとられた。

 王都のギルドは一日中それなりに繁盛していた。

 人が多かった。活気があった。

 日中もバンバンと新規依頼が舞い込んできた。それを狙って冒険者は一日中ギルドでたむろしていた。

 ランクの高いベテランにもなると、気に入った実入りの良い依頼だけ受けていても充分な報酬が得られるのだ。


 だけど、さすがは辺境。冒険者の絶対数が少なくてライバルが居ない分だけ楽かと言えば決してそんなことはない。そもそもの問題として依頼が少ない。


「とりあえず、登録をさっさとすませなさいよ!

 推薦状があるからすぐでしょ?」


 俺はアリシアにかされてカウンターに向かう。

 こういう時には、美人な受け付け嬢さんが居て、魔力測定をやってすざまじい測定値を叩きだして、責任者が奥から出てきて、特別待遇とかなんとかってのが、わりとありがちなパターン。

 だけどそうはならなかった。


「ガルバンさん?」


 受付に座っていたのは綺麗なお姉さんではなくて、むしろ『むさくるしさ』しかないおじさん。

 顔見知り。子供の頃に世話になった恩人だ。ある意味では俺の剣術の師匠のひとりでもある。恩人。

 何度か稽古を付けて貰った。

 クラサスティス家で、長年護衛兵として雇われ、足の状態が悪くなって引退したのは知っていたが、再就職先はギルドの受付? いつから? まったく知らなかった。


「おう坊主! 久しぶりだな!

 噂では聞いていたよ。

 いつ帰ってきた?」


「えっと、昨日です」


「そうか……、ゴーダさんのことは残念だったな」


「あ、はい……」


「俺も葬儀には参列させて貰った。良い人だった。

 お前が一人前になることを誰よりも強く願っていたはずだ。

 ってわけで頭切り換えて頑張るために来たんだろ?」


「ええ、そのつもりです。

 あの、これ、養成学園の推薦状です」


 ガルバンさんは、封を開けて中身を見た。


「ほう!」


 と一声漏らす。


「この成績だと本来ならば、ルーキーであるFランクをすっとばしでEから出発ってとこなんだがな。

 あいにくと、うちみたいな小さいところだとお前レベルの新規登録者の実力を測る設備も無ければ人材も居ねえんだ。

 アリシア御嬢さんと一緒のFランクでの登録になるが構わないよな?」


「はい」


 むしろ望むところ。ひとつずつ地道に上がっていくのが楽しい。もちろんランク上げは手段の一つであって目的ではないけれど。


「まあ、こつこつと依頼をこなせばEにはすぐに上がれる。

 問題はその後だ。ここらじゃあ、Dランクの依頼は滅多に出ねえ。

 それだけの人材が常駐してるわけじゃあないからな。

 わざわざ人の多い街のギルドから冒険者を引っ張ってくるってのが慣習化しちまってる。

 だが、先の事はまた先で考えたらいい」


「はい」


 ガルバンさんは足を引きずりながらカウンターの中を左右する。

 あっちの書類こっちの書類と手際よく仕分けて、


「ほらよ、これが、ギルドカードだ。

 マーソンフィールの中なら全国共通。

 再発行が面倒だから無くすなよ?」


「もちろん」


 念願の冒険者。

 グヌーヴァのギルドにはそもそも人が少ないし、地元の有力者の娘――アリシア――と一緒だから、とりあえずルーキーをおちょくるために絡んでくるような馬鹿な冒険者は居ない。

 なので、淡々と手続きが終わった。


 アリシアが眺めている依頼掲示板へと向かう。


ろくな物がないわねえ」


 とアリシアは早速ため息を漏らしている。


「そりゃ、単価が高かったり、こなすと高めの評価が得られてランク上げに繋がるようなのは、朝一で出ちまってるよ」


 とカウンター越しにガルバンさんが声を掛けてくれる。わかっていたけど世知辛い事実だ。


「なんか掘り出し物ないですか?」


 とアリシアが尋ねる。アリシアもガルバンさんとは面識がある。

 コネを活かそうという作戦。


 だが、ガルバンさんはつれない。


「そこにあるのが全部だよ。

 もっともあったとしてもルーキーであるお前達には紹介できねえさ。

 依頼人の手前もあるしな」


「そうですよねえ……」


 とアリシアがまた大きなため息をつく。

 面白味が無く、面倒な、安い報酬の依頼ばかりが残っている。

 希望に燃える俺達にふさわしいものは無いという残念感。


 だが、俺はひとつの依頼に注目する。

 びっくりするぐらい報酬が安い。だれも引き受けないのも納得の冒険価格。

 ダメ元で依頼しているんだろう。ついでにこなしてもらえば幸い程度の軽い気持ちで。


 だが、俺の心は決まった。


「ガルバンさん、これを」


 と俺は依頼表をカウンターに持っていく。


「えっ? あった? そこそこイけてそうな依頼?」


 とアリシアに尋ねられるが俺はきっぱりと首を振る。


「安いし、単純な作業だけど……、依頼主には恩があるんだ。

 だから、始めの依頼はこれにしようと思う」


 ガルバンさんが依頼表に目を落とす。


「ああ、肉屋のガルバーグさんか。

 そういや嘆いてたよ。

 客からは香草置いてくれって声がたびたび上がるのに、香草採りなんて手間だけかかって売り上げには繋がらない。

 単価が安すぎて依頼を出しても誰も引き受けてくれないってな」


 俺はアリシアに確認した。どうせ了承してくれるだろうけど念のため。


「こういうのってお金の問題じゃないだろ?」


「しょうがないわねえ。別に赤字になるってことも無いでしょうし。

 ここでうだうだしてても、新しい依頼は舞い込んでこなさそうだしね。

 ルートの恩返しなら、やらない理由は無いわね」


 アリシアもわかってくれた。当然と言えば当然。

 そもそも俺がアリシアやマリシアと出会ったのは商店街の外れにある露店で店主をやっていた時。

 その露店を出すきっかけを作ってくれたのがガルバーグさんだ。そのことはアリシアにも伝えてある。

 俺にとっても、アリシアにとっても、ガルバーグさんは貴重な出会いをもたらしてくれた恩人だ。

 ガルバーグさんのお蔭でムルさんとも出会い、アリシアの学園入学のきっかけになった。

 アリシアは結局学園を辞めることになったけど、後悔はしていない。あの一連の出来事はアリシアの人生に置いて重要なことだったといつかの手紙で書いていた。

 ガルバーグさんは地味ながら俺達の人生を変えてくれた一人と言ってもいい。


 俺達二人は手続きを済ませて、ギルドを出た。

 アリシアがあらたまった口調で言う。


「じゃあ、ルート。

 わたしたちの新たな門出ね。簡単な依頼だけどしっかりやりましょう。

 冒険者としての第一歩よね?」


「ああ、そうだな」


「あのね……ルート……。

 ずっと前から、二人で決めてたじゃない? 冒険者になるって。

 学園に入るときも一緒に出発したわよね。ポーラも居たけど。

 あの時を思い出すわ。

 結局、途中でわたしは学園を辞めることになっちゃったけど……。

 あの時はちゃんと言えなかったけど……、だからこそ、今言っておきたいの」


 俺は黙ってアリシアの話の続きを聞いた。


「お父さんが言ってたわ。

 ゴーダおじいさまから聞いた話。ルートのこと。

 ルートには……、自分達も知らないような大きな目標があるようだって。

 そして、それを成し遂げるだけの力を付けていくだろう。どんどん成長していくだろうって。そういう星の元に生まれた人間なんだろうって。

 だから……、わたしなんかじゃあルートのこれからの人生についていけない。

 せいぜい、冒険者として出発の時期を……今からのほんのわずかな時間を一緒に過ごすのが精いっぱいだって。

 だから、お父さんもわたしがルートと一緒に冒険に出るのを許してくれたんだと思う。

 いずれは離れなくちゃいけない運命なんだって思ってるから。

 だけどね、わたしは諦めないからっ!

 頑張って、努力して、ルートの力になれるだけの力を持ち続けて、伸ばし続けてて。

 どこまでも付いていくつもりだから。

 どこまでも、どんなところにだって……」


「アリシア……。俺……」


 俺は、アリシアに伝えなければならないことがある。ずっと言えなかったこと。

 芙亜の事だ。未だこの世界では出会っていないが……、俺が心に決めている女性。ずっと前から。それこそこの世界で生まれる前から。

 すべてを話すことはもちろんできない。でも……、アリシアを傷つけないためにもいつかは言わなければならないこと。


 アリシアの気持ち……。うぬぼれではないだろう。俺への想い。

 今までぼんやりと誤魔化してきたけど。

 それは、仲間としてではなく……、ひとりの女性として、俺を一人の男として伝えてくれているんだろう。いくら鈍感で、女心のわからない俺だって、今のアリシアの表情や口調を聞いていればわかる。


 だからこそ……。


 アリシアに機先を制された。


「いいのよ。ルートの気持ちがどうだって。

 単にわたしが決めたことなんだから。

 ルートがね、あの変な拳士の女の子の事が好きになっちゃってても……」


「ちょ、それは違う!」


 これは全否定だ。その誤解はいろいろまずいし不本意すぎる。


「隠さないでいいのよ」


「だから違うって!」


「えっ? まさかエルーラとかじゃないでしょうね?

 それともあの影の薄い女の子。あれって魔術戦で戦った子の彼女じゃないの?

 奪っちゃったの? それとも片思い?」


「そうじゃなくって!」


「マリシア? あの破廉恥な冒険者のベルさん?

 まさか……ポーラじゃあ……。

 え、ひょっとしてルートって年上が好みなの!?」


 アリシアは何気に恋敵の多い自分を再確認するかのように続々と名前を出していく。

 このままじゃあ、きりがない。そのうち、サーシャ食堂のおばさんとか、露店で未だに編み物屋をやっていそうなおばあさんとかの話になりかねない。


「違うって。俺が……、俺がほんとに好きなのは……」


 俺はアリシアの瞳を見つめた。

 どくん。

 心臓が波打つ。アリシアも可愛い。それに俺のことを想ってくれる。

 そして健気だ。俺の気持ちはどうであれという強い心の持ち主。

 小さい頃をずっと一緒に過ごした。

 アリシアにじっと見つめられていると気持ちが揺らぎそうになる。。


 俺が好きなのはアリシアだと言ってしまいそうになる。嘘じゃない。

 今現在で言えば、芙亜への想いとアリシアへの想いは同程度だ。

 同程度、わずかに芙亜のほうが上だけど……そこに絶対に超えられない壁は無い。

 だけど…………。




「おう、坊主たち。いちゃいちゃするのはいいが、中まで丸聞こえだぞ?

 さっさと依頼に行きやがれ。馬鹿野郎。日が暮れちまう」


 ガルバンさんが、ギルドのドアを少し開けて、俺達の会話をぶったぎってくれた。


「いや、いちゃいちゃしていたわけじゃあ……」


 弁解するが、聞き入れてもらえない。


「色恋沙汰もな、人生には必要だ。

 だけど、冒険者であるからにはオンとオフの切り換えは、しっかりとな。

 今は与えられた依頼をこなす。そこをきっちりとわきまえろ。

 人生は長いんだ。焦って答えを出す必要もねえんだぜ?」


 ガルバンさんに冒険者としての心構えと、人生について――特に恋愛?――の教えをいただきました。

 俺達は、ガルバンさんにケツを叩かれて、依頼に出発した。


 そうだな。芙亜のことも、アリシアの事も、焦る必要はないんだ。

 じっくり……、考えよう。


 一歩一歩を確実に。今過ごすこの時を、大切に踏みしめながら。


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