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わりとテソプレな異世界転生  作者: ぐらんこ。
三.わりとテンプレな学園編
33/83

第四話 魔術試験

 剣術の後は魔術試験。

 こちらは剣術試験での模擬戦とは打って変わって平和裏に行われる。

 二種目ある。

 得意の魔術を披露する部門。それから、魔力測定。地味だ。


 アリシアも含めた魔術科志望組は、剣術の試験が無かったから先に受けているはずだ。

 もう終わったのだろうか? 校門ぐらいで待っててくれているのかも知れない。

 俺は魔術披露を待つ受験者たちの適当な列を選んでそこに並んだ。

 誰が魔術科で誰が剣術科で誰が総合科なのかは傍から見ていてもわからない。

 元々知り合いは皆無だが、筆記試験で声を掛けられたシノブとかいう少女も、模擬戦で手合せしたロイエルトの姿も見あたらない。アリシアの姿ももちろん見えない。


 退屈な行列待機で生あくびをかみ殺しながら待つこと数十分。

 ようやく俺の番が回ってきた。


 試験官はたった二人。どちらも若い。髪が長くて自分に酔ってそうな魔術師風の中年男性と元気で明るい若手の冒険者という感じの人。


「はい、試験表出して」


 冒険者風の試験官に軽い感じで言われた。もちろん言われるままに従う。


「得意属性は?」

 

「えー、全属性万遍なく……」


 答えてからしまったと思った。何か一つ得意だということにしておけば、それを試験で使って後は苦手だというふりをすることが出来た。

 目立たない学園ライフのスタートを切れたかもな。目立つのは冒険スキルを手に入れてからじゃないと、万一元王子だということがばれたら追っ手とかから逃げきれない。


 そんな俺の事情などつゆ知らずな若い試験官は、


「じゃあ、風いってみようか。中級でも大丈夫?

 わかるよね、そこの魔法陣」


 と話を進める。この人たちは何十人も相手にしているのだから流れ作業でも止む無しだけど。


「あ、はい……」


 俺は部屋の真ん中にある魔法陣に入った。いつも練習で使っているのと同じだ。

 いつもより若干魔力の抑制が少ない気もするが……。

 中級の風属性ね。適度に加減して、無難に使えるところを披露しようじゃないか。


 試験官は号令のひとつもかけてこない。勝手にやってくれって感じだろうか。


 俺は静かに詠唱を……、詠唱を始めようとして頭が真っ白になった。

 そういえばここ最近中級の魔術なんて練習していなかった。

 中級だと威力がありすぎて、練習用の魔法陣を作るのが大げさで面倒になっちゃうこと。

 それをするとアリシアの練習にも支障を来たしてしまうこと。

 初級魔術と魔法を練習していれば中級の魔術もそれに付随して威力を増すこと。

 等々の事情から、2年近くはほとんど唱えていない。

 

 度忘れしてしまった。出だしは覚えている。

『トュービ・ダーカル……』

 そういえば、初めて使った中級魔術もこれだったな……。初級を習うつもりがポーラさんが間違えたんだ。ほほえましい思い出は呼び覚まされても肝心の呪文が出てこない。


 仕方ない。次善の策として、中級に見せかけた初級を披露することにする。

 詠唱はもにょもにょと。試験官には聞き取れないように。

 中級魔術の呪文の方が初級よりも長いから、前後に適当な文言を付け足しとけばばれないだろう。


 俺はもにょもにょ唱えながら、魔力を感じるべく精神を集中させた。

 大体にして、風系統は初級と中級で原理が違うから合わせこむのが面倒だ。

 火属性なんかだと威力が上がるだけだから初級を中級に見せかけるのは簡単なのだけど、風属性はそうじゃない。

 初級は小さなかまいたち。いわゆる真空波。中級になると複数の真空波。

 この微妙なさじ加減を実現するには相当の集中力が居る。しかもぶっつけ本番。

 

「…………」


 試験官に聞こえないように適当に詠唱しながら、一つできたかまいたちを分裂させる。ここで手間取っては、不審に思われる。あまり時間をかけるのもマイナス評価に繋がるだろう。


 えっと、初級の詠唱すら忘れてしまいそうだ。勢いで唱えて、魔術を発動させる。

 見かけは中級、その実初級。これでも威力は加減したが、アリシアの中級魔術ははるかに凌駕。たまに見せてくれるポーラさんのお手本よりも若干劣るぐらいに調整した。


「ふむ……」


 魔術師風の試験官が呟いた。リアクションなかったらどうしようかと思ったが、クラスを誤魔化したのもばれてなさそうだし、好印象を与えることに成功したようだ。


「威力の加減は得意かな?」


「えっ、まあ……」


「では、中級の水属性魔術を最小出力でやるがよい」


 やるがよいとかぞんざいに言われても……、こっちは受験者だ。仰せのままに従うしかない。

 最小出力でということなので、初級であることがばれたら今度は完全なる不正行為だ。

 俺は、頭の中の引き出しを叩き壊して中級の呪文を引っ張り出した。


「モークル……・チャヌ……・アイデュル……・ナヌラ」


 特に指示されていなかったので、氷結系ではなくそのまま水を操る魔術にした。

 攻撃用に使うなら、圧縮した水弾を高速で飛ばすのだが、大きさを見せることが主目的なので、ビー玉ぐらいに圧縮した水弾を少しの間浮かべてみた。

 しばらく使ってなかった魔術だけど意外と上手くいくものだ。


 リアクションは薄い。薄いが、なんとなく納得したような魔術師さんの試験官の表情を見て一応はこれも手ごたえを感じる。


「では、よろしいですか?」


 感想も評価も何も残さず淡々と進めようとする冒険者風の試験官。

 魔術師さんも小さく「うむ」と頷いただけで、連絡事項へと流れる。

 連絡係は冒険者さん。


「では、試験表を持って魔力の測定に行ってください。

 本日の試験はそれで終了です。そこで指示されると思いますが、その後は自由解散ですから」


 と俺は送り出された。流れ作業のベルトコンベアに乗った気分。

 まあ、受験者の数も多いから、ひとりひとりに時間はさけないんだろうな。

 

 魔力測定を待つ受験者の列も沢山出来ていた。列の長さはどれも同じくらい。

 これがスーパーとかのレジ待ち行列なら、店員のスキルとか客の籠に入った商品の量でどこが手っ取り早く進んでいくか判断できるのだけれど。

 魔力測定も個室の密室空間で行われるらしく中の様子は見えないし、魔力量や才能の有無によって測定に時間がかかるのかどうかもよくわからない。

 そんなことを考えている間に適当な列に並んだほうが結果として早く終わるような気がする。


 早く終わるのが目的ではないのだが、剣術の模擬戦や魔術の披露とちがって魔力測定は、能動的ではなく受動態。

 本質的に受け身の試験。今から気合を入れたところで結果が変わるわけでもない。

 なんとなく他より短そうな列の末尾に加わった。


 並んでからごく自然に、怪しくない程度にきょろきょろと辺りを見回す。

 知った顔は見当たらない。もしかしたら、筆記試験とかで見た顔も混じっているかも知れないが、あんまり人の顔を覚えるのは得意じゃないからね。


 徐々に列は進んでいく。一人頭3分ってとこか。わりとすぐに終わるようだ。この分なら小一時間ぐらいで順番が回ってくる。

 

 アリシアは無事に魔術を使えたんだろうか? 今のアリシアの魔力量なら中級魔術でも複数回使用できるはずだ。あとは変な緊張さえしていなければそれなりの結果を残しているはずだ。

 あれだけ頑張ってきたところを見てきているから、やっぱり一緒に合格したい。


 とかなんとか考えていると俺の番が来た。

 嫌な予感。というのも俺の前に測定を受けた奴。頬を赤らめて、股間を押さえながら出てきた。ぼおっと考え事をしていてその前の奴の様子とかは見てなかったけど。


「次の人~」


 部屋の中から声がかかる。

 予感が確信に変わる。この声……エロ姉さんだ。

 なんという確率を引いてしまったのか……。

 並びなおそうか? 一瞬本気でそう思った。

 しかし背後からかかる無言の圧力に屈して俺は一か八かドアをくぐった。


「あら? ルートちゃんじゃない!

 いらっしゃい。こういうとこ初めて?」


 いやいや、なんか変なお店の雰囲気でてますけど?


「とりあえず、上着は脱いでね。上半身は全部」


 とベルさんの魔手が伸びてくる。振り払おうにも向こうは試験官だ。

 人員不足なのか、旧来からの悪癖なのか、部屋の中には俺とベルさんの二人っきり。

 受験者2人の剣術模擬戦では試験官は5人だったしさっきの魔術披露は試験官が二人。

 ただの測定なんだから、試験官がたったひとりというのは論理的には正しくても倫理的には問題がありそうだ。


 だって、この人部屋に入るなり脱げってせっつくんですけど?


「それってほんとに必要な手順なんですよね?

 ベルさんの趣味じゃないですよね?」


 と俺は念のために確認する。冗談であって欲しかった。

 しかしベルさんは首を振る。


「ごめんね、あたしだって本当はそんなことしたくないんだけど、決められた手順だからね」


 俺に気を使った残念そうな口調だが俺は見逃さない。ベルさんの口元がわずかに緩んでいるところを。ぶつぶつと「役得、役得~」と呟いたことを。

 ともあれ、見られて減るもんじゃないし、上半身ぐらいなら見せ慣れている。男の子だし。

 俺はそそくさと上着を脱いだ。


 じゅるりとベルさんが涎をすすり上げる音が聞こえてきそうだ。この人絶対に趣味と実益を兼ねている。

 気は抜けない。密室であることをこれほどまで恐怖したことは無い。

 俺の前の受験者なんかはトラウマになってしまっているかもしれない。

 もしくは色ボケへの覇道を歩むように、人生の分岐器がスイッチングしてしまったのかもしれない。


 まあ大げさに構えることはないか。さすがのベルさんも試験官という立場で無茶をするわけないだろうし。こっちはまだまだあどけない少年なんだし。

 あれから6年ぐらい経っているからベルさんのストライクゾーンには入っちゃってるかもしれないけど。


「わたしも脱いだほうがいい?」


 とわけのわからないことをのたまうベルさんを、


「冗談はやめてさっさと進めてください。後もつかえてるんでしょ?」


 とつれなくあしらう。


「じゃあ目を閉じて」


 俺はベルさんに従う。こんななんでもないようなことで『虎穴に入らずんば虎子を得ず』のような名言が頭に浮かぶ。逆境こそがチャンスとも言う。

 まあ、さすがに部屋の外にも隣の部屋にも大勢の人がいるしそこまで危険な香りはしないのだが。


 息遣いでわかる。ベルさんは「はあはあ」言いそうなのを必死で堪えている。

 皮膚感覚でわかる。ベルさんの手が俺の胸へと伸びてくる。

 俺は体を硬直させた。


 俺の胸にベルさんの手が触れる。暖かい。女性って冷え性だとばっかり思ってたけど。

 冷たい手だったら「うひゃあ」とか驚いて言ってしまいそうだったけど。意に反してそれは暖かな手だった。

 昔と違って、胸に顔をうずめられたり、尻を触られたりはしなかった。


 時間にして5秒程度。


「はい、終了。お疲れ様~。

 では、各自解散。事前に申告のあった住所へ合否の発表は郵送されます。

 合格の場合は、郵送された書類に従って期限までに手続きすること」


「おわり……ですか?」


「そうよ、何を期待してたの?

 あらやだ。ルートちゃん。もしかして……なにか変なこと期待してたんじゃない?」


 ベルさんがいやらしい目つきで俺を見る。期待はしていないがピュアなハートをもてあそばれてたみたいな。


「いや、そんなわけないじゃないですか!」


 俺は一応抗弁してから慌てて服を着た。


「じゃあね。ああ、約束通り夕飯はごちそうになりに行くから。

 お嬢ちゃんにも言っといてね」


「あ、はい……」


 俺は、そのまま退出した。


「次の人どうぞ~」


 気楽なベルさんの呼び声がかかる。


 どうだろう。俺の表情は他の奴らからどう映っているのか。何事も無かったように映ってるかな。

 それともわずかに頬を染めていると見られてしまうのだろうか?

 

 てなことで、これにて試験は終了。割と無難に終了しました。

 受付場所だった校門付近に行くと、アリシアが待っててくれた。


 俺達は二人で並んで歩き出した。お互いの試験の内容や手応えなんかを話しながら。


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