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わりとテソプレな異世界転生  作者: ぐらんこ。
三.わりとテンプレな学園編
30/83

第一話 試験会場


「だから言ったじゃないの! もうちょっと余裕を持って到着しておこうって!」


 アリシアは文句を垂れながらも王都を駆ける。俺もその後を追う。

 ポーラさんは『ぜいぜい、はあはあ』言いながら、なんとかついてくる。


 が、


「はあ、はあ、アリシアさん。もうだめです。

 わたしにかまわず先に行ってください。あえていうなら、ここはわたしに任せてください。

 ええ、死してしかばね拾うもの無しです。

 いいんです……。

 わりかし方向音痴なわたしはこんなところで一人で放り出されたら、道に迷い彷徨さまよい、そしてち果てることでしょう。

 ですが、背中にお腹は変えられません。

 どうか、お二人で栄光の道(グローリーロード)をお行きください。

 そして、どうか結婚式での赤い絨毯(バージンロード)を二人で手を繋いで歩む時には、わたしのようなものが居たことを思い出してください。

 式には参列できなくてもお二人の結婚を祝うその心は誰にも負けませんから……。草葉の陰からお見守り続けますよ……。よよよ……」


 とうとうポーラさんは走るのをやめてその場にへたり込んでしまった。


 一体全体どういう状況だ? というのを簡潔に纏めると、いわゆるひとつの自業自得。導き出されるテンプレ展開。


 観光やらなんやらに夢中になりすぎた俺たちが、入学試験の行われる王都へ辿り着いたのはまさにその試験日当日。

 受付は正午までだというから、歩いていては間に合わない。

 だから、当然の帰結として会場までの全力疾走を試みているのだった。荷物やなんかも必要最小限だけ持ってきて、それ以外は馬車の乗降場に預けてきた。忘れ物をしてしまうフラグもびんびんだが、いた仕方ない。


 だけど、お荷物はそれだけではなかった。

 運動不足、体力不足のポーラさんという大きな荷物があった。


「いや、その手があったな」


 と俺はアリシアにアイコンタクト。

 以心伝心、アリシアも俺の意を理解する。


「そうね。ポーラは別に一緒に行く必要ないもんね」


「ええっ! まさか。アリシアさぁん。

 わたしを置いていくつもりですかぁ!

 ああ、ひとり残されたわたしは野犬か山賊に襲われて……。

 長い間お世話になりました。

 どうやらここでお別れのようです。

 って、マジで!」


 びっくり仰天が高じてノリツッコミまで繰り出すポーラさんだった。さっきの台詞はなんだったのか? 単に自分に酔ってただけ?


「死にはしないし、こんなところで襲われたりもしないわよ。

 試験会場には一人でゆっくり来て頂戴。

 わたしたちは先に行くわ! じゃあ!」


 と言って走りだすアリシア。

 俺もすぐに後を追おうとする。追おうとするのだが、ポーラさんにまとわりつかれた。


「わたしには責任があるんです! お二人を無事に会場まで送り届けるという使命が!」


 いやそれが出来てなかったからこういう事態になったんじゃあ……。


「あ、あと会場には古い知り合いとかも多そうで、わたしはできれば中に入りたくはないんですよ。まあ関係者以外は中には入れないでしょうけど。

 ですので、案内は入り口までです」


「すみません!」


 俺はどうでもいいことをのたまうポーラさんを振りほどいてアリシアの後を追った。


「じゃあ、先に屋敷に行って待っててくださいよ!

 試験が終わったら俺達も行くんだから!」


 アリシアの実家であるクラサスティス家には王都に別宅がある。

 それも1軒だけではない。用途や滞在期間に合わせて何軒か。

 そのうちの1邸が俺達のこの街での滞在場所になる予定だ。


「じゃあまた後で!」


 俺は振り返らずに走った。背後から「ご無体な~」という叫びが聞こえてくるが無視した。


 アリシアの背中が近くなる。身体能力は俺の方が断然上。アリシアも運動音痴というわけではないが、魔術に夢中でそこまで体は鍛えていない。

 追いつけると思った矢先、アリシアが曲がり角を曲がりかけたその時。


「きゃあ!」


「ぐげ!」


 アリシアが誰かとぶつかった。女の人のようだ。


「ちょっとぉ! どこ見て走ってんのよ!

 って、それはこっちも一緒か……。

 ごめんなさいね」


 先に立ち上がった女性がアリシアに手を差し伸べる。

 ぶつかってこけたところはどんくさいが、身のこなしは軽い。


「いえ、こちらこそ……。

 急いでたものですみませんでした」


 とアリシアが立ち上がって詫びる。


「あ!」


 俺は思わず声を上げた。

 相手も俺の顔を見て相好を崩す。


「もしかして! ルートちゃん!」


 いや、『ちゃん』付けで呼ばれたことは確か無かったはずだったが。俺を見るなり体をくねらせ始めたその女性は、こうしてお目にかかるのは数年ぶり。

 

 年を経て、老けるどころか色気を増した妖艶なる冒険者のベルさんだった。


「あたしのこと覚えててくれたんだ!

 嬉しいわ!

 それより……立派になったわねえ。想像どおり……いえ、想像をはるかに上回る成長っぷりだわ!

 さすが、あたしが見込んだだけのことはある」


 といってベルさんは俺の尻を触ろうとしてきたのでひょいっと躱した。


「やめてくださいよ! こんなところで」


「う~ん。その身のこなし。

 そっちのほうも成長してるわねえ。

 ルートちゃんならいい冒険者になれるわよ。

 って、もしかして王立マーフィル冒険者養成学園の入学試験?

 もうそんな歳になったの?」


 ベルさんの問いに、アリシアが本題を思い出す。


「そうよ! ルート! こんなところで油を売っている場合じゃないわ!

 早くいかないと受付が締め切られちゃう!!」


「そういうことなんで、ベルさん!

 また今度、ゆっくりと!」


 と俺達はまた駆け出そうとする。


「ぶつかってしまってすみませんでした。

 正式なお詫びは、後程改めて致しますので!」


 とアリシアもベルさんに再度頭を下げる。


 だが、その直後。


「あっ! だったらこっちが近道よ!」


 とベルさんが、俺達を呼び止めた。


「ついてらっしゃい!

 入学試験の受付場所まで案内するから!」


 ベルさんは、俺たちに手招きすると地元の人間でないとわからないような狭い路地に入って行った。


 アリシアが遅れないように、ベルさんと俺はペースを落として走る。

 その分、走りながらでも会話ができた。


「すみません、わざわざ案内までしてもらって」


「いいのよ! 他ならぬルートちゃんのためじゃない!」


「その『ちゃん』っていうのやめてもらえません?」


「だーめ。もっと立派な男になるまでルートちゃんはあたしの中ではルートちゃんなの!

 それに、どっちみちあたしも養成学園に向ってるところだったから」


「そうなんですか?」


「いわゆる試験官ってやつでね。面倒だから嫌だったのに。冒険者ってそういうの嫌いな人多いじゃない?

 持ち回りで強制的に何年かに一度はやらされるのよ。

 拒否してもいいんだけど、いろいろとね。圧力とかね。斡旋とかね。

 大人の事情よ。

 で、ルートちゃんはやっぱり魔術科志望?

 あっちのお嬢ちゃんも?」


「アリシアは魔術科ですけど、俺は総合科にしようと思ってます」


「あ~、らしいわねえ。

 だけど、ほら? 覚えてる? 推薦状」


「あ、はい。一応持ってきてはいますけど、使わずに済むかなって」


「そうなの? ならいいけど?

 お金のほうは大丈夫なの?」


「アリシアは、あのクラサスティス家のお嬢様なんですよ。

 俺も生活とか学費とか面倒見て貰えることになりまして」


「えっ! 超つくほどの良家じゃないの! 掛け値なしのお嬢様じゃない!

 だめよ! 逆玉は!

 世間が許してもあたしが許さないから!

 腑抜けになっちゃうわよ!

 そういう甘い考えが冒険者としての成長を阻害するのよ!

 断固反対します!」


「いえ、学費は後々働いて返そうと思ってますし、別に婿入りしようとも思ってないですから!

 それに、そんなつもりはないですけど、ベルさんの許可って要りますか?」


「そんな! 誰のおかげで学園に入れるんだと思ってるのよ!」


「いや、だからそれはクラサスティス伯爵の……。

 まあ、もちろんベルさんにも感謝してますけど、あ、そうだ。

 ムルさんは元気にしてます?」


「知らない!」


「知らないって?」


「どっかで野垂れ死んでんじゃないの。しばらく会ってないわ」


 そうなんだ……。だけどあのムルさんのことだ。名前を変えながらお気楽に冒険者をやっているに違いない。


「ほら、そこ曲がったらすぐよ」


 ベルさんの言うとおり、曲がり角を曲がると少し大きな道に出た。

 さらにその先には大通り。大通りに面した大きな建物。


『王立マーフィル冒険者養成学園』


 敷地を取り囲むように高い塀が張り巡らされている。

 ここからでは後ろのほうは、見えないが想像以上に奥行きもありそうだ。


 そんな王立マーフィル冒険者養成学園の入り口付近は、数多くの冒険者を志す若者たちでごった返しているかと思えば、意外に閑散としていた。


 俺は足を止めた。アリシアが少し遅れていたから待ってやるという理由もあったが、それ以上に言い知れぬ不安にさいなまれてだ。


 太陽を見上げる。東寄りに少し傾いているともいえるし、直上で輝いているともいえる。

 今は季節は春に近づきつつある冬。冬の太陽ってどっちよりだっけ?


 まさか……、受付終わってないよね?


「大丈夫!!

 受付時間の5分や10分ぐらい、このあたしが罷り通してあげるわよ!」


 このエロいお姉さんがこんなに頼もしく思えたのは初めてだ。


 とはいえ、エロいお姉さんだけにどんな見返りを求められるかわかったもんじゃない。


「まだ大丈夫よ! 行こう!」


 追いついてきたアリシアがそのまま休まずに走り続ける。


「お、おう!」


 俺も慌ててあとを追う。


「ちょ、万一間に合わなかったときに、あたしのコネでねじ込む際における条件面の折り合いがまだ……」


 というベルさんの叫びを背後に聞き流しながら、俺たちは冒険者養成学園の門をくぐった。


 心の中では必死で祈っている。どうか間に合っててくれよ。

 もしくは、話のわかる受付係を配置しておいてください。

 エロくない人を所望します。

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