第四話 閃く積層刀
さて、時はタクミとオビツの格闘から約三十分前にさかのぼる。ちょうどオビツがとんかつドン太に帰る途中だ。
「いやー、ここに来るのは久しぶりでござるー!」
タクシーから降り、そんなこの時代あり得ない口調で感嘆を漏らしたのは、15才の棒人間、ユウトである。約一ヶ月前、この少年は、自分の持つ剣の鍛え直しを行うため、友人達に「少し帰りが遅くなる」と残し、そのまま音信不通だった。そして今、彼は鍛え終えた自分の剣を持ち、この街に戻って来たのだ。
「あっ、ユウトじゃん!帰ったの?」
少し離れた場所から、長い前髪で右目が隠れた棒人間が走り寄って来る。カオルだ。
「おお、カオル殿!!久しくござるなあ」
「そうだねえ…にしても、相変わらず長い髪だねえ?」
そう、ユウトの最大の特徴、それが、彼の非常に長い髪の毛である。
「ほったらかしでは邪魔なので、上の方で結わいてやったでござる」
「そうそう、剣の方はどう?」
「それならここにござる」そう言うと、ユウトは担いでいた剣をカオルの前に差し出した。
「?!」
「『積層刀』にござる」
その剣を見れば、誰もが驚愕するだろう。刀身になっているはずの所が、10㎝四方のコバルト色の金属板が不規則に貼り合わされた形状になっているのだ。
「本当にこれで戦えるの?」
「十分可能でござる。この下に隠された刀身は、拙者が真に生命の危険に晒された時にその姿を表すのでござる」
「つまりまだ表れないと?」
「…使う機会が来ないことを祈るばかりでござる」
「…」
すると、
「通り魔よー!!」
という悲鳴と断末魔、そして、何かを振り回す、ヴン、ヴンという音が聞こえて来た。そしてその方向から、ビームブレードを展開したアームキャノンを使い、人々を凪ぎ払う男が走って来た。男は狙いをカオルに定め、そして今まさに、カオルの身体を切り裂こうとした時―
ギュンッ
―一閃。
男は凄まじい勢いで地面にめり込んだ。
「危ない所だったでござる」
ユウトが積層刀を振るったのだ。その一撃は重く、強く、骨まで砕く。そう、積層刀は斬るのではない。叩き潰すのだ。
「あ…ありがとう…ユウト」
「礼には及ばないでござる」
「それでさユウト…」
「何でござるか?」
カオルは地面にめり込んだ物体を指し、
「これ…どうしよう?」
「あ…」
こういったハプニングも、とんかつドン太の借金返済が長引いた理由の一つである。
続く