Prologue
「やめろぉぉぉ!」
銀の軌跡が幼い少年に振り下ろされる刹那、脇から飛び出した剣がその刃を受け止め甲高い悲鳴のような切磋音と青白い火花が散った。
居間と思しき部屋。
幼子が見れば魔物の巣窟と錯覚するかも知れない。
灯篭で茜色に染まりたった一部屋に幾人もの人影が壁に躍り、化物の群れの如く映っていた。
小さな窓から高い所で無責任に彼らを覗く蒼く輝く満月のように、少年は澄んだ蒼い瞳を驚愕に見開き丸くして頭上で重なり合い拮抗している鋼鉄の刃を凝視していた。恐怖で身が竦み声すら出ない。
「フンッ、子の命が惜しいか、なら初めから出せばいいものを! さあどこだ、どこに隠している!」
「貴様なんぞに・・・・・・渡せるものか!」
「ぬ!」
襲撃者の剣は弾かれた。
少年の父は細身であるものの思いがけない剛力を発揮し、鬼のように大柄な体格をした男の剣を返したのだ。
だが――
「あ、あなた・・・・・・!」
鎮痛な叫び。
悲鳴は届けど母親は背中から別の輩に斬られ崩れるように倒れた。それでも腕には幼い少女を庇うようにしっかりと抱いていた。
「おかあさん!?」
「!」
少女は自分に覆い被さる母を呼ぶが応えない。
それに気を取られる父。
すかさず目の前の男が斬撃を繰り出したのが見えていなかった。
「ぐ、ぐわぁぁ!」
父の手から剣が零れ落ちた。
無残にも肩から袈裟切りされ、鮮血と共に倒れ伏す。
少年の雪のように白い肌に生温かい血がはねたが、それでも動けなかった。夢でも見ているかのように呆然と倒れた父を見ていた。
「あった、ありましたぜ!」
「早くよこせ!」
それはたった一振りの剣。
鋼鉄製の無骨な造りで、刃には印が彫られている。しかしその巨大さが異常だった。少年の背丈二つぶんはありそうだった。
剣は部屋の片隅に置かれた神像の裏に隠されていたもので、それを手にすると男は舐めるように品定め、恍惚に顔を歪めた。
「ククク・・・・・・よし、ずらかるぞ」
「このガキどもはどうします?」
手下に促され男はちらりと茫然と立ち尽くす少年と、勇敢にも睨みつけてくる少女の双子を見た。
すると少年のほうに注目し醜く顔を歪める。
「・・・・・・ほう、よく見りゃ綺麗な顔をしてやがる、売り飛ばすか」
「!?」
少年は男の黒々と淀んだ瞳に見入られビクッと身を震わせた。少女は眼を閉じて必死に神に祈る。
「――いや、放っておけ。そんなチンケな金なんか要らなくなる。この剣があればな・・・・・・いくぞ!」
騒々しさが嵐のように過ぎ去ると静寂が戻ってくる。
もう少年たちに興味をなくした一味はぞろぞろとその場を後に去り、すると恐怖も去ってか少年はやっと身体の自由を取り戻し、思い出したように父親に駆け寄った。
「父さん!」
呼びかけには応えない。
もうすでに父は魂を宿してはいなかった。
「・・・・・・復讐してやる」
少年は震えていた。
「いつか・・・・・・必ず・・・・・・!」
血で濡れた手で落ちていた剣を拾い、ただ月に咆えた。




