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第02話~運命の日~

それは、いつもと変わらない朝だった

少し違うのは今日が日曜日だということだけ

引き篭もりの俺でも、さすがに近所付き合いは大切で

その日の俺は近所の子供会のお手伝いを

するために朝早いうちから準備して出かけていた。

世話人である町内会の会長が手配した軽トラックを

貸してくださるという

少し離れた所に住む漁師さんの元に歩いて向かっていた


本当はひとりでいっても良かったのだけど

昔からよく面倒をみていた後輩が

一緒にくるという

後輩といっても俺より8歳も年下でありながら

すでに小学校高学年の子供を筆頭に3人の子持ちで

集合場所である公園でぶらぶらしていると

世話人の町内会の会長や年上の親御さんたちに

あれやこれやと、用事を言いつけられたり

酒が飲めない下戸なのに朝からビールを飲まされたり

奥さんにお酒飲んでないで子供の面倒を見てとか

言われたりするので、逃げてきたらしい


俺たちは雑談をしながら、お互いの近況を話したり

後輩の子育ての愚痴を聞いたり、途中の自動販売機で買った

ジュースを飲みながら煙草を吹かしつつのんびりと

海岸線に並走する道路を歩いていた。


本当にいつもと変わらない朝だった。

そのときまでは・・・


最初に気づいたのは後輩だった。

遠くから高速で向かってくるタンクローリーの音に

おもわず振り向いた後輩が叫んだ!

『危ない!!!』

俺は、何?と後輩に振り向いたときには

後輩に突き飛ばされていた


ドーン!!!


俺は持っていたジュースを落とし

おもわず驚愕に固まってしまった。


後輩の右手を跳ね飛ばしながら掠めていった

石油タンクローリーが俺たちのすぐ横にある民家に突っ込んだのだ


後輩は右手を押さえて蹲っていて

呻いている

右手はおそらく骨折か何かしているはずだ


俺はというと突き飛ばされたおかげで

かすり傷ひとつしていない

いや、少しだけお尻が痛いし

突き飛ばされた拍子に落としたジュースがずぼんに

かかって冷たいのだが

そんなことはどうでもいい。


俺は目の前でおこった事に呆然としていたし

後輩は痛みに呻きながらも

俺と一緒で呆然と車が突っ込んだ民家を見ている


次に我に返ってまず、思ったことは

ああ!これは駄目かもしれないということ

もちろん俺たちのことがじゃない


民家に突っ込んだ車の運転手の生死のことだ

すでに運転席は完全に潰れていて

そこから大量の煙と運転手のものだろう血が

溢れ出している


俺は後輩に

『おい、大丈夫か?』と声を掛けた

『大丈夫です。和哉さん。それより警察と救急車を呼ばないと…』といって

立ち上がった。

『よし、俺は警察に携帯するから、おまえは救急車を呼んでくれ!すぐに連絡しないと!』

俺は慌てて携帯を取り出し、警察に電話する。後輩は痛みに呻きながらも

なんとか携帯を取り出して救急車を呼んでいる。


そのとき、民家の中から住人のうめき声が聞こえた


俺は咄嗟に後輩と目を合わせると

『すまん、後を頼む!』といって

家の中に飛び込んでいった。

後ろから後輩が何か叫んでいるがよく聞こえない。

俺はそのときになって、やっとこれがひどい事故なんだと実感したのだと思う


家の中におもわず飛び込むまでは実感がなく冷静でいられたのに

実感したとたんに、自分の心臓の音がうるさくて

手や足が震えて、それでも必死に住人が発した埋めき声を聞こうと

耳をすます。だけど余りにも心臓の音がうるさくて

なかなかおもうように聞こえない。

俺は自分にしっかりしろ!落ち着け!心臓がうるさい!と念じながら

声を探した。

家の中は、もうめちゃくちゃだった。

それでも、なんとか微かに聞こえた声を頼りに台所だったらしきとこに

入った。そこには冷蔵庫と壁に挟まれて気を失っている

おばあさんがいた。

どうやって、おばあさんを連れ出すことが出来たのか

実はよく覚えていない。

気づいたら気を失っているおばあさんを抱きかかえて後輩の元にたどり着いていた。


肩で荒く息を吐きながら汗びっしょりになって後輩の傍にしゃがみこみ

家のほうを振り向くと、すでに煙が充満しているだけでなく、タンクローリーから

漏れ出した石油が放つ独特のにおいも充満しているのが分かった。


後輩がすぐに

『ここを離れましょう。爆発するかもしれない!』といって

俺に声を掛ける。

俺もその危険を感じて

慌てておばあさんを抱きかかえてその場を離れた。


充分と距離をとったとき、おばあさんが気がついた

俺は

『おばあさん。大丈夫ですか?すぐに救急車がくるので安心してください!』

と声を掛けると

おばあさんは何か不思議な目で俺を見ると

いきなり思い出したように叫びだした

『さくら!さくらはどこ?』

『え?まだ、誰かいるんですか!!』

『孫が孫が、まだ中に!!』

と慌てて家に戻ろうとする。

後輩も

『おばあさん、無理です。じっとしていてください!』

とおばあさんを抑えて抱きついている。

俺は…

気づいたら家に戻っていた。

馬鹿なんだと思う。家の中はめちゃくちゃで足元は漏れ出した石油で

汚れているし、いつ火がついて爆発するか分からない。

爆発なんかしたら、俺なんて即死だろう。

でも、それでも、俺はこのことで後悔だけはしたくなかった。

まだ、火が出ていないんだ!まだ、爆発していない!まだ、大丈夫だ!

俺はおばあさんの、あの必死な顔と涙を思い出しながら

まだ、見つけていないお孫さんを必死に探した



どこかで小さな泣き声が聞こえる

俺はそこへ向けて突き進んだ。

壊れた壁や棚や箪笥を掻き分けて

俺はついに発見した。

まだ幼稚園くらいの女の子だろう。

小さな体が倒れてきた本棚と勉強机の間に挟まって

泣いている。

運がいいのか、怪我はたいしたことがないようだが

重い本棚に挟まれて動けないようだ。

俺はその本棚をなんとか持ち上げて

その子を救い出すことができた。

でも、おそらく一刻の猶予もないだろう。

ここは、いつ爆発してもおかしくないのだ。

すぐにここから脱出しないと!

俺はなんとか家の外に飛び出すと女の子を抱えて

走り出した。

できるだけ遠くへ少しだけでも遠くへ

家を飛び出る寸前で見た車の運転席からでる小さな火花に俺は恐怖していた。


女の子は外にでたので安心したのか

俺に小さな声で

『ありがとう』と言ってくれた。

俺はそのことがすごくうれしくて…

小さな女の子に俺は微笑んだ。


そのとき、轟音と共に俺たちは吹き飛ばされた。

爆発した民家の前は、道路を挟んで海になっている。

俺は吹き飛ばされながら、この子だけは守らないといけないと

女の子をひときわ強く抱きしめた。

俺はなんとなく、これは助かるかも知れないと思った。

凄い勢いで吹き飛ばされつつも、なぜか冷静にそう思ったんだ。

海ならば、俺たちは助かるとそう思って

俺たちは、数十メートルを飛ばされ海へ落下した。


俺の願いは半分だけ叶った。

俺に守られて抱きかかえられた女の子は

結局、怪我らしい怪我をしていないみたいだ。

何故?半分だけかというと

俺のほうは助からなかったからだ

どうやら、俺は爆発のときに飛んできた何かの破片に

首の頚動脈をやられていたみたいだ。致命傷はそれらしいけど

それ以外にも俺は、背中やら足やらあちこちに飛び散った破片が突き刺さったり

していて、後輩が右手が使えないのに、一生懸命に俺たちの元に

たどりついて、砂浜に引き上げてくれたときには

俺はもう虫の息だった。


でも、何故か俺は微笑んでいたと思う。

だってさ

後輩が俺に泣きながら

『和哉さん!なんで笑っているんですか?おかしいですよ!

和哉さん!頑張ってください。すぐに救急車が来ますよ!』

俺は、微かな声で

『女の子は?』と聞いた。

あいつは俺に涙を流しながら

『大丈夫です!無事ですよ!ほら!』

と横を指差す。

そこには泣いているおばあさんに抱きしめられながら

泣きじゃくって俺を見ている女の子が立っていた。

俺は霞んできた目でしっかりとそれを見ると

ああ・・・無事でよかったとやり遂げたと思いながら

俺は、意識を失った。


それが俺のその世界で生きていた時の最後の記憶だった


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