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第壱話・想夢  作者: 黒猫。


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8/10

其ノ捌

わたしの名前は、ねむ。

おとうさまとお手伝いさんといっしょに、ここのおやしきに住んでたの。

おかあさんのことはほとんどおぼえてない。

生まれつき体がよわくて、ねむが赤ちゃんのときにいなくなっちゃったみたい。


ねむはある時から体がうごかなくなったの。

お医者さんが「長くはないかもしれない」って言われた。

それからずっと、ベッドの上でくらすようになった。

おとうさまはわたしのことを「一族の恥だ」って言ってた。

「母親譲りの病弱もの!」

「生まれてこなければよかったのに」

「お前のせいで、すべてが台無しだ」

そんなことを毎日のように言われた。ねむはなにもしていないのに。

でも、ねむの体が弱いせいでだめなのかなって……そう思うしかなかった。


でも、そんなねむにやさしくしてくれた人が一人だけいたの。

月島すみれさんっていうお手伝いさん。

いつもえがおで話してくれたり、手をにぎってくれたり、えほんをよんでくれた。

すみれさんの声をきくと、ねむは少しだけ体がいたくなった気がしたの。

五才のたんじょうびの日、すみれさんがうすいもも色のほうせきのブローチをくれた。

えほんの中のおひめさまになったみたいで、とってもうれしかった。

「ずっと大切にするね」って言ったら、すみれさんもうれしそうだった。


でも、すみれさんはとつぜんいなくなった。

わたしの世話をしていて、夕ごはんのじゅんびがおくれたせいだった。

おとうさまは「召使いの分際が私の晩餐を遅らせた」って怒って、すみれさんをお家から追い出したの。

お別れするまえに、すみれさんは「ねむちゃん、ごめんね」って泣きながら言ってた。

でも、すみれさんはわるくない。わたしのせい。


それからほんとうに、だれも話しかけてくれなくなった。

時間がたって、おとうさまは別の女の人とけっこんした。

新しいおかあさんとその子どもが、やしきに来たみたいだった。

でも、ねむは会っていない。だれも、ねむのことを紹介しようともしなかったから。

もともといなかったみたいにされた。

おへやから出ることもできなかったし、外のこえもきこえない。

お手伝いさんたちは目もあわせてくれなかった。おとうさまがこわいから。

ごはんを持ってきてくれるだけ。

ずっとしずかなまま。


あの日のよるも、いつもと同じようにねむったの。

ひとりで、くらくて、さびしいまま。

ねむはそのまま……目がさめなかったの。


ねむがいなくなっても、だれも泣かなかった。

おとうさまも、あたらしい家族も、なにも気にしてなかった。

ネムがいなくなって少したったら、べつのお家に引っ越していったみたい。

まるで、「もう用はない」って言ってるみたいだった。

でも、ねむはこのおへやにのこったまま。


何年かたっておやしきにあたらしい家族がきたの。

その家族には女の子がいて、ねむのおへやがその子——つばきちゃんのおへやになったの。

つばきちゃんは、ねむとはぜんぜんちがった。

みんなに、あいされていた。

おとうさんも、おかあさんも、使用人たちも、笑って話しかけてた。

……いいな、って思った。

うらやましいとかじゃなくて、ねむのことを見つけてほしいっておもったの。

ここにいるよって、わかってほしかった。

だから、声をかけようと思って手をのばしたの。

でも、それがつばきちゃんをくるめてた。

ごめんなさい。わざとじゃなかったの……

ねむは「ここに、いたんだよ」って、だれかに知ってほしかっただけだったの。

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