其ノ伍
三人は石畳の神楽坂を歩いていた。
先導する晴海がふと立ち止まり、後ろを歩く二人に声をかけた。
「……あの、以前から気になっていたのですが……お二人は、ご家族なのでしょうか?」
問いかけに、真矢は少し笑って答えた。
「その前に……僕ら自身のことを、少しお話しした方がいいかもしれませんね」
「僕ら自身のこと……?」
晴海は首を傾げた。
そして、真矢の隣にいる白俐は顔を上げ
「真矢様、よろしいのですか?」
と尋ねた。
それには理由があった。
真矢は元々、自分のことを進んで語りたがる性格ではない。周囲に心の内を明かすことは滅多にない。
だが、晴海は違った。
誠実で誰にでも礼儀正しく、椿のことを大切に思っている。
何より、真矢達のことを信じ、怪異退治屋の依頼をしてくれた。
「晴海さんになら、話してもいいかなと思ってね。僕らのことを話しても、きっと受け入れてくれる気がして」
真矢はそう穏やかな声で言った。
「真矢様がそう仰るのであれば」
真矢の言葉に、小さく頷いた。
三人は再び歩き出し、真矢は夜空を一瞥した後、自身のことについて話し始めた。
「少し、驚かれるかもしれませんが……僕は人と、かつて『妖怪』と呼ばれていた怪異の血を受け継ぐ『半妖』です」
晴海は思わず立ち止まって振り返り、驚いたように彼の顔を見つめた。
「半妖…物語の中でしか聞いたことがありませんでした。こんなにも身近にいたなんて…」
晴海はまたも驚いたが、真剣に白俐を見つめ、静かに頷いた。
「では、お二人は……」
「僕らが出会ったのは平安の世……何百年も昔です。僕は怪異退治をしながら旅をしていたのですが、ある里山で、多くの妖怪に囲まれた一人の少女を見つけました。……それが白俐でした」
「あのとき、命を狙われていた私を、真矢様が助けてくださいました」
白俐の声には、誇りと敬意を感じられる。
「私のことを救って下さったこの方が人か妖かなど、気になりませんでした。ただ、一目で『この方にお仕えしたい』と思い、真矢様にお願いいたしました」
真矢は小さく苦笑する。
「白俐のような存在は……非常に稀です。人間と妖怪、どちらでもない半妖は双方から疎まれる存在。なので、妖怪が半妖に仕えるなんて、普通はありえないことないんですよ」
「ですが、真矢様が半妖であろうと、私にとって『主』であることは変わりません」
白俐はそっと微笑みながら言った。
晴海は二人の言葉に、しばらく言葉を失っていた。
やがて、そっと口を開いた。
「……正直、驚きました。けれど、今のお話を聞いて……大切なお嬢様を託すなら、このお二人しかないと、改めて思いました」
その言葉に、真矢と白俐は軽く会釈をした。
そして、月明かりが差し込む坂道を、再び三人は歩いていく。
その先に待つのは、一人の少女と、彼女を蝕む『何か』である。




