其ノ弐
午後六時半を過ぎた頃、喫茶店の扉がカランと鳴った。
真矢と白俐が店仕舞いをして、ちょうど片づけを終えたところだった。
「すみません、もう閉店の時間なのですが……」
真矢が店の奥から顔を出し、声をかける。
しかし、入ってきたのは二人がよく知っている女性だった。
「ご無沙汰しております。真矢さん、白俐さん」
そう言って、軽くお辞儀をした。
臙脂の矢絣の着物に深緑の袴を身にまとい、黒い髪をきちんとまとめ上げている女性。
彼女は長年、とある名家に仕える家政婦・晴海紗羅だ。
「今日はお二人にご相談があるのですが……」
「相談というのは、怪異退治の依頼ですか?」
「はい」
白俐が晴海に尋ねる。
「あの、今日は椿さんはご一緒ではないのでしょうか?」
椿というのは、晴海が仕える茅場家の一人娘である。
椿はよくこの喫茶店を訪れており、その側にいつも晴海がついていた。
しかし、今日はその姿がないのだ。
「はい。これから話そうと思っている相談が、お嬢様が関わることでして……」
「なるほど。では、応接間で詳しくお話を伺いましょう」
真矢はカウンター脇を通り、店の奥にある応接間へと晴海を案内する。
その間、白俐は店の外へと出て、出入口脇に立てられていた『喫茶 白百合 営業中』の立て看板をそっと抱え、静かに店内へと運び入れる。
続けて扉を閉め、看板を店内の壁際に立てかけた。
窓のカーテンを引き、照明を落とした後にキッチンへと向かった。
香り高い紅茶を温め、金彩があしらわれたティーカップに注ぐ。
それを白磁のトレイに載せ、落ち着いた足取りで応接間へと向かっていった。




