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第壱話・想夢  作者: 黒猫。


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10/10

其ノ拾

屋敷を出ると、夜のひやりとした空気が頬を撫でた。

時刻は八時半を過ぎていた。

屋敷の周囲は静かで、庭の木々が風に揺れる音だけが響いている。


「……これで一件落着ですね」


白俐が安堵からそっと息を吐く。


「そうだね。成仏できて本当によかった」


白俐は真矢の方を見て頷いた。



二人はしばらく黙って歩いた。

夜空には月が高く昇り、淡い光が道を照らしている。

やがて、真矢が空を見上げながらぽつりと呟いた。


「天国でお母さんやすみれさんと再会して、幸せな時間を過ごしてほしいね」


白俐も同じように夜空を仰ぎ、微かに微笑む。


「きっとそのはずです」


その言葉に真矢は小さく頷いた。

しかし突然、真矢は咳を堪えるように口を押さえる。


「……っ」


赤いものが指先に滲むのを白俐は見逃さなかった。


「真矢様…!」


白俐は薙刀袋を片手に持ち直し、彼の腕に手を添える。


「仕方がなかったとはいえ、やはり霊力を使い過ぎたのです。家に帰ったら、すぐに休んでください」


「分かったよ」


白俐は少し怒り気味に言ったが、それは真矢の身体の心配しているからこそだ。


「そうだ、帰ったらハーブティーでも入れようか。疲労回復にいいというからね」


真矢が笑ってそう言うと、白俐もようやく表情を和らげた。


「はい、ぜひそうしましょう」


夜の帝都に二人の足音が響いていた。



喫茶店の二階、居住スペースに戻ったのは九時を少し回った頃だった。

白俐は真矢の後に入浴を済ませ、濡れた髪を丁寧に拭きながらリビングへ向かう。

リビングの扉を開けると、天井の照明は落とされ、テーブルのランプの光だけが部屋を照らしていた。

テーブルの上に飲みかけのハーブティーが残され、香りが微かに漂っている。

視線をソファに移すと、そこには寝巻き姿の真矢が横になっていた。


「……こんなところで眠ってしまっては、風邪を引きますよ」


白俐はそっと呟き、ブランケットを手に取ってソファに歩み寄った。

真矢の眠る顔は戦いの緊張が解けたせいか、普段よりずっと穏やかで、どこか幼さすら感じさせる。

ブランケットをかけようとしたそのときだった。


「……柑菜(かんな)


寝息に混じって、彼の口から零れた微かな声。

白俐の指先がピタリと止まり、胸の奥にチクリと痛みのようなものが走る。


柑菜——白俐と出会う前、真矢が平安の世に生きていた頃、恋に落ちた少女の名。

旅の中で出会い、互いに想い合い、やがて結ばれた人。

数百年という時を経てもなお、真矢の心から消えることのない存在。


ブランケットを胸に抱えたまま、白俐は視線を落とす。


「……羨ましい」


小さく吐き出した声は、誰にも届くことなく夜に溶けていく。

白俐は真矢にブランケットをかけると、背を向け、足音を忍ばせて自室へと戻っていった。



自室へと戻った白俐は、ゆっくりと扉を閉めた。

灯りもつけずにそのままベッドへ腰を下ろすと、胸の奥に溜まった想いが(せき)を切ったように溢れ出す。


(わたし)はずっと側にいるのに』


戦いのときも、何気ない日常も、夢の中も、いつも真矢の姿があった。

けれど、真矢の夢の中で呼ばれるのは、もうこの世にいない少女の名。


『真矢様は、(わたし)のことをそんな風には思っていない』


分かっているからこそ口にできなかった。

伝えればきっと、今の関係が壊れてしまう。

本当に守りたいのはずっと隣にいる時間。


思えば、彼と出会ってからの何百年というときを、白俐は同じ想いを胸に抱え続けてきた。

その間に幾度も別れの危機があり、何度も生死を越えて共に戦ってきた。

それでも一度もその想いを告げたことはない。

ただ彼の隣にいることだけを選び、想いを隠し続けてきたのだ。


ベッドに横たわると、思い浮かんでくるのは真矢の寝顔。

触れたいと思う気持ちを心の奥に仕舞い込み、白俐は目を閉じた。


『いつまでこの気持ちを隠していられるのかな……』



それから一週間後、『喫茶 白百合』の店内には午後の暖かな日差しが差し込んでいた。

カウンターでは真矢が丁寧に珈琲を入れている。

そして、四人がけのテーブルでは談笑の声が弾んでいた。

胸元に淡い桃色のブローチをつけた白俐、その向かいに椿と晴海が並んで座っている。

椿は年相応の明るい笑みを取り戻していた。

楽しげな会話と紅茶と珈琲の香り。

テーブルを囲むひとときは、失われた少女の想いを胸に抱きながらも、確かに前へ進んでいることを示していた。


『喫茶 白百合』には今日も穏やかな時間がゆっくりと流れていく。

こんにちは。真矢(まや)白俐(はくり)の記録係の黒猫。です。

真矢と白俐、二人の活躍を皆さんにお届けしたいという思いから、この作品を書かせていただきました。

楽しんでいただけましたか?

それでは、adieu!


御負け


【設定資料】


★真矢

実年齢 九百歳くらい?

身長 一七四センチメートル

種族 半妖

能力 父は妖怪、母は巫女であり、妖力と霊力を兼ね備えている。

父から戦闘力や毒への耐性を受け継ぐ。母から浄化、結界、封印といった術を受け継ぐ。

特性 半妖は月に一度妖力を失う日があり、真矢の場合は十六夜の月の夜。

日没になると妖力を失い、夜明けと共に妖力が戻る。

趣味 古書収集、刀の手入れ

好きなこと 読者(古書や洋書など)、手間をかけて淹れる珈琲、白俐と過ごす時間

苦手なこと あまり親しくない人に自身の出自について深く踏み込まれること

MBTI INFJーA

イメージソング 「四季刻歌」

イメージカラー 藤色

モチーフの花 藤の花

名前の由来 『MAO』の摩緒(まお)


★白俐

実年齢 七百歳くらい?

身長 一四五センチメートル

種族 妖怪・化け猫族

能力 普段は子供の姿をしているが、老若男女に化けることが可能

趣味 茶葉の調合(店で使うものの試作)、裁縫や刺繍

好きなこと 食べること(特に甘味)、喫茶店の仕事、真矢の側にいること

苦手なもの・こと コーヒー、炎天下

MBTI ISTJーT

イメージソング 「アサガオの散る頃に」

イメージカラー 白

モチーフの花 白百合

名前の由来 『千と千尋の神隠し』のハク


★柑菜

関係 真矢の想い人、かつての旅の仲間

真矢と出会った当時の年齢 十五歳(平安時代)

身長 一四五センチメートル

種族 人間

生業 妖怪退治屋

武器薙刀

性格 明るく誰にでも分け隔てなく接する。困った人がいると手を差し伸べる思いやりがある。相手の素性や立場に捉われず(とらわれず)、その人自身に真っ直ぐ向き合う。

MBTI ENFJ-A

イメージソング 「DAYBREAK FRONTLINE」

イメージカラー 向日葵色

モチーフの花 向日葵

名前の由来 「犬夜叉』の神無(かんな)


★晴海紗羅

名前の由来 晴海は東京都中央区にある『晴海町』、紗羅は沙羅の木から


★茅場椿

名前の由来 茅場は東京都中央区にある『日本橋茅場町』、椿は椿の花から


★箱崎ねむ

名前の由来 箱崎は東京都中央区にある『日本橋箱崎町』、ねむは合歓(ねむ)の木から


★月島すみれ

名前の由来 月島は東京都中央区にある『月島町』、すみれは(すみれ)の花から


【初期設定】


「めぐり逢ひて —令和陰陽師と奇譚—」


《あらすじ》

陰陽師(おんみょうじ)。それは、古代中国を起源とする陰陽五行思想に基づいた陰陽術を行う者を指す。

今から千年前の日本で、安倍晴明(あべのせいめい)蘆屋道満(あしやどうまん)らにより陰陽道は大きく発展し広く影響を与えた。

彼らは人々を脅かす妖怪、鬼、幽霊などを退治し日本の平和を保ち続け、次第になくてはならない存在となっていった。

しかし、約百四十年前に政府が陰陽道を迷信とし断じられたことで陰陽道は排除されるようになり、多くいた陰陽師が激減した。

その中で、安倍晴明の子孫の家系『土御門(つちみかど)家』と分家の『倉橋家』や蘆屋道満の子孫の家系『蘆屋(あしや)家』によって現代まで密かに受け継がれ、人々の平和を守り続けている。

以後の話は、ごく普通の女子中学生の上山葵(かみやまあおい)が令和の女性陰陽師かつ中学生の倉橋神久夜(かぐや)と出会い、様々な経験を通し成長する物語である。


《登場人物》

倉橋神久夜(くらはしかぐや)

十四歳の中学生 陰陽師の見習い

上山葵とは姉妹で姉

努力家

真矢の指導の元、一人前の陰陽師を目指している


髪型 ポニーテール 下ろすとストレートロングヘアになる

髪色 黒

イメージカラー 緋褪色

趣味 習っている合気道

特技 運動全般

苦手 辛い料理

戦い方 怪異に対しては術式や薙刀、人間に対しては合気道

モデル 『半妖の夜叉姫』のせつな


上山葵(かみやまあおい)

十四歳の中学生

倉橋神久夜とは姉妹で妹

お人好しな性格

幼少期、体が弱かった

中学生になって神久夜と出会い、一人前の陰陽師を目指す神久夜を手伝うようになる


髪型 ボブヘア

髪色 茶色

イメージカラー 群青色

趣味 音楽を聴く

特技 わからない

苦手なこと 運動全般 特に走ること

モデル 特になし 強いて言うなら『半妖の夜叉姫』のとわ


土御門真矢(つちみかどまや)

三十歳前後?の陰陽師

半妖

土御門家の当主

白俐とは家族同然

掴みどころがなく、交友関係が広い

現在、最も強い陰陽師 最大で5体の式神を使用可能


髪型 セミディアムで後ろ髪を結んでいる

髪の色 黒茶

目の色 灰色

イメージカラー 藤色

趣味 白利を愛でること

特技 料理や機械の操作

苦手なこと 特になし

モデル 『犬夜叉』の弥勒


白俐(はくり)

約四百歳の白狐(神社に祀られている神)と猫又のハーフ

温厚な性格


髪型 ミディアムヘア

髪色 白

イメージカラー 白

趣味 散歩

特技 お手玉

苦手 機械の操作や暑い場所

モデル 『犬夜叉』の雲母(きらら)


蘆屋夜露(あしやよつゆ)

十七歳の高校生

蘆屋家の現当主

謙虚で真面目

真矢の指導により、真矢の次に強い陰陽師となった


髪型 ミディアムをハーフアップに

髪色 焦茶色

イメージカラー 千草色

趣味 読書

苦手 セロリ、パクチー

モデル 特になし


佐伯菖蒲(さえきあやめ)

二十四歳の巫女

面倒見が良い

両親は厳島神社の神主

学生時代は弓道部に所属


髪型 セミロング

髪色 赤茶色

イメージカラー 黄朽葉色

趣味 スイーツの食べ歩き 洋服選び

特技 その人に似合った洋服を選ぶ

苦手 虫、熱い食べ物

モデル 『犬夜叉』桔梗、『ゴーストハント』の綾子


葉澄柑菜(はすみかんな)

真矢の元カノ

菖蒲の親友


黒椿(くろつばき)

二十歳前後の見た目をした神久夜の式神

椿が描かれた着物を着ており、黒椿の簪をしている

腹黒い性格


髪型 セミロングを編み込みハーフアップに

髪色 薄茶

イメージカラー黒

趣味 真矢様とのデート

特技 主様(神久夜)を言い包めること 神久夜は黒椿の主だが、何故か頭が上がらない

苦手 菖蒲

モデル 『結界師の一輪華』の雅


〜黒猫。のコメント〜

「めぐり逢ひて —令和陰陽師と奇譚—」は総勢八名。

最初に葵と神久夜を登場させ、真矢と白俐、黒椿、中盤から夜露、菖蒲、柑菜と徐々にキャラを登場させる予定でした。

ですが、主要キャラクターがあまりにも多すぎることを周りに指摘され、なくなく特に気に入っている真矢と白俐に絞りました。

他のキャラクター達は、何かしらの形で「めぐり逢ひて —大正怪異奇譚—」に登場させたいと思います。

ちなみに、「めぐり逢ひて —大正怪異奇譚—」で陰陽師の設定がなくなったのは、「怪異」や「半妖」以外に「陰陽師」の設定が加わると、情報が過多で読者を混乱させることになると思ったからです。

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