第一章:十四年後の均衡と、不穏な双眸
一真が十四歳の誕生日を迎えた頃、秋山家は端から見れば「理想の極致」のような家庭を築いていた。
修は常務にまで上り詰め、多忙ながらも家族を愛する父を演じ続けていた。
康夫は七十を過ぎてもなお、矍鑠として一家の「長老」として君臨している。
そして瑠美は、四十七歳。
その美しさは衰えるどころか、康夫による長年の執拗な支配と、秘密を抱え続ける緊張感によって、透き通るような、しかし触れれば壊れる薄氷のような危うい色香を放っていた。
「一真、誕生日おめでとう。君は、私にとって最高の誇りだよ」
豪華なレストランの個室で、康夫は一真の肩を抱いた。
修はその光景を、穏やかな微笑みを貼り付けて見つめている。
一真の容姿は、修とは似ても似つかない。
彫りの深い目元、傲慢さを感じさせる薄い唇。
それは若かりし日の康夫そのものだった。
一真は、祖父の言葉に無表情に応えた。
「ありがとう、じいじ。でも、一番のプレゼントは、ママを少し解放してあげることじゃないかな」
その場の空気が、凍りついた。
修のグラスを持つ手が微かに震え、瑠美は青ざめて俯く。
一真の視線は、真っ直ぐに康夫を射抜いていた。
この少年は、物心がつく前から、家の中を漂う「淀み」を吸って育ってきた。
寝室から漏れる母の押し殺した声、父の虚ろな背中、そして祖父が母に向ける、およそ祖父とは呼べない執着の視線。
「一真、何を言っているんだい。ママは自由だよ。ねえ、瑠美さん?」
康夫は余裕を崩さず、瑠美の手の甲に自分の手を重ねた。
瑠美はビクリと肩を揺らし、「ええ、そうよ…一真」と力なく笑う。
一真は、その重なり合った手を冷ややかに見つめ、鼻で笑った。
「そう。ならいいんだけど」




