黄泉津大神8
……。
黄泉津大神が膝から崩れ落ちる。
「私は…、あなたに……」
黄泉津大神は震えている。
「私は、一体なにを…」
天照大御神は起き上がって、黄泉津大神に語り掛ける。
「伊邪那美、ごめんなさい。あたしはあなたのこと、もう責めない。許してなんて言えないけど、謝らせて。本当にごめんなさい」
「……」
天照大御神は焼き切れてしまった個体に触れてごめんねと呟く。
「私は、あの人を、笑顔に…」
黄泉津大神は見回す。
「違う…。どうして」
「一旦休もう?」
天照大御神は黄泉津大神に近づいて抱きしめる。
「辛かったよね。苦しかったよね」
天照大御神の肌が爛れる。
「ごめんね。あの時、わかってあげられなくて」
黄泉津大神はやめろと口では言うが、抵抗しない。
「ごめんね、あたしが間違ってた」
天之御中主神が春香に手招きをする。菊理媛神の神力で祥子の魂を繋ぎ留めてほしいと頼む。
祥子は棺桶に入れられたおばあちゃんと同じ表情をしている。死人の顔。
助かるのか。春香は質問する。
神力が全て抜かれている。とにかく応急処置を。天之御中主神が指示する。
春香は祥子の手を取る。空気のように重さが無い。神力が抜けた魂だけの存在。
祥子の手を握る。
黄泉津大神が春香たちの行っていることを見て絶望する。五百年前と同じように。
「私はなんのために」
天照大御神を突き放す。そして頭を抱える。
「私は、ただ…」
黄泉津大神の神力が大きく揺らいで、元人間たちが支配から解放される。
辛い。苦しい。助けて。帰りたい。それぞれがそれぞれの思いを口にする。
ごめんなさいと主人が悔いる。
天之御中主神が自分の体に手を突っ込む。血は出ない。
「君を『黄泉津大神』にしたのは、僕だ」
体の中から、あの鏡を取り出した。
「君を、伊邪那美命だったときは縛りつけて、黄泉津大神に変えてから更に苦しめた。でも、僕も変わったんだ。感情っていうのがわかるようになってきた」
天之御中主神の神器が輝く。
「今の君は、どうしたい? 今の僕は、君を否定しない」
黄泉津大神は天之御中主神を見上げる。
「あの人のところに、行きたい」




