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薄雪草を抱く  作者: 紀野光
黄泉津大神

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黄泉津大神6

 そこには祥子が丁寧に寝かされていた。その横で天照大御神はぞんざいに捨てられていた。天照大御神にはいくつかの化け物が噛みついている。


 そのうちの一匹が天照大御神の右肘を捥ぎ取って、しゃぶりつく。血は出ていない。代わりに神力が溢れ出す。


 春香は天照大御神に駆け寄る。駆け寄って化け物を引き剥がす。


「天照! 聞こえる⁉」


 天照大御神は小さく唸る。春香の声に反応はしている。それにすでに餌食になった神たちとは違って天照大御神は食われたというよりかじられただけで済んでいる。歯形が残っているだけで噛み切れなかったということになる。これは神力の大小の差だろうか。


 助けなくちゃ。春香の腕輪が熱を発し始める。


(つなぎとめてあげて)


 そうアドバイスされた気がする。春香は天照大御神にそっと触れる。


 天之御中主神は祥子の容態を確認している。


「菊理媛神。なにをしているのですか」


「助けるの」


「どうして」


「友だちだから」


「友だち?」


 黄泉津大神はなにを言っているのか理解できないという表情をする。


「わからないだろうね。「救う」という君の考え方は、昔は正しかったかもしれない。けどね、時代は変わったんだよ。黄泉の国から現世を覗いていた君は知ってるんじゃないの」


 春香の神力が天照大御神に流れていく。血色が良くなっていく。


「特に天照なんかはこれでもかというほど勉強した。たくさんの本を読みこんで、たくさんの意見を聞いて。それだけでは飽き足らずに、高天原も黄泉の国も及ばない地域にまで足を運んだ。文化も言葉も考え方もが零から違う世界に。あの大御神が、だよ。自分がどうあるべきか悩んだ」


 天照大御神が目を覚ます。春香を認識する。春香の名前を呼ぶ。手を伸ばす。春香はそれにこたえて抱きしめる。天照大御神は涙を流す。


「天照は人間と対等になることを選んだ。君とは真逆だよ。君は結局、神「様」という立場を捨てられないんだ。だから現世の人間を本人たちの意見を聞かずに黄泉の国に連れ去ってきた」


「連れ去るなど…。私は苦しんでいる者たちに手を差し伸べただけだ」


「へー。じゃあその人たちは今どこにいるの? まさかそこらにいる奴らがそうだって言うつもりじゃないよね」


 化け物はまだかまだかと春香たちを凝視している。


「君にはどう見えているのか知らないけど、獣のように神を貪る今の姿が君の夢見た幸せな世界なのかい」


「私は、私は…」


「君はやっぱり、すでに伊邪那美命じゃないんだよ」


 黄泉津大神の顔が歪む。


「祥子は受け入れてくれた。祥子は幸せになる」


「本当に祥子さんのことを思っているなら、旦那さんと娘さんがいるとこに逝かせてあげなきゃ」


 春香が発言する。


「あなたはわかってるんでしょ。だから泣いてるんでしょ」


 涙が一筋、流れた。黄泉津大神は自分の頬に触れる。


「あなたの考えは崇高なものだったかもしれない。でも黄泉の国の力を利用しようっていうのは間違ってる」


 黄泉津大神は動揺しているのか。口をパクパクして、なにかを発言しようとした瞬間、瘴気がまとわりつき始める。


「黄泉の国の最初の被害者はあなた」


 黄泉津大神の瞳に憎悪が燃え上がる。


「私は正しい」


「いいえ。あなたは正しかった」


 黄泉津大神は頭を掻きむしり、歯軋りをする。


「もういい。お前たち! 喰え!」


 元人間たちが襲い来る。奇声を上げて。待ってましたと。


「伊邪那美」


 天之御中主神が穏やかに黄泉津大神に問いかける。


「今日はこの子の誕生日なんだよ。それを命日に塗り替えるわけにはいかないと思わない?」


 黄泉津大神は混乱する様子を見せた。


 その時、閃光が走った。暖かい。光源は天照大御神だった。


 化け物たちが光で目や体を押さえて悶絶する。天照大御神に噛みついていた個体は高純度の神力の影響で焼き切れてしまっている。


(今度はあなたの番)


 誰かが再び春香に声を掛ける。


(あの子を助けてあげて)


 春香が黄泉津大神に向かって歩き出す。天之御中主神と天照大御神が止めようとする。


 その時、春香の神器が神々しく輝きだした。それを見た二柱は驚嘆する。


 春香は黄泉津大神の両手を取り、優しく握る。春香の両手には、焼かれるような激しい痛みが伝わって、爛れ始める。それに必死に耐える。


 黄泉津大神の中の、かつて喰われた菊理媛神が春香と呼応する。


(思い出して)

 

 黄泉津大神と菊理媛神と春香が繋がる。


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