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薄雪草を抱く  作者: 紀野光
伊邪那美命

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伊邪那美命7

 大鳥居の下に出て、体育の授業以外で運動をしないのも関わらず無理して走って、天之御中主神の家に着いた頃には咳とえずきが止まらなかった。

 

 ふらつきながら天之御中主神の家の玄関の戸を開けると天之御中主神が待ってたよと言いに来た。そしてこっちに来てと春香を先導する。道すがら、よく決意しただとか称賛されたが春香は興味がない。

 

 案内された部屋は一番最初に高天原に訪れた時、春香専用の神器を作ってもらった部屋と同じだった。あの時と同じように座布団が二枚、対面に敷かれている。

 

 春香は指定された座布団に楽にして座る。天之御中主神が祭壇に祭ってある丸いなにかを手に取ってから祭壇を背にして春香と向かい合って胡坐で座る。


「今回は使うんだ、それ」


 細かく装飾された円盤は神々しさを感じる。歴史の教科書の資料にあった昔では「鏡」と言われていたものに似ているが、こちらのほうがよく手入れされていて美しい。


「それを作った時のことを覚えてる?」


 天之御中主神は春香が右手に握る神器を指さす。


「これから君に菊理媛神になってもらうための儀式をやるけど、君はそれを作った時と同じ要領でいい。瞼を閉じて君自身の奥にある神力に集中する。僕はこの鏡に僕の神力を込めて、君の神としての姿を映し出す。それを菊理媛神の型として君の中に投影して、もやもやしている君の神力を成型するのに使う」


 天之御中主神が春香の目を見る。春香も天之御中主神の目を見て応える。


「それじゃあ、神器を握って」


 気合を入れた天之御中主神が深呼吸すると淡く光りだした。その光が鏡に伝わる。鏡は太陽のように燦々と輝いて眩しくなる。春香は瞼を閉じる。


 春香は自分の意識の中に入って集中する。


 振り返れば他人を羨ましがってばかりだった。


 あの人みたいに可愛かったら…。朝、自分の不細工さを洗面台で認識して、顔を見られないように俯いて登校した。


 あの人みたいに社交的だったら…。いつも輪の中心にいる人物を視界の隅に捕らえながら自分の殻にこもった。


 あの人みたいに他人よりも秀でたものがあったなら…。熱中する対象が見つからないまま、家と学校を往復した。


 鏡の光が春香の意識の中を徐々に照らし始める。神器を作った時は風前の灯火のようにしか感じ取れなかった神力を今はハッキリ感じ取ることができる。


 意識の中でサッカーボールほどの大きさの神力を春香は手に取る。ほんのりと温かい。それを外からの光が包み、小さく圧縮していく。ビー玉サイズまで小さくなった神力を春香は握りしめた。


「もういいよ」


 外からの声を聞いて、春香は意識の中から出て目を開いた。握っていた御守りの形をした春香の神器が輪っかに変化していた。


 大小・色・形が様々なガラスのように透き通っているがガラスではなく、石のように硬いが石でもない固体。それらが繋ぎ目のない紐によって丸く結ばれていた。


「今日は君の二つ目の誕生日だね。菊理媛神」


 天之御中主神は鏡を祭壇に戻さず、ぐっと力を加えて小さくしてから手品のように手の中で消してしまった。


「先代の菊理媛神は「繋がり」を司どってたけど、今の菊理媛神は君だ。だから「なにをしたいのか」は君が決めるんだ。君は今、なにがしたい?」


「私は天照と祥子さんを助けたい」


「そっか。…羨ましいよ。……。さあ、表から出ると大衆がうるさいから裏から出よう」


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