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薄雪草を抱く  作者: 紀野光
七福神

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七福神6

 天之御中主神がお冷を四人分持って戻ってきて、よいしょと椅子に座った。


「僕は知ってるよ。なにせウチで練習してたからね。天照なんか今日も自主練してるよ」


「あーちゃんさんも他言無用ですよ」


「ごめんごめん」


 料理がサーブされるまで談笑が続く。前後左右からいい匂いが漂ってきて、腹の虫が暴れまわる。


「そういえば、僕この前、夏樹と一緒に遊んだんだ」


「は?」


「みんなと公園でサッカーやったんだ」


「勝手に」


「あ、夏樹っていうのはこの子の弟でね」


 天之御中主神は春香の肩を叩く。


「春香ちゃん、弟がいたのね」


 祥子が興味を示す。


「どこの馬の骨ともわからない僕にもたくさんパス回してくれて、しかも体の小さい僕に合わせて優しくね。子どもはいいね。けど、途中からきた年寄りたちにゲートボールやるからって場所取られちゃって」


「世知辛いのはいつの時代も変わりませんね」


「そういうのには強気にいかなくちゃ駄目よ。ちゃんと言ってやった?」


「いや、みんな素直で真面目だったから萎縮しちゃって。他に場所もなくて解散しちゃった」


「あなたがどうにかするんでしょ。夏樹君だってまだ小学五年生だっていうのに」


「?」


 春香は不思議に思う。たった今夏樹のことを知った祥子さんが、なぜ弟の学年を知っているのだろう。


「神は昔からそう。ただ高みから傍観するだけで、助けを求める人々を足蹴にして」


 テーブルの上に置いている手を祥子は握って震わせている。


 祥子が生きていた時だって、弟がされたような世代間のいざこざくらいは珍しいことでもなかっただろうに。そこまで怒ることでもないと思うが。


 お待たせしましたと給仕係が料理を持ってきた。どの料理からも湯気が立ち上っている。見るからに熱々だ。


 春香は早速チャーハンをレンゲで口に運んだ。お米はパラパラであるにもかかわらず油っこくなくて、それでいてパンチがある味だった。食べるスピードが速くなる。


 天之御中主神はトムヤムクンを、祥子は蕎麦を、鹿屋野比売神は煮物定食を食べる。


 青天井で秋風が通り抜ける。春香はその寒さに身を縮める。


「春香ちゃん、寒いでしょう、我慢しないで」


 祥子は着ている半纏を貸してくれようとしたが春香は断った。


「現世は今日暖かかったからね」


 天之御中主神がスープをフーフーして冷まそうと試みる。


「行ったのなら教えてあげればよかったじゃない」


 祥子は薬味を豪快につゆの中に入れた。


「だって、今日来るとは思わなくて。ごめんね」


 天之御中主神は口先だけで謝る。


「これまでも暖かい時代と寒い時代がありましたけど、最近は一年を通してやけに暑いです。わたしもこの前現世に行ったのですが、あまりの暑さに眩暈でクラクラしてしまいまして、通りがかりの方に助けてもらったんです」


「地球温暖化、勘弁してほしいよ、本当」


 天之御中主神、鹿屋野比売神二人して春香を見る。


「私のせいにしないでよ」


 春香が不機嫌に言い返す。


「うちの子のせいにしないで!!!!」


 祥子がいきなり怒鳴った。


「!?」


 周りの食事を楽しんでいる神たちが何事かとこちらを見る。そして怒鳴った人物が祥子だとわかると、迷惑そうにしたが、いつものことだと、なんともないように食事を再開した。


 天之御中主神と鹿屋野比売神は目配せをした。そして天之御中主神が目で春香になにかを伝えてきた。春香は「いつも通りにしていろ」と言われたような気がした。

 

 鹿屋野比売神が祥子の手を握り、無理やり話題を変えた。


寿老人(じゅろうじん)さんが今年の桃の出来は最高だと仰っていました。食べ終わったら四人で桃汁をいただきに行きましょう」


「カヤ、いいね。賛成」


 天之御中主神がすかさず同意する。


「私は行けないわ。だって天照に舞台を見に来てほしいと言われているんだもの」


 祥子は目の焦点が合わないまま断る。この数秒で明らかに体調が悪くなっていた。


「もう行かなくちゃいけないわ」


 右手で箸を持ったまま立ち上がって、左手で頭を押さえた。


「天照さんの出番にはまだまだ時間があります。もう少しゆっくりしていても問題ありません」


 鹿屋野比売神は祥子に座るように促す。


「お水を飲みましょう」


 鹿屋野比売神はコップを手に取り無理やり祥子に手渡した。


 それでその場は収まった。


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