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薄雪草を抱く  作者: 紀野光
七福神

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七福神5

 何列も出店が並ぶエリアを抜けると、フードコートのようにテーブルと椅子が大量に置かれている場所に出た。


 奥の厨房では恵比寿よりも一回りも二回りも大きいおじさんが大汗をかきながら巨大な鍋をかき回している。


「満席だね」


 空席がないから少し時間をずらして出直そうという話になったとき、天之御中主神と春香を呼ぶ声が聞こえた。


「ここ空いてるわよ」


 祥子がこちらに向かって手招きしていた。そして祥子の隣には周りと比べると派手な着物を着た若い女の人が座っていた。


「いいの? 助かったよ」


 天之御中主神は喜んで相席した。春香もついていって祥子と見知らぬ神に挨拶をした。


「こんにちは」


「春香ちゃん、久しぶりね。こんにちは」


「こんにちは、初めましてですね。わたし、鹿屋野比売神(かやのひめのかみ)と申します。お気軽にカヤと呼んでください。春香さんですね。天照さんから最近よくお話を伺っていますよ」


 のってりと話す鹿屋野比売神は顎の下で指を組んでニコニコする。


「今日は随分と煌びやかなのを着てるね。らしくないじゃん」


「これは舞台衣装なんです。天照さんからは直前に着替えるように言われていたのですが、面倒でしたのでお家を出てくる時からこの格好なんです。皆さん、内緒でお願いしますね」


 鹿屋野比売神は唇に人差し指を立てる。


「二人とも食べ終わったの?」


「まだよ。私たちもちょうど空いてる席を見つけたところだったの」


 祥子はテーブルの上に置いてあったお品書きを開く。達筆の手書きで書かれていた。A2サイズの二つ折りに文字がびっしりと詰め込まれている。四人で一緒にのぞき込む。


「さすが大ちゃん。またメニュー増えてる。七福神祭に命かけてるよ、絶対」


 白飯から炊き込みご飯、釜めしもある。他にはチャーハン、ビビンバ、カレー、ロコモコ、パエリア、ピラフ、リゾット、ナシゴレン、カオ・パット・サパロット、ゼルダ、セコ・デ・ポロ、ジョロフ・ライス…。


 そして一行の空白を開けて味噌汁から始まり、徐々に見たことのない文字列が始まる。その連続。一行の空白から馴染みのある単語から始まり、聞いたこともない単語が並ぶ。


 春香は安パイにチャーハンに決める。天之御中主神が注文してくると言って厨房に向かった。小さい体を利用してテーブルと椅子の間をスイスイと抜けていった。


「春香さんも是非わたしたちの舞台を見に来てください」


「なにをやるんですか?」


「それも内緒なんです。天照さんが見に来ていらっしゃる方々を驚かせたいそうで、口外厳禁なんです」


 それに祥子が追及する。


「舞であるとか劇であるとか、そのくらいは教えてくれてもいいじゃない」


「いいえ」


 鹿屋野比売神は口にチャックを閉める動作をした。


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