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薄雪草を抱く  作者: 紀野光
七福神

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七福神3

 日にちが経って十一月初週。朝の朝礼で、先週行われた中間テストが全て返却された頃、主要五科目の総合順位が配られた。二百人ちょっといる二年生のなかで春香は百十九位。百位以下にはならないという春香の一年生からの目標は今回でダメになってしまった。

 

 休み時間になるとすぐ、春香は本を開く。孤立してから春香は暇つぶしに小説を読んでいる。今読んでいるのは政変と戦争をテーマにした架空の国の物語。リビングの本棚からなんとなくで選んだ一冊。

 

 ただ耳鳴りは相変わらずで、集中できずになかなか作品に入り込めない。それだけならまだよかったが、ひどい時には授業中の先生の声が聞こえなくなることもあった。クラクラしたり、気持ち悪くなることもある。


 耳鼻科に掛かったが異常はないと言われた。脳のほうに問題があるかもしれないから紹介状を書くと提案されたが春香は断った。原因はストレスだとわかっている。なにかしらの薬が欲しくて診察を受けに行ったのだが、異常のない人に処方箋は出されなかった。

 

 毎日通う学校。人の声をかき消す耳鳴りは春香への嘲笑は遮ろうとはしなかった。

 

 昼休み。今日も楽しそうに春香を見て嗤っている。その春香はいつも通りに本を読んで大人しくしていた。

 

 あと五分。五分耐えれば授業が始まる。だが、春香の奥から「なにか」がこみ上げてきた。


 それは勢いよく上昇してきた。春香はそれを抑え込もうとした。だが抑えきれず春香のストッパーは吹き飛んだ。そしてその「なにか」を受け入れた瞬間、霧が晴れるように感じた。いつもは邪魔をしてくる耳鳴りも春香の背中を押してくれる。

 

 春香は読んでいた本を叩きつけるように机に置いて乱暴に立ち上がった。椅子の勢いは強く、後ろの裏切り者の机とぶつかって押して、大きな音を立てた。

 

 クラス中が春香に注目している。

 

 春香は教室の後ろで群れている女どものほうへ歩いていく。目の前に立つ。春香はその中のリーダー格の女の髪を掴んだ。

 

 周りがざわつく。

 

 春香は相手を殴りつけるような感覚で怒鳴った。


「私にだってプライドがあるんだ!!」


 髪を掴まれた生徒は状況が飲み込めず固まっている。教室も時間が止まったかのように静まり返った。掴んだ髪を引っ張って頭を横に投げる。そして群れてしか行動できない女たちを睨みまわす。


 チャイムが鳴った。だが、誰一人として授業を受ける準備をしない。


 全員が啞然としているなか、遅れて先生が教室に入ってきた。


「もうチャイム鳴ったでしょ。席に座って」


 その指示に春香が一番最初に従った。春香は黙って自分の席に戻って教科書を取り出した。


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