天照大御神2
長い参道を歩いて天之御中主神の豪邸に到着するとたくさんの神様とモノで溢れかえっていた。そこにいる神様全員が和服を着ていて洋服の春香は悪目立ちしていた。それなのに周りの神様は春香には目もくれず、わいわい物色している。
そんな中、シャツに短パンの子どもが春香のもとに近寄ってきた。
「やっと来てくれた。待ってたんだよ」
笑顔の天之御中主神は口いっぱいになにかを頬張っている。
「どうしたのこれ」
春香は敷地いっぱいに散乱している大小様々なモノを見渡す。
「天照のお土産」
天之御中主神は食べていたものを飲み込んでゲップをした。
春香は足元に転がっている十五センチメートル四方の箱を拾ってみてみる。手に取ってみると軽くて、振るとカサカサとかさばる音がするがパッケージには外国語が印刷されていて、なんて書いてあるのか全く読めない。
「アマテラス? お土産?」
「太陽の神、天照大御神。ずっと遊学してたんだ。それで昨日帰ってきた」
「神様が遊学…。どこの国に?」
「太陽の神話が伝わる国に片っ端から行ってきたんだって」
「それでこのお土産。神様ってお金持ちなんだね」
向こうで何柱かがじゃんけんを始めている。欲しいものがかぶってしまったのだろうか。ある神は深刻に、ある神は楽しんで、ある神は目移りしながら。各々がターゲットにそれぞれの思いを込めて、三択の中から一つの手を選択している。
その周りでは誰が勝ち残るかを賭けている神がいる。勝って喜ぶ者も、負けて残念そうにする者もすぐに笑いあって肩を組んでいる。
「天照は特別。要領がいいからね。そうそう、袋は持ってきてくれた?」
「持ってきたけど」
春香は肩にかけている中学校指定のサブバックを見せる。
「それじゃあ全く役に立たないよ」
天之御中主神は巨大なトーテムポールを指差す。
「あんなのどうやっても持って帰れるわけないでしょ」
大体、天照大御神はどうやって持って帰ってきたのか。
「あーちゃーん」
人だかりのあるほうから誰かが大きな声で誰かを呼びながら手を振って走ってくる。
横を見ると天之御中主神が手を振り返していた。そしてあの人が天照だよと教えてくれた。
天照大御神は春香より少し年上の女の子だった。腰まである黒髪はストレートで艶がある。白いスカートは膝下丈。薄い黄色のシャツ。シンプルな黒のスニーカーでコーディネートに引き締め感を演出している。
天之御中主神同様、現世にいたらこの人が神様だなんて誰も気づかない。
「どう? 気に入ったのあった?」
大和撫子はキラキラした目で子どもを見下ろす。対する子どもは、光り輝く眼差しを無視して自分の横に立っている中学生を指差す。
「あれ、人間」
天照大御神は目をパチクリとまばたきさせて高天原訪問二回目の春香を確認する。そして満面の笑顔で両手をとって握ってきた。
「ごめーん。小さくて気がつかなかった! アハハッ」
春香は唖然とする。陰でコソコソと悪口を言われたことはあったが面と向かって言われたのは初めてだった。それに春香は大柄ではないが小柄でもない。
「神力の話だから気にしないで」
天之御中主神のフォローに、天照大御神がンフフと笑う。
「この子は野口春香ちゃん」
前回と同じように紹介されて春香はよろしくおねがいしますと頭を下げる。
「よろしくー。私のことは天照って呼んで。ねーこの置物チョーかわいくない?」
天照は蛙のように認識できる生き物を模ったガラス細工をポケットから取り出した。カラフルに色づけされていて毒々しい。
「蛙が好きなんですね」
「蛙なのかな。わかんない。なんだろう」
天照大御神は手に持った四つ足の生き物を見つめて悩んでいる。
「自分で買ったんじゃ…」
「これはどうだろー。買ったんだっけ? 貰ったんだっけ?」
天之御中主神はいつの間にか向こうで箱を開けてお菓子を頬張っている。そして近くにいた神にこれおいしいよと話しかけている。
「四十年くらいあっちこっち行ってたから、もうなにがなんだかわからなくって。まあそんなことはいいじゃん。はーちんはどう、気に入ったのあった?」
「えっ? えっと、まだ見つけてないです」
はーちんとは私のことだろうかと疑問に思ったが黙って受け入れることにする。
「マジ気合い入れて選んできたの。これとかいいんじゃない?」
天照大御神は足元に落ちていた正方形の紙箱を拾って渡してきた。
「なんですかこれ?」
包装に描かれた文字はぐにゃぐにゃしていて、くるくるしている。
「スフィンクスクッキー! おいしいから食べて」
天照大御神は紙箱を春香に強引に渡すと次の神のところに走っていった。




