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第62話:老将の心、若き主の器 ~厳忠、心服す~

第62話:老将の心、若き主の器 ~厳忠、心服す~


並州の復興が緒に就いたとはいえ、全ての道程が平坦であったわけではない。丁原に長年仕えた旧臣の中には、若き呂布の統治方針に、未だ懐疑的な目を向ける者も少なからず存在した。その筆頭が、辺境の守りを長年務めてきた老将・厳忠であった。彼は頑固一徹な気性で知られ、丁原への忠誠心は誰よりも強かった。


ある日の軍議の席。陳宮が提案した新たな徴兵制度と辺境防衛の再編案に対し、厳忠が真っ向から異を唱えた。

「呂公!そのようなやり方では、辺境の民の暮らしは成り立ちませぬ!長年、丁原様が築いてこられた方途を軽々しく変えるなど、時期尚早かと存じまする!」

厳忠の声は、静まり返った政庁に鋭く響き渡った。他の旧臣たちは固唾を飲んで呂布の反応を見守る。力で押さえつけるか、あるいは無視するか。多くの者が、若き主の対応を測りかねていた。


しかし、呂布の反応は彼らの予想を裏切るものであった。

「厳忠将軍。そなたの懸念、もっと詳しく聞かせてはくれぬか」

穏やかな声であった。呂布は厳忠を威圧するでもなく、ただ真摯に彼の意見に耳を傾けようとしていた。

軍議の後、呂布は厳忠を私室に招いた。二人きりになると、呂布は自ら茶を注ぎ、厳忠に語りかけた。

「将軍が守ってこられた辺境の地は、俺も幼い頃より馴染み深い。丁原様からも、その地の重要性は幾度も聞かされておる。将軍が何を案じておられるのか、包み隠さず教えてほしい」

厳忠は、若き主の意外なまでの謙虚さと真摯な態度に、少なからず戸惑いながらも、長年抱えてきた辺境の民の苦境や、その土地独自の防衛体制の必要性を、熱を込めて訴えた。それは、中央の机上の論理だけでは到底見えてこない、現場の切実な声であった。


数日後、呂布は少数の供だけを連れ、厳忠が守る辺境の砦へと自ら足を運んだ。そこで彼は、厳忠が指摘した問題点を自身の目で確かめ、民の声に直接耳を傾けた。そして、厳忠が長年かけて築き上げてきた、その土地の特性に合った防衛システムと、民との間に育まれた信頼関係の重要性を、深く理解したのである。

九原に戻った呂布は、陳宮に命じ、厳忠の意見を最大限に尊重する形で、辺境の制度改革案を修正させた。さらに、厳忠が長年訴えていた物資の不足に対し、優先的に配給するよう手配したのだった。


この呂布の行動は、厳忠の心を大きく揺さぶった。彼は、呂布が単に武勇に優れただけの若者ではなく、人の意見に真摯に耳を傾け、現場の実情を理解しようと努める度量を持った指導者であることを、身をもって知ったのだ。

後日、厳忠は呂布の前に進み出て、深く頭を垂れた。

「呂公!この老いぼれ、見る目がございませんでした!貴方様こそ、亡き丁原様のご遺志を継ぎ、この並州を、いや、天下を治めるに相応しいお方!この厳忠、これより先、呂公のために我が身命を賭してお仕えいたしまする!」

厳忠の心からの忠誠の言葉は、他の旧臣たちの心にも深く響き渡り、呂布の下での新たな結束を、より確かなものへと導いた。若き主は、力ではなく、その器量によって老将の心を掴んだのである。

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